認知症などによる預金口座凍結対策 — 3つの方法

「病院の入院費が足りないから夫の定期預金を代わりに下ろそうと思ったら、銀行に駄目だと言われてしまった!」
「老人ホームに入れるために親のお金を下ろそうと銀行に行ったら、後見人をつけてください、と言われてしまった!」
このようなご相談を受けることが、よくあります。

「何か下ろす方法はありませんか? 何とかなりませんか?」
と聞かれますが、口座をお持ちのご本人の認知症が大分進んでしまっている、となると、残念ながら当方もご提案できる良い解決方法がありません。
ご提案できる方法といったら、やはり銀行の言う通り法定後見を申し立てるか、可能性は限りなく低いですが再度個別に銀行に交渉してみる、の2つしかありません。

配偶者やご両親が元気なうちは、何の問題もないし、日々の生活が忙しいので、ついつい後回しにしてしまいがちですが、やはり、いつか起こるかもしれない最悪の事態のために元気なうちに口座(資産)凍結対策はやっておく方がよいと思います。

しかしながら、
「いやぁ、でも両親には不動産もないし、わざわざ家族信託契約を親子間で結ぶほどでもないし・・・」

「任意後見で、後見人は親族をつけられても、赤の他人の後見監督人がつくんでしょ? ちょっと抵抗あるなぁ・・・」
このように考える人の方が多いと思います。

だからと言って、何もしないままでいると、本当にお金を下ろす必要が出てきた時に困ってしまいます。
とは言え、財産は銀行に預けているお金だけ、任意後見契約や家族信託契約まではやりたくない、という人にもできる生前対策があります。
今回は、そのような人達に向けて、3つの生前対策についてご紹介したいと思います。

キャッシュカードの暗証番号を教えておいてもらう

何の手続もする必要がない方法はこれです。
親もしくは配偶者のキャッシュカードの暗証番号を教えておいてもらえば、ATMですんなり下ろせますね。

ネットバンキングを利用しているのであれば、ネットバンキングの情報を予め教えておいてもらいましょう。

この時に併せてやっておきたいのが、定期預金のお金を、折を見て普通預金に移しておいてもらうことです。
「普通預金にあるお金では、施設の費用が払いきれない! でも定期預金を足せば十分賄える。」
と思っても、定期預金はATMではおろせませんよね。

普通預金では足りないため定期預金を解約しなければならない、だけど下ろせない、という問題に直面するのは、口座をお持ちのご本人が認知症になったときだけ、とは限りません。
判断能力には問題なくても、病院に入院してしまって本人が銀行に手続に行けない、という場合にも起こりうる問題です。
委任状が書ける状態であれば救いがありますが、病状や怪我の状態によっては書けない状態になることもありますよね。

このような場合には、ご本人の判断能力には問題がないため、後見人をつけて、後見人に代わりに銀行窓口で手続してもらう、ということもできません。
ですので、普通預金の残高を見て、健康状態や今後を考えた時に普通預金では足りなくなりそうだな、と言う状況であれば、こちらもやっておきましょう。

定期預金を解約するデメリットは、利率の高いお得な定期預金だった場合、普通預金に移すことで利率が下がってしまうことですよね。
ですので、高齢の親や健康に不安のある配偶者が、定期預金の満期が来るまでは健康状態が持ちそう、ということであれば定期預金の満期を待って、普通預金に資金を移してもらいます
あまり猶予は無さそう、ということであれば満期前に解約してもらい、普通預金に移してもらうことも考えましょう。

ただし、預金はあくまでご本人の財産です。
暗証番号を教えてもらったり、定期預金を解約して普通預金にお金を移す、ということをご本人が納得していないのに無理強いするのはやめましょう。
ウチはこのような対策をしておく必要がある、ということをしっかり説明し、理解をしてもらうことが大切です。

代理人カードを作る

2つ目に紹介する対策が、代理人カードを作る、という方法です。
持っているキャッシュカードの家族カードを作るようなイメージです。
ただし、代理人カードを作る手続ができるのは、口座を持っているご本人です。
したがって、ご本人が元気なうちにしかできない対策です。

代理人カードの発行は1枚だけ(つまり1名分だけ)としている銀行がほとんどです。

代理人カードを発行してもらえる人は、本人の「同居家族」とする銀行と、本人と「生計を共にする親族」とする銀行とがありますので、取引先の銀行で確認してみてください。
(例:埼玉りそな銀行→同居家族 みずほ銀行→生計を共にする親族)
「生計を共にする親族」となっていれば、必ずしもご本人と同居している必要はありません。

手続のために、ご本人が持参するものとしては、通帳、今持っているキャッシュカード、銀行届出印、運転免許証などの本人確認書類、としている所が多いです。
こちらも多少、銀行により異なりますので、事前にお取引のある銀行にご確認くださいね。

予約型代理人サービスを利用する

このサービスの導入をしている銀行は、まだまだ少ないですが、ご紹介します。

ここでは、三菱UFJフィナンシャルグループ(三菱UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJモルガン・スタンレー証券)が、2021年3月22日より導入したサービスについて紹介します。

まず、口座をお持ちのご本人が、窓口で代理人となる人の氏名や、ご本人と代理人になる人との関係などを届け出て、代理人の予約をします。
代理人の予約後は、引き続き、ご本人が銀行と取引をします。
ご本人の判断能力などが低下したら、届け出で予約しておいた代理人が所定の診断書などを銀行に提出します。
診断書提出後は、代理人が本人に代わって銀行と取引をします。

代理人として指定できるのは、原則として配偶者または二親等以内の血族、とされています。
あくまで原則なので、事情によりその他の親族やパートナーを指定することも可能なようです。

三井住友銀行では「代理人指名手続」という名称でサービスを取扱っています。
こちらも代理人として指名できるのは、二親等以内の親族、とされています。

さて、以上3つの対策をご紹介しましたが、いずれもご本人が元気なうちでないと取れない対策であることにご注意ください。
また、家族の意思だけではできるものではなく、本人の意思があって初めて取れる対策であることにも、心に留めておいてください。
最後に、これらの対策を取るリスクもお伝えしておきたいと思います。

3つの対策に共通するリスク

上記に挙げた3つの対策に共通するリスクは、ご本人から見ると、自分の財産を家族に好き勝手に使い込まれる危険がある、ということがまず一つあります。
また、本人の預金口座を代わりに管理していた人から見た場合には、本人のために適正に預金口座からお金をおろして支払うべき費用を支払っていたとしても、その他の家族に疑念を抱かれ、死後に相続人間で紛争が起きる、というリスクがあります。

いずれも、任意後見や法定後見と違い、第三者の監督の目が入らないことによるリスクです。
家族信託の場合も、契約内容で監督人を付けることが可能です。
また、後見と家族信託には、帳簿を付け、収支などを報告する義務がありますが、上記の3つの方法にはこのような義務もありません。
したがって、とかく管理がずさんになりがちで、後から見た時に、何のために使ったのか、正確にいくら使ったのか、本人の代わりに財産を管理していた人も忘れてしまう、他の家族に証明することもできない、といった事態に陥りがちです。

ですので、上記の方法を取る場合には、お金を下ろした場合は、何のためにいくら使ったのか、こまめに記録を付け、領収証をしっかり残しておきましょう。
できれば、どうしてこのような支出をすることになったのか、理由や事情も記録しておくとよいでしょう。
認知症になったからと言って、ご本人が完全に意思を無くしてしまう状態にまでなっているとは限りません。
できる限りご本人の意思を確認し、報告もする方がよいでしょう。
とくに仲の悪い親族がいる場合、「お母さんをあんな費用の高い施設に入れる必要はなかった。お母さんは私の前では愚痴を言っていた」とか「お父さんに新しいテレビを買ってあげる必要はなかった。自分たちのために買ったんだろう」など、細かく突っ込んでこられることが多いです。
またお金を多めに下ろして、支払い後に余りが出た場合には、ちゃんとご本人の口座にお金を戻しましょう。
面倒くさがらずに、第三者から見ても納得、証明できるよう管理することが、
リスクを遠ざけることにつながります。

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