前回は、家族信託契約における、委託者、受託者、受益者について説明しました。
受託者とは、委託者から預けられた財産を管理したり、必要に応じて処分を行う人でしたね。
今回は、受託者の権限、義務や責任について、わかりやすく説明したいと思います。
受託者の権限
受託者には、信託財産の管理・処分等、信託の目的を達成するために必要な行為をする権限が広く与えられています(信託法26条)。
具体的に例を挙げますと、賃貸物件の収益を図る利用や運用を行う、不動産を売却する、などです。
不動産の購入や建物建設、銀行から借り入れなども行うこともできます。
ただし、行うことは、あくまで「信託の目的を達成するために必要」なものでなければなりません。
なお、信託契約書に定めておくことで、受託者の権限に制限をかけておくことも可能です。
受託者の義務
幅広い権限を持つ代わりに、受託者にはたくさんの義務が課されています。
具体的には下記のようなものがあります。
①信託事務遂行義務
信託の目的を達成するため、受託者は信託契約書の定めに形式的に従うだけでなく、その定めの背後にある委託者の意図に従って信託事務を処理しなければなりません(信託法29条)。
ここで「信託事務」とは、信託目的達成のために必要な行為、つまり信託財産の管理・処分などの行為を指します。
②善管注意義務
受託者は、信託事務を処理するにあたり、善良な管理者の注意義務をもってしなければなりません(信託法29条)。
「善良な管理者の注意義務」とは、業務を委任された人の職業や専門家としての能力、社会的地位などから考えて通常期待される注意義務のことです。
つまり、人の財産を預かって管理・処分をするわけですから、自分の財産を管理・処分をする時よりも、慎重に行う必要がある、ということです。
③忠実義務
受託者は、法令及び信託契約書に書かれた信託目的に従い、受益者のため忠実に信託事務の処理をしなければなりません(信託法30条)。
受益者に忠実でなければなりませんから、当然、受託者は受益者の利益に反する行為や利益を害する行為をしてはいけません。
④公平義務
受益者が2人以上いる場合、受託者はすべての受益者のために公平にその職務を行わなければなりません(信託法33条)。
⑤分別管理義務
受託者は、信託財産と受託者の固有の財産及び他の信託の信託財産とを、一定の方法により分別して管理しなければなりません(信託法34条)
「受託者固有の財産」とは、元々受託者自身のものであった財産のことです。
委託者から預かった信託財産と、元々の自分の財産、このほか他に預かっているものがあればそれともきっちり分けて、混ざらないように管理してね、というわけです。
分別管理をどのように行うかというと、例えば不動産であれば、信託の登記を行います。
金銭であれば、信託口口座を作り、そこに預かった金銭を入れて管理する。
このほか信託財産に係る帳簿を作成する、と言った方法があります。
登記、登録をしなければ、これが信託財産であると第三者に対抗できない(主張できない)ものについては、必ず登記・登録をしておかなければなりません。
つまり、これは信託財産である、ということを誰が見てもわかるようにして管理する必要があるということです。
⑥信託事務処理者の監督義務
受託者は、一定の場合を除き、信託事務を委託した第三者に対し、信託の目的の達成のために必要かつ適切な監督を行う必要があります(信託法35条)。
信託事務を自分の代わりにやってくれるよう頼んだことがあるなら、頼んだ相手がちゃんと仕事をしてくれているか、委託者は監督をしなければなりません。
⑦信託事務の処理の状況についての報告義務
受託者は、委託者又は受益者から求められたときは、信託事務の処理の状況等を報告しなければなりません(信託法36条)。
⑧帳簿等の作成等、報告及び保存の義務
受託者は、信託財産に係る帳簿その他の書類を作成、保存しなければなりません(信託法37条)。
具体的には、毎年1回、一定の時期に貸借対照表、損益計算書その他の書類を作成しなければなりません。
作成した帳簿等の書類については、受益者に報告しなければなりません。
また、これらの書類については10年間保存しなければなりません。
受益者から求められたときには、随時これらの書類を見せる必要があります。
受託者の責任
最後に、受託者の責任にどのようなものがあるか説明します。
まず、受託者には、その任務を怠ったなどの場合には、損失てん補責任及び原状回復責任があります(信託法40条)。
例えば、受託者が、信託財産の登記をしなかったなど適正な分別管理をしなかったことで、信託財産に損失を与えた場合には、その損失の穴埋めや本来の状態に戻す責任が生じる、ということです。
また、信託財産から支払わなければならない債務については、信託財産だけでなく、基本的に、受託者固有の財産も責任財産となり、受託者も債務(無限責任)を負うことになります。
つまり、信託財産から支払わなければならない債務について、信託財産では債務を払いきれなかった場合には、受託者自身の財産で残りの債務を払わなければならない責任を負う、というわけです。
以上、今回は受託者の権限、義務、責任についてご説明しました。
家族信託契約において受託者になろうかと考えた場合には、権限だけでなく上記のような義務や責任が発生するのだ、ということを念頭において、受託者に就任するかどうかをご検討いただければと思います。