戸籍収集のやり方

相続が開始して、亡くなった人の預貯金の解約などに銀行に行くと、まず「戸籍を揃えて提出してください」と言われます。
相続手続を進めるためにまず必要なのが、この「戸籍収集」です。
が、戸籍収集のやり方がわからず、手続が思うように進められない方も少なくありません。
そこで、今回は戸籍収集のやり方について説明したいと思います。

出生から死亡までの戸籍ってどういう意味?

銀行などに行くと、「亡くなった人の戸籍については『出生から死亡まで』の戸籍を用意してくださいね」と必ず言われます。
さて、「出生から死亡までの戸籍」とはどういう意味でしょう?

本人が亡くなって死亡届を提出した後、しばらくすると戸籍謄本にも本人が亡くなった事(除籍されたこと)が記載されますね。
除籍が記載された戸籍謄本には、本人の生年月日も死亡年月日も記載されています。
「生年月日も死亡年月日も載ってるじゃないの!? これ1通だけじゃダメなの?」
と、まずここで混乱される方が、一定数いらっしゃいます。

確かに、死亡届提出後に取り寄せた最新の戸籍謄本には、本人の生年月日も死亡年月日も載っています。
しかし、その最新の戸籍一通では、手続を進めることはできません。

なぜかと言うと、銀行などが「出生から死亡まで」と言っている意味は、本人の生年月日、死亡年月日のことを言っているわけではないからです。
「出生から死亡までの戸籍」で確認したいのは、亡くなった人の「法定相続人は誰なのか?何人いるのか?」なのです。
つまり銀行などは、それを確認するために、「遡って、亡くなった人が生まれた時から亡くなったときまでに作成された戸籍をひとそろいそっくり出してほしい」、と言っているのです。

なぜ、戸籍を遡って取り寄せる必要があるの?

「夫が死亡した戸籍に私も載っている。子どもたちの現在戸籍は子どもに取ってもらった。家族の関係はわかっているのに、なぜ昔の戸籍を取って来る必要があるのよ?」
そのように聞かれたこともありましたので、古い戸籍を取り寄せる理由を説明したいと思います。

結婚したことがある方は、記憶にあるかと思いますが、結婚すると親の戸籍から抜けて、配偶者と新しい戸籍を作成しますよね。
新しく作った戸籍には、自分と配偶者しか載っていませんね。(←お互い初婚だと思っていた場合の話をしています。)
子どもが生まれたら、自分たちの名前の下に子どもの名前が入ってきます。
その後、結婚した子どもたちは、自分たちの戸籍から抜けて(除籍)いきます。

さて、配偶者が亡くなりました。
本当に配偶者は初婚だったのか?
実は再婚で、前の配偶者との間に子がいたのではないか?

現在の最新の戸籍(現在戸籍)を見ただけでは、これが確認できません。
「夫の相続人はこれだけです。」
と銀行などに提出しても証明になりません。

結婚して新しい戸籍を作った際、転籍してくる前の配偶者の戸籍を、あなたは見たことがありますか?
見たことが無い人の方が多いのではないでしょうか。

実は、転籍する前に、結婚した、離婚した、死亡したなどの理由でその戸籍から除籍された人たちは、転籍した後の戸籍に載りません。
また、転籍後の戸籍に記載された人についても、転籍する前に離婚したことや子を認知したことなどは、転籍後の戸籍に記載されません。

つまり、今見ている戸籍だけではわからない、自分の知らない相続人がいる可能性がある、ということです。

例えば、自分たちの子の一人が結婚して、自分たちの戸籍から抜けた後、自分たちも別な所に引っ越して本籍も移した場合、新しい戸籍には自分たちと未婚の子の名前しか載りません。
転籍前に結婚して出て行ってしまった子の名前は、最新の自分たちの戸籍にはどこにも出てこないのです。

ほとんど戸籍を移さない人もいますが、引っ越しするたびに本籍を移す(転籍)人もいます。

「知る限り、あの人は結婚もしなかったし、親元から一切出なかったから転籍もしなかったはず」という人でも、取り寄せる戸籍が一通だけ、ということは、まずありません。
なぜなら度重なる法律の改正で、戸籍の様式が作り変えられているからです。
様式名をあげますと、「明治19年式戸籍」、「明治31年式戸籍」、「大正4年式戸籍」、「昭和23年式戸籍」、平成6年の法改正に伴う「現行戸籍」といったものがあります。
戸籍法の改正で新しい様式に作り変えられると、古い戸籍は「消除」されてしまいます。
この消除された戸籍を「改製原戸籍」と言います。
過去に結婚・転籍していなかったとしても、現在戸籍の他、「改製原戸籍」を取得する必要がある、というわけです。

戸籍取得のイメージは下記の図のとおりです。

結局、「法定相続人が誰で、何人いるか」を確認・証明するには、昔の戸籍をすべて取ってきて調べないとわからない、というわけです。
亡くなった本人が、生まれてから亡くなるまでに作成された戸籍を、改製原戸籍も含めてすべてつながるよう、漏れなく取り寄せないと確認ができないのです。

戸籍の請求先

さて、前置きが長くなりましたが、戸籍の収集方法にうつりましょう。

戸籍の請求は、本籍のある市区町村役場で請求します。
住民票がある市区町村役場ではありません。
住所と本籍が一致していない人も多いので、請求前に確認してくださいね。
既に亡くなった本人の最新の戸籍を取っていればご存知かと思いますが、窓口の名称は、たいてい「市民課」「住民課」です。

結婚その他の理由で転籍していたら、転籍前の戸籍がある役所に、転籍前の戸籍を請求します。
さらにその前にも転籍していたら、その前の戸籍がある役所に請求します。
その人が生まれた時までのものに行きつくまで、これを繰り返していきます。

遡っていくと、戸籍に書かれている村や町が、市町村合併などで無くなっていることがあります。
これもグーグルなどで検索すれば、現在はどこの市町村になっているのか調べられます

戸籍謄本は、窓口で請求するほか、郵送でも請求することができます。
現在の本籍や、遡った先の戸籍の所在地が遠方であることもありますよね。
このような場合には、ぜひ郵送請求をしましょう

郵送請求の方法

郵送請求の方法は、各市区町村役場のホームページで確認できます。
大体は下記のように請求します。

①まず、戸籍のある市区町村役場のホームぺージを見ます。
だいたいは「くらし・手続」や「届出・証明」といったところを探していくと、申請書や請求方法が見つかります。

②申請書をダウンロードし、プリンターで印刷して、必要事項を記入します。

③ホームぺージに記載された送付先に申請書を送ります。
封筒に同封するものは、おおよそ以下のものです。

 申請書

 切手を貼った返信用封筒

 定額小為替(請求する戸籍の通数分)
定額小為替は郵便局で購入できます。
戸籍謄本の手数料は全国一律です。
・現在戸籍謄本は、450円
・除籍謄本、改製原戸籍謄本は、750円
定額小為替は1枚につき100円の発行手数料がかかりますので、実際に郵便局で支払う際には、450円の定額小為替なら550円、750円の定額小為替なら850円支払って購入します。
何通になるか、ちょっとわからないときは多めに入れておくといいですね。
余った分は、きちんと返してもらえますので安心してください。

 申請者の本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード等のコピー)

こちらから送って、戻ってくるまでには、近くの市町村だと三日ほどで戻ってくることもありますが、一週間から十日前後かかると考えておいてください。
たいてい一往復につき一週間くらいかかりますので、すべての戸籍の取り寄せが終わるまでには数週間、相続関係によっては一か月以上かかることもあります。

戸籍の取り寄せ方

おそらく今この記事を読んでおいでの方は、亡くなった方が死亡したことが記載された最新の戸籍を手元に持っておられるかと思います。
最新の戸籍が手元にあることを前提に、話を進めていきたいと思います。

まずは最新の戸籍を持って、「相続人が誰かを確認したいので、ここ(この市区町村)にある戸籍を遡れるところまですべてください」または「この人が出生したときまでの戸籍をすべてください」と本籍のある市区町村の窓口に請求します。
最初に行く役所が遠方である場合には、郵送請求する際に、最新の戸籍のコピーを同封し、同様に「この人の相続人が誰かを確認したいので、遡れる戸籍をすべてください」とメモを添えます。

このように伝えれば、改製原戸籍も含めて、そこの市区町村にある戸籍をすべて出してくれます。
原則として、一回の請求書で出してくれるのは、同じ市区町村内でも「筆頭者が変わらない」「本籍地が変わらない」戸籍です。
同じ市区町村内に亡くなった人の戸籍が他にもあるけれども、「筆頭者が変わっている」「転籍している」と言う場合には、改めて追加請求が必要です。
親切な担当者にあたれば、他にもあることを教えてくれ、「こっちも必要ですか?」などと聞いてくれます。

「全部出すと送っていただいた定額小為替では足りません」
と言われたら、不足分を聞いて、追加で定額小為替を送付します

最初の役所から遡れるだけ遡った戸籍を取得し、結婚等で他の市区町村に前の戸籍があるかどうか確認します。
現行戸籍であれば「従前戸籍」と書いてあるところに、前の戸籍の所在地とその戸籍の筆頭者名が書いてあります。

コンピュータ化前の戸籍であれば「〇年〇月〇日 〇県〇市〇〇 誰それの戸籍から入籍」などと書いてあるところを探します。
転籍や改製原戸籍、家督相続時代の戸籍ですと書き方はまた変わってきますが、いずれにしても戸籍謄本のどこかに前の戸籍がどこにあるかは記載してあります。

前の戸籍がある市区町村に、最初に訪ねた役所と同様、「遡れるところまで」「亡くなった人が出生したときまで」の戸籍を出してくれるよう頼みます。
このとき、最初の役所で取得できた戸籍のうち、一番古い戸籍謄本のコピーもメモと一緒に同封し、探したい人のところに印を付けておくと、役所の担当者にとって何を出せばよいのかがわかりやすいです。

亡くなった人が出生したときの戸籍謄本が取得できるまで①~③を繰り返します。

戸籍が無くなってしまっていることもある

古い戸籍を取っていくと、稀に、戦災や震災で、過去の戸籍が消失してしまっていることがあります。
完全消失してしまった部分の戸籍については、役所に「戸籍を出してください」と言っても出せません。
このような場合には、役所によって多少名称は異なりますが、「告知書」と言った戸籍が戦災などで焼失していることの証明を出してくれます。

また、現在の戸籍の保存年限は、その戸籍に載っていた人がすべていなくなってから150年、となっていますが、かつての保存年限は80年でした。
そのため、高齢者の親の戸籍を遡っていくと、保存年限が切れてしまっており、それ以上遡ることができないこともあります。
このような場合にも役所が「廃棄証明」を出してくれます。

消失・廃棄のため、それ以上遡ることができないときには、この「告知書」や「廃棄証明」を他の戸籍謄本と共に、銀行などに提出してください。

以上、今回は戸籍収集のやり方についてひととおり説明しました。
現在の戸籍はコンピュータ化されて読みやすいですが、古い戸籍は現在と書き方も違うため、どこをどう見ればよいかわからないことがあります。
また手書きですし、旧字体で書かれているために、読みたくても読めないことも。
親子相続でなく、兄弟姉妹相続など相続関係が複雑で、どこまで戸籍を収集すればわからない、ということもあります。
もし、戸籍収集していく途中で分からなくなってしまった場合には、行政書士、司法書士といったお近くの専門家に戸籍の収集を依頼することをお勧めします。
もちろん当事務所でも承っておりますので、遠慮なくお申しつけください。

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