「自分が亡くなった後、残った財産をあげたい人がいるのだけれど、どうやってあげようかな?」
そう考えたときに出てくるのが、「遺贈」と「死因贈与」という方法です。
言葉は似ていますが、この二つは同じものではありません。
どちらも、自分の死後に財産をあげる(贈与する)方法であることには変わりはないのですが、手続や性質など、異なるところがあります。
今回は、この二つの違いについて説明したいと思います。
遺贈は遺言、死因贈与は契約
まず、遺贈とは、遺言によって遺産を贈与する、単独行為です。
単独行為とは、相手方の承諾なくして、一方的な意思表示で成立する法律行為です。
ちなみに遺産の全部を贈与することも、一部だけを贈与することもできます。
無償で贈与することも、負担付きで贈与することも可能です。
遺贈をするには、遺言書の作成が必要です。
死因贈与とは、財産を贈る人(贈与者)と受取る人(受贈者)の双方が、贈与者が死亡した時に、財産が贈与者から受贈者に移転することを約束する契約行為です。
こちらも全部の財産を贈与することも、一部だけを贈与することも可能です。
もちろん、負担付で贈与することも可能です。
死因贈与は口約束、つまり口頭ですることもできますが、受贈者が「生前に財産をくれるって言われた」と、話を聞いていない相続人に申し出ても「はい、どうぞ」と財産を渡してもらえる可能性はほぼゼロです。確実に贈与したいのであれば、やはり死因贈与契約書を作っておきましょう。
つまり、二つの大きな違いは、遺贈は、贈与者が一歩的に財産を贈ることを決められますが、死因贈与は、財産を贈るのに受贈者の承諾がいる、ということです。
撤回は?
「財産をあげようと思ったけど、やっぱりやめよう」と考え直した場合、自由に撤回はできるでしょうか?
遺贈の場合、遺言者(贈与者)は、生きている間であればいつでも撤回ができます。
ただし、新たな遺言を書き直したり、自己保管の自筆証書遺言であれば破り捨てるなど、遺言の方式に従って撤回することが必要です(民法1022条)
死因贈与も、原則としては、いつでも撤回できます。
ただし、負担付の死因贈与契約で、すでに負担が履行されていた場合には撤回できないとする判例(最判昭和57年4月30日)や、裁判上の和解として死因贈与契約を締結した場合には撤回できないとする判例(最判58年1月24日)もありますので、注意は必要です。
放棄できる?
受贈者の死後、「財産くれるって言われたけれども、やっぱりいらない」と考えた場合、放棄をすることは可能でしょうか?
遺贈は放棄が可能です。
ただし、特定遺贈か包括遺贈かによって放棄の方法は異なります。
特定遺贈の場合は、いつでも放棄が可能です。
包括遺贈の場合には、受贈者の死後、三か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をすることが必要です。
特定遺贈とは、〇〇銀行〇〇支店の預金を遺贈する、など財産を特定して遺贈する方法です。
包括遺贈とは、全財産、又は財産の〇分の1の財産を遺贈する、など財産の割合を指定して遺贈する方法です。
死因贈与の場合は、契約として成立しているので、受贈者の死後に放棄することはできません。
贈与者より先に受贈者が亡くなってしまった場合は?
遺贈も死因贈与も、贈与者が亡くなった後に効力が発生するものです。
では、贈与者より先に受贈者が亡くなってしまった場合の効力はどうなってしまうのでしょうか?
遺贈の場合、贈与者より先に受贈者が亡くなってしまった場合、無効になります。(民法994条)
したがって、受贈者の相続人が、亡くなった受贈者の代わりに贈与者から財産を受取るということもできません。
死因贈与契約の場合も、受贈者が、贈与者が亡くなる前に死亡してしまった場合には、契約の効力は生じません。
税金はどう違う?
どちらも死後に財産を贈与することには変わりはありませんが、税金面では差が出てきます。
特に不動産を贈与する場合には、注意が必要です。
相続税
遺贈であっても、死因贈与であっても、どちらも贈与税ではなく、相続税がかかります。
受贈者が贈与者の法定相続人でなかった場合には、法定相続人の2割増の相続税がかかります。
登録免許税
不動産の所有権移転登記を行う際にかかる登録免許税は、違いがあります。
【遺贈の場合】
・受贈者が法定相続人:0.4%
・受贈者が法定相続人以外:2%
【死因贈与の場合】
受贈者が法定相続人であっても法定相続人以外でも2%
不動産取得税
不動産取得税についても違いがあります。
【遺贈の場合】
・受贈者が法定相続人:非課税
(ちなみに法定相続人であるにもかかわらず、所有権移転登記後に税務署から不動産取得税の支払請求が来てしまうことが稀にありますが、もし請求が来てしまった場合には法定相続人であることを税務署に申し出ましょう。)
・受贈者が法定相続人以外:課税
【死因贈与の場合】
受贈者が法定相続人であっても法定相続人以外でも課税
その他の違い
その他にも、遺贈と死因贈与では以下のような違いがあります。
年齢による制限
年齢による制限
遺言は満15歳に達すれば一人で書くことが可能です。
つまり、満15歳になっていれば未成年であっても、法定代理人の同意を得ずに遺贈することが可能です。
これに対し、死因贈与は契約行為であるため、未成年がする場合には法定代理人の同意が必要です。
仮登記
死因贈与で、贈与する財産が不動産である場合には、贈与者が亡くなる前に所有権移転の仮登記をしておくことが可能です。
これにより、贈与をより確実にしておくことができます。
遺贈の場合には、仮登記をしておくことはできません。
いかがでしたか?
遺贈と死因贈与の違いについて、十分ご理解いただけたでしょうか?
死後に財産を贈与したい人がいる方は、上記の違いを知ったうえで、遺贈にするか、死因贈与で財産をあげるか、決めていただければと思います。