日本人が国外で死亡・外国人が日本で死亡した場合、どの国の法律で相続手続をするのか?

日本人が国外で死亡した、または外国人が日本で死亡した場合、どの国の法律で相続手続をするのでしょうか?
これがわからないと、どう手続を進めてよいかがわかりませんよね?
今回は、いわゆる国際相続について説明をしたいと思います。

相続統一主義と相続分割主義

2つ以上の国にまたがる相続関係がどこの国の法律によって相続手続をするのかについては、2つの立場があります。

まず一つは、「相続統一主義」という立場があります。
遺産の種類、所在地を問わず、すべての相続関係を統一的に、被相続人(亡くなった人)の本国(被相続人が持っている国籍)の法律又は住所地の法律によって規律しようとする立場です。
相続統一主義を採用する国は、韓国、台湾、EU加盟諸国(イギリス、アイルランド、デンマークを除く)などがあります。

もう一つは、「相続分割主義」という立場です。
相続財産を不動産と動産に分け、不動産は不動産が所在する国の法律で、動産は被相続人の住所地の法律又は本国の法律によって規律しようとする立場です。
相続分割主義を採用する国は、アメリカ、イギリス、中国などがあります。

日本では、国際相続があった場合には、「相続は、被相続人の本国法による(通則法36条)」と定められています。
つまり、相続統一主義を採用しています。
したがって、日本国籍を持つ日本人が国外で死亡した場合は、日本の法律にのっとって相続手続を進めます。
また、例えば韓国の国籍を持つ韓国人が日本国内で死亡した場合には、韓国の法律にのっとって相続手続を進めることになります

ただし、「当事者の本国法によるべき場合において、その国の法律に従えば日本法によるべきときは、日本法による(通則法41条)」という定めもあります。
どういうことか、例を挙げて説明をします。
A国籍の人間Xさんが、A国で亡くなりました。
このXさんがA国だけでなく、日本国内にも不動産を持っていたとします。
日本では、「相続は、被相続人の本国法による」とされているので、Xさんの相続手続はA国の法律にのっとって相続手続をすることになります。
ところがA国の法律では、「相続財産のうち、不動産については不動産の所在する地での法律で手続をする」となっていたとします。
そうすると、Xさんの日本国内にある不動産については、日本国内の法律にのっとって手続をしていくことになるのです。
これを法律用語では「反致」と言います。

では相続税は?

相続税の課税においては、被相続人または相続人がその国の居住者である場合には全世界財産に課税し、非居住者である場合には自国に所在する財産に対してのみ課税するという原則が世界各国で一般に採用されています。

この原則は日本でも採用されています。
どういうことかもう少し具体的に言いますと、相続で財産を取得したときに外国に居住していて、日本国籍を持っていても日本に住所がない人は、取得した財産のうち日本国内にある財産だけが相続税の対象になります。
被相続人が外国籍であっても、日本国内に住所があった人は、日本の国内にある財産については日本の相続税が課せられ、日本の民法による法定相続人の数と法定相続分によって相続税を計算します。

日本国内の住所の有無の判定基準はどこにあるのかというと、相続開始前10年以内に国内に住所があったか無かったか、というところに線が引かれています。
住所の有無の判定は被相続人、相続人双方にあります。
被相続人については日本国籍の有無は問いませんが、相続人については日本国籍があるか無いかで相続税の課税状況が変わってきます。

詳しい内容が国税庁において図で説明されていたので、下記をご覧ください。

※1 出入国管理及び難民認定法別表第1の在留資格の者で、過去 15 年以内において国内に住所を有していた期間の合計が 10 年以下の者
※2  日本国籍のない者で、過去 15 年以内において国内に住所を有していた期間の合計が 10 年以下の者
※3 平成 29 年4月1日から平成 34 年3月 31 日までの間に「非居住外国人」から相続又は遺贈により財産を取得した場合は非居住制限納税義務者
「非居住外国人」とは、平成 29 年4月1日から相続又は遺贈の時まで引き続き相続税法の施行地に住所を有しない者であって日本国籍を有しない者をいう。
【図及び※の出典:国税庁】

図で言う、無制限納税義務者(水色で塗りつぶされている部分に当たる人たち)とは、国内財産・国外財産の全てに課税される人です。
制限納税義務者とは、日本国内にある財産のみに課税される人です。

さて、ここで一つ問題が出てくるのですが、各国において居住者等の判定基準、判定時点などが異なる場合、双方の国で「居住者」として判定され二重課税されてしまう可能性があります。
二重課税される可能性があるのは、外国にある財産だけでなく、日本国内にある財産についてもです。
日本の相続税法では、相続で「外国」にある財産を取得した場合に、その財産について外国の法令で相続税を課せられた場合には外国で課せられた相続税相当額を日本の相続税から控除することはできます。
が、日本国内にある財産について外国から相続税を課せられた場合にはその分を控除することができません。
こういった問題を解消するために「二国間租税条約」というものがあるのですが、残念ながら、日本が二国間租税条約を交わしているのは、今のところアメリカとだけであるようです。

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