後見制度支援預金とは

以前、財産管理のトラブルや後見人の負担を軽減するため、「後見制度支援信託」という制度がある、というお話をしました。
しかしながら、近くに信託銀行がない、後見を受ける本人がこれまで利用してきた金融機関を使いたい、といった要望がありました。

そこで、2012年2月に始まった後見制度支援信託に加え、後見制度支援預金という制度も設けられ、2018年6月から運用が始められました。

後見制度支援預金ってどんなもの?

後見制度支援預金は、後見による支援を受ける本人(被後見人)の財産のうち、日常的な支払をするのに必要十分な金銭とは別に、通常使用しない金銭を特別な預金として金融機関に預ける制度です。
つまり、後見制度支援信託とほぼ同様の仕組みとなっています。
以下で、この預金制度の詳細を説明していきたいと思います。

口座開設までの流れ

まず、後見制度支援信託と同様に、後見制度支援信託預金制度を利用するには前提として家庭裁判所に対する後見開始の申立てまたは未成年後見人選任の申立てが必要です。
このとき選任される後見人は、弁護士又は司法書士と言った専門職になります。
被後見人の預金を被後見人のために利用する、との観点での検討を適切に行う必要があるため、専門職後見人が検討を行うのです

専門職の後見人が後見制度支援預金の利用が適当であると判断すると、この専門職後見人が被後見人の預金を預ける金融機関及びどこの支店にするか、いくら預けるかなどを決めた報告書を家庭裁判所に提出します。
家庭裁判所は報告書の内容を確認し、問題がなければ「指示書」というものを専門職後見人に対して発行します。

すると、専門職の後見人はその指示書を持って金融機関に出向き、後見制度支援預金の口座を開設します。

口座が開設されると、専門職後見人は辞任し、財産管理などの後見事務が親族後見人に引き継がれます。

後見を申し立てる側から「この制度を利用したい」と申し出なくても、被後見人の財産を適切に管理するために、家庭裁判所の方から制度の利用を勧められることがあります。
後見人となる親族などが制度の利用を希望しない場合は、無理に利用に向けた手続を進められることはありませんが、裁判官の判断により、後見監督人が選任されることがあります。

この制度を使える人は誰?

後見制度支援預金を利用できるのは、法定成年後見制度及び未成年後見制度の被後見人が対象です。

同じ法定後見制度でも、被保佐人や被補助人の方は利用できません。
また任意後見契約を結んで、後見を受けている人も利用することはできません。

この点も、後見制度支援信託と同様です。

対象財産は?

後見制度支援預金で金融機関に預けられるのは金銭のみになります。
不動産や高価な動産などは預けることはできません。
これも後見制度支援信託と同様です。

預けた金銭の元本は保証され、預金保険制度の保護対象にもなっています。

預入期間、最低預入金額は?

ほとんどの金融機関では、一般的な普通預金と同様のものとしているため、預入期間の定めはありません。
(みずほ銀行では普通預金はなく、貯蓄預金となっています。)

また、普通預金であるため、ほとんどの金融機関の最低預入金額は1円になっています。
ただし、最低預入金額を500万円、などとしている金融機関も一部あります(みずほ銀行、あおぞら銀行など)ので、制度利用前に各金融機関に確認をしてくださいね。

口座開設、管理手数料は?

口座開設手数料、管理手数料共に無料としている金融機関と、口座開設手数料が数万円~10万円以上かかる金融機関とがあります。
そのため、こちらも制度利用前に金融機関の比較検討が必要です。

普通預金ですので、信託とは異なり運用報酬などはかかりません。

口座開設後の財産管理及び口座からの出金方法は?

さて、口座開設後の、財産管理及び出金方法について見ていきましょう。
この点についても後見制度支援信託とほぼ同様です。

後見人は、後見制度支援預金とは別に、通常の預金口座で被後見人の年金の受取りや生活費などの支払い、と言った日常的な金銭の管理をします。

被後見人の年金などの収入よりも支出の方が多いことが見込まれる場合には、家庭裁判所の指示書に基づき、後見制度支援預金の口座から必要な金額が通常の預金口座の方に定期送金されます。
生活状況が変化した、などの理由で必要な金額が変わった場合には、定期送金額を変更することは可能です。
ただし、変更するにあたり、後見人が家庭裁判所に報告書及び裏付け資料を提出し、指示書の発行を受けることが必要です。

被後見人が入院したり、手術を受ける必要があったり、老人ホームに入ることになったり、定期送金では足りない支出等が発生した場合には、同じように家庭裁判所に報告書及び裏付け資料を提出して指示書を発行してもらいます。

逆に、被後見人に臨時収入があり、通常管理している預金口座の額が多額になった場合には、後見制度支援預金に追加で預け入れすることができます。
こちらも報告書及び裏付け資料を家庭裁判所に提出し、発行してもらった指示書を持って金融機関に出向き、入金を行います。

「指示書」を必要とする取引は、①契約締結、②払戻し、③定期送金額の変更、④解約、とする金融機関が多いです。

後見制度支援預金を取扱う金融機関は?

後見制度支援預金が始まった当初は、取扱いのある金融機関は一部信用金庫、信用組合に限られていました。
現在では、都市銀行、地方銀行でも取扱うところが増えています。
例えば、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、東京スター銀行、あおぞら銀行などです。
JAバンクグループでも取扱いがあります。

後見制度支援預金の利用を考えた場合には、近くの金融機関が後見制度支援預金を扱っているかどうか、確認をしてみてください。
後見制度支援預金は取扱うけれども、未成年後見については取扱わない、とする金融機関もありますので、こちらも事前に各金融機関にご確認ください。

関連記事

  1. 法定後見の3つの類型

  2. 後見人ができること・できないこと

  3. 成年後見人等の報酬額と後見人に親族ではなく専門家が選任される目安は?

  4. 後見制度支援信託とは

  5. 任意後見契約の受任者を複数にすることはできる?

  6. 任意後見契約の3つの形態