アパートを建てると節税になる?そのからくりは?

「アパートを建てると相続税の節税ができます! こんなに広い土地を遊ばせているのでしたら、活用してアパートを建てませんか?」
郊外で自分の畑を耕していたら、こんな風に不動産の営業マンが売り込みに来たことはありませんか?

さて、アパートを建てると相続税を抑えられるとはどういうことなのでしょうか?
本当に節税になるのでしょうか?

今回は、この点について検証してみたいと思います。

自用地と貸家建付地の評価の違い

アパートを建てると何が起こるかというと、相続税を計算するときの土地の評価額が下がります。
評価額が下がるからくりは、自用地と貸家建付地の評価の違いにあります。
自用地とは、他人が使用する権利のない土地のことを指します。つまり、土地を持っている所有者が自由に使える土地のことです。
貸家建付地とは、アパートなどの貸家が建っている土地です。
貸家が建っているということは、その土地は家を借りている人が使うので、土地の所有者は自由に使えませんね。
そのため、土地の評価額が下がるのです。

では、どのくらい下がるのか見ていきたいと思います。
自用地は100%自分で使えるので、自用地の評価額を100とします。

これに対し、貸家建付地の評価は次のように計算します。
自用地×(1-借地割合×借家権割合)=貸家建付地の評価額
(※正確な計算式は、自用地×(1-借地割合×借家権割合×賃貸割合)です。賃貸割合については後で述べます。)

借地割合は場所によって異なりますが、おおよそ0.6のところが多いので0.6とします。借家権割合は全国一律の0.3で計算します。
つまり、自用地×(1-0.6×0.3)=貸家建付地の評価額となります。
計算すると、100×(1-0.18)=82になります。

つまりアパートを建てると、
自用地:貸家建付地=100:82
となり、土地の評価額が下がるのです。
土地の評価額が下がれば、それにかかる相続税も安くなりますよね。

建物の評価は?

「土地の評価額が下がることは分かった。でも更地に建物を建てたら、建物の分、相続税がかかる不動産が増えてしまうじゃないか?」
おっしゃるとおりですね。
では、建物の評価の方も見ていきましょう。

建物はお金を払って建てますね。お金の評価額は、ずばり金額そのままです。
相続開始時に残っていた現金預貯金も、相続税の対象になることは皆さんご存知のとおりです。
そこで、手持ちの現金を使って家を建てることにします。

ここで、アパートを建てるお金(建築費)の評価額を土地と同じく100とします。
100のお金を使って、建物を建てることとします。

建物の相続税を計算するときは、固定資産税額で評価します。
固定資産税額の目安は、建築費(建物本体の)の大体50~70%くらいです。
ここでは60%とします。
100×0.6=60
ここで100の評価額のお金が、60の評価額の建物に変わりました。

さて、建てた建物はアパート、つまり貸家ですから自分で自由に使えません。
そのため、土地の時と同じく、自宅より評価額が下がります。
固定資産税評価額×(1-借家権割合)=貸家の評価額
こちらも借家権割合は全国一律0.3です。
つまり固定資産税評価額×(1-0.3)です。
先程計算した建物の固定資産税評価額が60なので、
60×(1-0.3)=42
となります。
アパートを建てたことで、100のお金が42の価値の建物に変わってしまいました。

全体で見ると?

さて、手持ちの財産である100の評価額の土地(更地)と100のお金が、アパートとその敷地に化けて結局どうなったかというと、
土地(更地)100+お金(建築費)100=200 → 土地(貸家建付地)82+アパート(貸家)42=124
200ではなく124の評価のものになったため、全体としてかかる相続税が安くなりました。

ここで具体的に金額を入れて、計算をしてみたいと思います。
財産は現金1億円、土地も1億円、合計2億円だったとします。

現金1億円のうち、8000万円を使ってアパートを建てます。
土地は、1億円×(1-0.6×0.3)=8200万円に評価が下がります。
8000万円の現金は建物になり、8000万円×0.6=4800万円の評価額になりました。
そして建物はアパート(貸家)なので4800万円×(1-0.3)=3360万円に更に評価額が下がります。
残った現金2000万円、地8200万円、アパート3360万円を合計すると1億3560万円です。

何もしないと2億円の遺産に相続税が掛かるはずが、1億3560万円に対して相続税がかかることになります

では、自己資金でアパートを建てる場合と、借金をして建てる場合とではどう変わるでしょうか。
財産は、どちらの場合も預金1億円、土地1億円、合計2億円だったとします。
自己資金で建てる場合は上記のとおりの計算です。

手元の預金を使いたくないので、アパートの建築費8000万円を銀行から借りて建てたとします。
土地・建物の評価額の計算は、借金をしてアパートを建てた場合も同じです。
1億円の預金は使っていませんから、アパート建築後の財産額は、預金1億円、土地8200万円、アパート3360万円の合計2億1560万円です。
ただし、借金8000万円がありますから、2億1560万円から借金8000万円を引きます。
引くと、財産額は1億3560万円になります。

自己資金で建てても、借金をして建てても正味の評価額は同じになります。
結果としては節税効果は同じになるのです。

アパートを建てると節税になりますよ、という営業マンの話は本当でした。

しかしながら、
「アパートを建てると節税になるんだな、よし、ウチも建てるか」
と言って、安易にマンションやアパートを建てるのはやめましょう。

上記の計算は、あくまで机の上での計算上はこうなる、という話です。
前段で、貸家建付地の正確な計算式は、自用地×(1-借地割合×借家権割合×賃貸割合)であると※に書いてあったことに気がついたでしょうか?
賃貸割合とは、アパートの部屋数に対して、「入居者がいる部屋がいくつあるのか」の割合です。
アパートを建てたものの、誰も入居者がいなかったら、賃貸割合は0です。
つまり、自用地×(1-0.6×0.3×0)=評価減なし、というわけです。
10部屋のうち5部屋が埋まっていたら、自用地×(1-0.6×0.3×0.5)になります。
建てたはいいものの、入居者が思うように集まらないと土地の評価額は試算したようには下がらないのです。

アパートやマンションは事業ですから、収益が出るように経営をしなければなりません。
当然、入居者を募集しなければなりませんし、管理や修繕などもしなければなりません。

建築費以外の費用や手間がかかるわけです。
こんな面倒くさいんだったら建てなければ良かった、と後悔することも。
そもそも節税は自分のためでなく、残される相続人のためにやるものですよね?
不動産経営は興味がある、好きだ、慣れているというならともかく、「不動産経営は初めて」と言う人が、自分のためにはメリットが全然ないものを、節税のためだけにやる意味は果たしてあるでしょうか?

アパートを建てたことで、節税はできても相続人には迷惑になる可能性もあります。
広い更地だったら分筆して分けることもできたかもしれないのに、遺産分割がしにくくなる可能性もあるのです。
相続税の申告期限までに遺産分割協議ができなかったら、そもそもアパートを建てて節税した意味が無くなってしまいます。

まず、アパートを建てるために資金を使ったことで、一番分けやすい現金を大きく減らしています。
誰がアパートを相続するかで争いになった場合には、アパートを貰えなかった相続人に渡す現金がなくて困る可能性はないでしょうか。
アパートを建てれば家賃収入が入るから、現金は増えると思うでしょうが、入居者が思うように集まらない物件だったら、現金は減ったままです。
また、入居者が思うように入らない物件だった場合には、そもそも相続人は誰も欲しがらない、という可能性もあります。

ついつい「節税」というところに目が行きがちですが、相続対策は税金面だけでなく、遺産分割など全体のことを考えてやってくださいね。

 

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