法定後見の3つの類型

法定後見制度には、本人の判断能力に応じて、3つの類型があります。
3つの類型とは、成年後見、保佐、補助の3種類です。
後見については知っている人が多いのですが、保佐や補助については具体的な内容を知らない方が意外と多いようです。
実際、法定後見制度において、保佐や補助の申立てをして、利用される方はかなり少ないです。
そこで、今回は、成年後見、保佐、補助の違いについて、ご説明したいと思います。

概要

まずは、ざっくりと違いと共通点について説明したいと思います。
法定後見は、支援を受ける本人の判断能力の低下の程度によって分けられ、どれを利用するかによって、本人及び支援者の呼ばれ方も違います。

補助保佐成年後見
判断能力低下の程度軽い中程度重い
本人(支援を受ける人)被補助人被保佐人被後見人
支援する人補助人保佐人後見人

3つとも、申立てや基本的な業務の流れは、ほぼ同じです。
本人の財産管理と身上監護の支援を行う、という目的も同じです。
事実行為や身分行為は支援の対象外である点も同じです。
(事実行為:本人の身の回りのお世話や看護など。身分行為:結婚、離婚、子の認知、養子縁組、遺言など。)
一度申立てをしたら、本人が亡くなるまで支援が続く、というところも共通しています。

支援する人の権限の範囲はそれぞれ異なります。
違いをざっくりとですが、下記の表にまとめましたのでご覧ください。

権限の範囲補助保佐成年後見
代理権
同意権
取消権

代理権とは、本人に代わって契約等をする権限です。

同意権とは、本人が行う契約等に同意をする権限です。
同意権が与えられている法律行為については、本人が単独で行ってもそれだけでは完全に有効にはなりません。
保佐人や補助人の同意があって、初めて有効なものになります。
成年後見人には同意権はありません。
本人が法律行為をするにあたって後見人が同意をしたとしても、本人が単独で法律行為をすることができないからです。

取消権とは、本人が行った契約等について取り消す権限です。

おおまかなところが分かったところで、それぞれの類型を詳しく説明していきたいと思います。

成年後見

成年後見の対象となる人は、精神上の障害により判断能力を欠く常況にある人です。
ここで言う「精神上の障害」とは、認知症、知的障害、精神障害のほか、自閉症、事故による脳の損傷、脳の疾患を原因とする精神的障害も含まれます。
「判断能力を欠く」
とは、自分がした法律行為の結果について合理的な判断をする能力がないことを言います。
「常況にある」とは、一時的に判断能力を回復することはあっても、通常は判断能力を欠く場外にある、ということを意味しています。
具体的には、日常の買物も自分ですることができず、誰かに代わってやってもらう必要がある人、ごく日常的な事柄(家族の名前、自分の居場所など)が分からなくなっている人、完全な植物状態になっている人などが対象となります。

成年後見人の権限

成年後見人は、成年被後見人の財産を管理する権限、成年被後見人の財産に関する法律行為について成年被後見人を代理する権限を有します(民法859条1項)。
成年後見人は、成年被後見人の法定代理人ですから、成年被後見人がした契約等の法律行為を取り消すこと(民法9条、120条1項)ができます。
つまり、財産管理権、代理権、取消権、という3つの権限を付与されているのです。

成年後見人の代理権は全面的・包括的なものですが、制限もあります。
例えば、本人の居住用不動産について処分をするには、家庭裁判所の許可を得る必要があります。
また、本人と利益が相反する行為(例:成年後見人と本人の間で売買をするなど)については、本人を代理することはできません。
本人が行う身分行為についても後見人が代理権を行使できる対象になりません。

取消権については、原則として、本人がした法律行為はすべて、成年後見人が取消権を行使できる対象となります。
ただし、本人がした日用品の購入その他日常生活に関する法律行為や、身分行為は、成年後見人は取消権を行使できません。

保佐

保佐の対象となる人は、精神上の障害により判断能力が著しく不十分な人です。
例えば、日常の買物程度は自分でできるが、重要な財産行為は自分一人では適切に行うことができず、常に他人の援助を受ける又は誰かに代わってやってもらう必要がある人や、認知症の症状が、いわゆるまだらの状態(日によって認知症の症状などが出る日と出ない日がある、又はある事柄はよく分かるが他の事はまったく分からない、といった状態)が重度の人です。

保佐人の権限

保佐人には、同意権・取消権が与えられています。

同意権・取消権の対象となるのは、民法13条1項に掲げられた次の10の事柄です。
10の事柄の内容は以下のとおりです。

①元本を領収し、またはこれを利用すること
元本とは、利息や賃料などを生み出すもととなる財産を指します。
例えば、貸している元々のお金や、人に貸している不動産が元本にあたります。
つまり元本の領収とは、元本の返還を受けることです。

②借財または保証をすること

③不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること
例えば、不動産に抵当権等の担保権の設定をすること、金融機関への金銭の預け入れ、土地賃貸借契約の解約、株券の質入れなどが含まれます。

④訴訟行為をすること

⑤贈与、和解または仲裁合意をすること
ここで言う贈与とは、本人が第三者に贈与をする場合に限られ、贈与を受ける場合は含まれません。

⑥相続の承認もしくは放棄または遺産の分割をすること
相続の承認には、単純承認と限定承認の両方が含まれます。

⑦贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、または負担付遺贈を承認すること

⑧新築、改築、増築または大修繕をすること

⑨民法602条に定めた期間を超える賃貸借をすること
民法602条の期間とは、次のとおりです。

ア 樹木の栽植または伐採を目的とする山林の賃貸借 10年
イ その他の土地の賃貸借 5年
ウ 建物の賃貸借 3年
エ 動産の賃貸借 6か月

⑩上記①~⑨に掲げる法律行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人)の法定代理人としてすること

保佐人の権限の拡張

以上を見てお分かりいただけたと思いますが、保佐人の権限は、成年後見人に比べて狭いです。
民法13条1項に掲げられた事項だけの同意権・取消権では不十分だと考えた場合には、家庭裁判所に請求して同意権の範囲を拡張することができます(同意権拡張の審判:民法13条2項)。
逆に、同意権を拡張してもらった後、本人の能力が回復してきたなどの理由がある場合には、追加してもらった同意権のその全部または一部を取り消すこともできます(民法14条2項)。
つまり、本人の判断能力の減退や回復の程度に応じて、同意権・取消権の範囲を柔軟に調節することができるのです。

ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為は、同意権・取消権の対象とすることはできません。

保佐人には、基本的に代理権はありません。
特定の法律行為についての代理権付与の申立てを家庭裁判所にすることによって、はじめて代理権が付与されます。
保佐人の代理権は、成年後見の代理権のように全面的・包括的なものではなく、特定の法律行為に限られます。

代理権の範囲は、代理権付与の申立てをした時に、当事者がどの法律行為に代理権を付与してもらうか選択します。
後日、代理権の全部又は一部を取り消すこともできます。

ちなみに代理権付与の審判がされるためには、本人の同意が必要です。
また、代理権付与の審判により、保佐人に代理権が与えられても、本人の行為能力が制限されるわけではありません。
したがって、代理権付与の審判によって定められた「特定の法律行為」については、それが上記にあげた10の保佐人の同意を必要とする法律行為とされていない限り、本人(被保佐人)は保佐人の同意を得ることなく、単独で有効にすることができます。

補助

補助の対象となる人は、精神上の障害により判断能力が不十分な人です。
例えば、重要な財産行為について、自分でできるかもしれないが、適切にできるかどうか危惧がある人や、認知症の症状がいわゆるまだら状態で、その程度が軽度の人が対象となります。

補助人の権限

補助人には、保佐人と同様、同意権・取消権が与えられます。

ただし、同意を得ることを必要とする法律行為は、民法13条1項各号に定められた法律行為のうちの一部に限られます(民法17条)。
つまり、同意権を付与されるのは、上記保佐人のところであげた①~⑩の法律行為のうちの一部になります。
①~⑩の中からどれに同意権を付与してもらうかを選択して、家庭裁判所に申立てをするのです。
同意権付与の申立てについて、本人以外が申立てをする場合には、本人の同意が必要です。
同意権付与の審判は、後日、その全部または一部を取り消すことができます。
つまり、保佐と同様、本人の判断能力の減退・回復の程度に応じて同意権の範囲を柔軟に調節することができます。

補助人についても、保佐人と同様、基本的に代理権はありません。
特定の法律行為についての代理権付与の申立てによってはじめて代理権が付与されます。

代理権付与の審判がされるためには、本人の同意が必要です。
代理権の範囲は、代理権付与の申立てをした時に、当事者がどの法律行為に代理権を付与してもらうか選択します。
後日、代理権の全部又は一部を取り消すこともできます。

また、代理権付与の審判により、補助人に代理権が与えられても、本人の行為能力が制限されるわけではありません。
したがって、代理権付与の審判によって定められた「特定の法律行為」については、それが同意権付与の審判により、補助人の同意を必要とする法律行為とされていない限り、本人(被補助人)は補助人の同意を得ることなく、単独で有効にすることができます。

申立ての際には、本人の判断能力の程度が保佐や補助相当で保佐人や補助人が選任されたとしても、その後認知症などが進み、判断能力が更に低下してしまうこともあります。
その場合、保佐や補助では、支援者の権限が足らず、本人の権利保護を十分にすることができなくなってしまいます。
そのような時には、改めて申立てをして成年後見に移行することが可能です。

以上、今回は法定後見の3つの類型について、ご説明しました。
法定後見は、判断能力の低下の程度が軽度なうちから利用できること、低下の程度に応じて、支援者の権限の範囲が異なることがお分かりいただけたでしょうか。
法定後見制度を利用したいと考えた場合には、是非上記の違いを踏まえたうえでご検討いただければと思います。

関連記事

  1. 障害のある子と任意後見契約

  2. 任意後見契約 — 手続の流れと必要書類

  3. 任意後見契約の3つの形態

  4. 任意後見契約の受任者を複数にすることはできる?

  5. 後見制度支援信託とは

  6. 成年後見人等の報酬額と後見人に親族ではなく専門家が選任される目安は?