配偶者居住権は相続税の節税になるって本当?

配偶者居住権とは、残された配偶者が、亡くなった配偶者(被相続人)の所有する建物に居住していた場合に、一定の要件を満たすと無償でその建物に住み続けることができる権利です。

さて、「配偶者居住権を設定すると相続税の節税になる」という話を聞いたことはないでしょうか?
この話は本当なのでしょうか?
本当だとしたら、なぜ節税になるのでしょうか?
今回は、この点について検証してみたいと思います。

配偶者居住権の評価

配偶者居住権は、遺言による贈与(遺贈)、死因贈与契約、遺産分割協議のいずれかによって設定します。

遺産分割をするのには、誰がどのくらいの価値のものをもらうのかわからないと話合いができませんね。
そこで配偶者居住権を設定するとなったら、配偶者居住権がいくらの評価額になるのか、計算をすることが必要になってきます。

不動産は、共有にするのでなければ分割して相続することはできませんよね。
通常、不動産一つにつき、所有権は一つです。

ところが、配偶者居住権を設定すると、あたかも一つの不動産を切って分けるようなイメージになります。
どういうことかと言うと、配偶者居住権を設定した不動産は、自宅は配偶者居住権と所有権に、建物が建っている敷地は敷地利用権と敷地所有権に分けて、相続することになります。
つまり自宅の土地建物を、使う(住む)権利と所有する権利に分けてしまうわけです。

そうすると今度は「二つの権利に分けるというのは、分かったけれど、配偶者居住権や敷地利用権の評価額はどう出すの?」という疑問が出てきます。
配偶者居住権を取得した配偶者は、所有者に賃料を払う必要はありません。
配偶者居住権は売れませんから相場もありません。

では、どうやって配偶者居住権の評価額を出すのかと言うと、下記のような計算式が用意されているのです。

【配偶者居住権の評価額】
居住建物の時価-居住建物の時価×{(残存耐用年数-存続年数)÷残存耐用年数}×存続年数に応じた法定利率による複利原価率

※ここで言う建物の時価とは、相続税法第22条に規定する時価です。固定資産税評価額を使います。
固定資産税評価額は、納税通知書に載っていますので、そちらをチェックしましょう。

※残存耐用年数=所得税法上の耐用年数×1.5-築後経過年数です。
耐用年数は、建物の構造別に定められた耐用年数で、下記のように定められています。

構造・用途耐用年数
木造・合成樹脂造22年
木造モルタル造20年
鉄骨鉄筋コンクリート
鉄筋コンクリート造
47年
れんが造・石造・ブロック造38年
金属造(4ミリ超)34年
金属造(3ミリ超~4ミリ以下)27年
金属造(3ミリ以下)19年


※存続年数は、配偶者居住権が存続する年数です。
ほとんどの場合、終身で配偶者居住権を設定するので、「完全生命表」に基づく平均余命を入れます。
「完全生命表」は、厚生労働省が、男女別に作成し公表しているもので、国勢調査及び人口動態統計を基に、5年ごとに改訂されています。

※存続年数に応じた法定利率による複利原価率は、民法404条の規定に基づく法定利率です。この法定利率は3年ごとに見直すこととされています。つまり、配偶者居住権が設定された日に適用される法定利率を用います。
現時点では3%です。

見てのとおり、計算するには納税通知書を見たり、完全生命表を確認したりなどすることが必要です。
配偶者居住権を設定するときの最新の表や利率を使わないといけませんから、計算にはちょっと手間がかかります。
「自分で計算するにはちょっと・・・」という場合や「正確に計算できたか心配だな」という場合には、税理士に計算してもらいましょう。

配偶者居住権のついた建物の所有権や、敷地の利用権、敷地の所有権の評価額の計算式は、それぞれ下記のようになっています。
【配偶者居住権のついた建物所有権の評価額】

居住建物の時価-配偶者居住権の価格

【配偶者居住権に基づく敷地利用権の評価額】
居住建物の敷地の時価-居住建物の敷地の時価×存続年数に応じた法定利率による複利原価率

【配偶者居住権のついた建物の敷地の評価額】
居住建物の敷地の時価-敷地利用権の価格
※ここで言う敷地の時価とは、相続税法第22条に規定する時価です。

節税になるというのは?

さて、計算式をずらっとご紹介しましたが、結局どこでどうしたら節税になるのか見てみましょう。

わかりやすく説明するために先にあげた計算式は脇においておき、ざっくりとイメージを説明します。

配偶者居住権を設定しなかった場合

夫の遺産が不動産(自宅土地建物)が6000万円、預貯金が6000万円の合計1億6000万円、相続人が妻、子が二人だったとします。
一次相続では、自宅土地建物を妻が相続、預金を子二人で2分の1ずつ相続しました。
妻は配偶者控除が使えるので、妻が払う相続税は0円です。
子どもたちは相続税を支払います。

その後妻が亡くなったので、妻の遺産を子二人が相続します。
妻の遺産の中には、夫から相続した自宅土地建物(価値6000万円)があります。
子二人が相続するときは、当然、この自宅土地建物6000万円に相続税が掛かります。
(※債務や基礎控除、小規模宅地の特例を考慮していません。シンプルに説明するため、妻自身の遺産も考慮していません。)

配偶者居住権を設定した場合

上記と同じく、夫の遺産が不動産(自宅土地建物)が6000万円、預貯金が6000万円の合計1億6000万円、相続人が妻、子が二人だったとします。
今回は、一次相続で配偶者居住権を設定しました。
自宅土地建物を所有権と配偶者居住権に分け、子の一人が配偶者居住権の負担付所有権を取得、妻は配偶者居住権をもらい預貯金の半分も、もらいました。
(わかりやすくするためにここでは、配偶者居住権(+敷地利用権)の価値を元々の不動産の価値の2分の1だったと仮定します。)

妻は3000万円の価値の配偶者居住権と3000万円の預金、合計6000万円の遺産を貰いましたが、配偶者控除が使えるので、妻が払う相続税は0円です。
子どもたちは相続税を支払います。
ここまでは、相続税の支払いに差は生じません。

違いが出てくるのが二次相続です。
何年か経って、妻が死亡しました。

妻が亡くなると同時に配偶者居住権は消滅します。
消滅したので、3000万円の価値が消えてしまいました。
一次相続で、既に子の一方が自宅土地建物の所有権を取得しているので、妻の遺産は預貯金3000万円のみです。
相続税が掛かるのは、この3000万円に対してだけ、ということになります。


配偶者居住権を設定しなかった場合は、二次相続のときに残っている遺産が6000万円、設定したときは3000万円です。
これに対して相続税が掛かるわけですから、配偶者居住権を設定した方が節税になる、ということがお分かりいただけたでしょうか?

さて、節税になる可能性があるのは、あくまで配偶者居住権を取得した配偶者が死亡した場合だけです。
配偶者居住権を設定して終生妻が自宅に住み続けられるようにしたものの、途中で老人ホームに入ることになり配偶者居住権を放棄しよう、と思った場合は、所有権を取得した子に贈与税がかかってしまいます。放棄してもらったおかげで、子は自宅に自分が住むなり売却できるなり好きにできるようになった、つまり利益を得たので課税、というわけです。
「ただであげるから贈与税がかかるのね。じゃあ、放棄する代わりに、子からその分お金をもらいましょう。」と言った場合、今度は妻の方に譲渡税が掛かります。配偶者居住権は売買できないとはいえ、子からお金をもらったことであたかも売買のようになっているからです。

以上のことから、終生自宅に住み続けるかどうか、実際にはどうなるかわからないのに、節税だけを目的として配偶者居住権を設定することはお勧めしません。
自宅建物が建っている地域やそもそもの財産の状況によっては、計算してみたら大して節税効果は無いかもしれません。
配偶者居住権を設定しようかなと考える場合には、配偶者居住権を設定した場合のデメリットや、今後のライフプラン、実際どれほど節税になりそうなのかなど、まずは、よく検討してみてくださいね。

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