遺言書を作成するのに、「自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらが良いのだろう?」と考える方は多いようですね。
自分で手書きした遺言書と公証役場で作成した遺言、どちらの方法で作成しても効力は同じです。
ですので、どちらの方法で作成しても基本的には問題ありません。
しかし、私は、やはり公正証書遺言で作成することをお勧めします。
確かに、自筆証書遺言はとにかくお金がかかりません。保管制度を利用しても数千円程度。
一方、公正証書遺言は、安くても数万円から費用がかかりますし、公証役場とのやり取りがあったりなど作成にも時間がかかります。
以上のことを考えたら、自筆証書遺言の方がお手軽です。
それでも私が公正証書遺言をお勧めするのは、相続人・受遺者にとっては公正証書遺言の方が手続が楽だからです。
今回は、なぜ公正証書遺言の方が楽なのか、具体的にその理由を説明したいと思います。
相続手続の着手するまでの時間を短縮できる
まず、一番大きな理由として、公正証書で遺言書を作成した方が、相続人や受遺者が相続手続に着手できるまでの時間を短縮できる、ということが挙げられます。
ここで、自筆証書遺言で作成した場合を見てみましょう。
自筆証書の場合、自分の手元で保管する場合と、法務局(遺言書保管所)で保管してもらう場合の2つがあります。
保管制度を利用しない場合
自分の手元で保管した場合、まずは家庭裁判所で遺言書の検認を受ける必要があります。
検認を受けるまで、その遺言書がいくら有効なものであったとしても、相続手続には使えません。
銀行などに遺言書を提示しても「先に検認を受けてください。」と突き返されてしまいます。
検認を受けるにしても、申立てをしたらすぐに家庭裁判所で検認を受けられるわけではありません。
以前、司法書士を通して遺言書の検認の申立書類を家庭裁判所に提出してもらってから、家庭裁判所から申立人に連絡が来るまでに1か月以上かかったことがありました。
1か月以上経って指定された検認期日は、さらに3週間先でした。
その間ひたすら待機です。
家庭裁判所も様々な事件を取扱っていますから、事件の込み具合によってはこのように予想以上に待たされることがあります。
保管制度を利用した場合
保管制度を利用した場合は、家庭裁判所で遺言書の検認を受ける必要はありません。
しかし、保管制度を利用した場合、遺言者本人が亡くなった時に、そもそも遺言者本人の手元や相続人・遺言執行者となる人の手元には遺言書がありません。
そのため、まずは遺言書保管所で遺言書情報証明書の交付請求をする必要があります。
交付してもらったら、それを持って相続手続に着手、ということになります。
公正証書遺言の場合
これに対し、公正証書遺言は、原本は公証役場で保管されますが、作成時に正本と謄本が渡されます。
この正本または謄本は、そのまま相続手続に使えます。
したがって公正証書遺言であれば、相続手続開始前に家庭裁判所や遺言書保管所といった役所に行く、といった手続がそっくり省けるのです。
公正証書遺言を作成したら、予め相続人の代表者となる人や遺言執行者に預けておけば、亡くなったらすぐに相続手続に着手できます。
手間も少ない
上記で述べたように、自筆証書遺言の場合、家庭裁判所に検認の申立てをする場合は、遺言書検認の「申立書」を作成しなければなりません。
保管制度を利用した場合は、遺言書情報証明書の「交付請求書」を作成しなければなりません。
この申立書、交付請求書の作成自体は難しいものではありません。
申立書、交付請求書、いずれも書式はホームページからダウンロードできます。
しかしながら、人が亡くなった後にやらなければならないことは他にもたくさんありますよね。
そのため、作成する書類が一つ増えるだけでも手間だな、と感じる相続人は多いです。
また、申立書・交付請求書、どちらも添付書類として
・遺言者の出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本
・相続人全員の戸籍謄本
が必要になります。
市区町村役場に出向くなり郵送請求するなりして、すべて取得しなければなりません。
また書類に相続人全員の住所を記載します。
つまり、相続人全員の住民票も必要になってきます。
相続人が兄弟姉妹・甥姪である場合など、相続人が多い場合には、戸籍謄本等の取得には特に手間と時間がかかります。
相続人が多い、転籍回数が多い、と言った場合には、戸籍謄本の取得だけで1か月以上かかってしまうことは、よくあることです。
相続人を代表して諸々の手続を行う方が仕事などで忙しい人である場合、これらの書類を揃えるのが一大仕事であることは容易に想像がつくことと思います。
公正証書遺言の場合
公正証書遺言の場合、上記のような書類を作成する必要はありません。
被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本(除籍謄本)は必須ですが、「遺産分けはこのようになっています。」と遺言書を金融機関等にすぐに提示することができます。
遺言書の内容や各金融機関の規定にもよりますが、相続人全員の戸籍謄本を取得しなくても手続が進められる場合もあります。
ですので、先に遺言書を提示しておいてから指示された範囲の戸籍謄本だけを集めるということも場合によっては可能です。
早く遺言書を金融機関等に提示できれば、遺産をあげる予定の無い相続人に勝手に預金をおろされる、といった事態も防ぎやすくなります。
不動産がある場合は、相続登記手続も速やかに行えます。
トラブルが少ない
自筆証書・公正証書いずれも効力が同じとはいえ、圧倒的にトラブルが少ないのは公正証書遺言です。
自筆証書遺言で手元保管は、まず、紛失の可能性があります。
遺言の内容を見て、「気に入らない」と思った相続人などに「バレなければOK!」と、こっそり破棄されてしまう、という可能性もあります。
遺言書保管制度を利用した場合は、紛失・破棄といったトラブルの可能性はほぼ無くなります。
ところが自筆証書遺言は、保管制度を利用した場合でも、内容についてのチェックは入りません。
遺言書保管官が保管時にチェックするのは、あくまで形式面だけです。
そのためそもそも内容が無効であったり、有効だけれども意味のない遺言書を作成してしまう、という可能性は十分あります。
また、自筆証書遺言は、作成時に証人がいません。
「お父さんは、この遺言書作成日付の当時、もう認知症が始まっていた。」
「あいつがお母さんを脅して、無理やり書かせたのに違いない。」
「これは字体を似せて書いた偽造だ。」
などと、遺言書そのものが、本人の真の意思で作成されたものなのか、またそもそも遺言書自体が真正なものなのかどうかを疑われることもあります。
これに対し、公正証書遺言は、まず、公証人がきちんと内容を確認します。
また、公証人は、遺言者本人に直接、この内容で本当によいのか意思の確認と本人確認を行います。
更に遺言作成にあたり、利害関係のない証人も2人立ち会いますので、「この遺言は本人の真の意思によるものではない。」と疑われる可能性は格段に低くなります。
遺言書原本は、公証役場で保管されますからもちろん紛失・破棄のおそれはありません。
こういったことから公正証書遺言は自筆証書遺言に比べると圧倒的にトラブルが少ないのです。
まとめ
以上の理由で、遺言書を作成するなら公正証書がお勧め、というわけなのです。
遺言を作成する本人にとっては手間も費用もかかりますが、「受遺者や相続人にとっては公正証書遺言で作成してもらった方が楽だし安心」、ということなのです。
特に、遺言の一番のメリットは「相続人間で揉めても手続は進む」というところです。
このメリットを十分に享受したいのであれば、相続開始後の手続がより早く、確実に進められる遺言書の方式を選ぶことが望ましいでしょう。
自分の将来の相続人たちがあまり仲がよくないなど、遺産分割協議がまとまらないことを見越して遺言書を作成しておく、と言う方であれば、もはや公正証書遺言一択であると言っても過言ではないと思います。