相続を考えた時に、自宅やアパートを建てたときのローンがまだ残っていることがあります。
このようなとき、
・全財産を相続する長男がローンを支払うよう、親があらかじめ遺言で書いておく。
・相続が開始してしまった場合には、遺産分割協議の際に、アパートをもらうことになった長女にアパートのローンも払ってもらうよう相続人間で話し合って決める。
と言った感じでローン(借金)の承継の仕方を考える家族が多いかと思います。
このように、ローン(借金)がついている財産をもらった人に残りのローンを払ってもらう、他の相続人よりも遺産を多くもらう相続人に借金も負担してもらう、というのは至極当然の考え方です。
ところが、借金の相続は、家族で決めたとおりにいかないことがあるのです。
今回はその点について説明します。
債務は法定相続割合で承継される
実は、プラスの財産と違い、住宅ローンのような金銭債務(借金)は、相続と同時に法定相続分に応じて各相続人に当然に承継されます。
一言で言うと、金銭債務は遺産分割の対象ではないのです。
相続される金銭債務が連帯債務であった場合も、同様です。
各相続人は、その法定相続分に応じて債務を承継し、その承継した範囲内で本来の債務者と共に連帯債務者となるのです。
銀行は遺言や遺産分割協議書の内容に従わなくてよい
金銭債務は、法定相続分に応じて各相続人に当然に承継されるとはいえ、なお、
・遺言で「借金全額を、長男Aが負担する」と書いておく。
・あるいは遺産分割協議で「長女Bが、アパートローン全額を承継する」と決める。
ことはできます。
ただし、このようにしても、銀行(債権者)は、遺言や遺産分割協議書の内容に従う必要はありません。
なぜなら、
「被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる(民法902条の2前段)」
と法律で規定され、債権者の権利が保護されているからです。
つまり債権者は、各相続人に各法定相続分に応じて、返済を求めることができるのです。
そのため、相続人によっては、
「プラスの遺産を何ももらってないのに、親の借金は払わないといけないの?」
という事態が生じることとなってしまうのです。
借金を誰が払うことになるかは債権者次第
ただし、「債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときはこの限りでない(民法902条の2後段)」とされています。
銀行(債権者)が、
「遺言通りでいいよ」
「遺産分割で取り決めた内容でいいよ」
と言ってくれさえすれば、自分たちで決めた相続人に借金を相続させ、払ってもらうことができます。
つまり、遺言や遺産分割協議で決めたとおりに借金を相続させることができるかどうかは、銀行(債権者)の胸先三寸、というわけです。
相続人間では有効
「じゃあ、借金については、遺言とか遺産分割協議は意味がないのか」、というとそうではありません。
遺言の内容や、遺産分割協議で決めた内容は、相続人間ではそのまま有効です。
求償権を取得できる
遺言や遺産分割協議で債務を承継することになっていた相続人の代わりに借金を支払った相続人は、求償権を取得できます。
求償権とは、わかりやすく言うと「払い戻してもらう権利」のことです。
つまり、代わりに払った相続人は、遺言や遺産分割協議で債務を承継することになっていた相続人に立替払いした分の払戻しを請求できます。
そうは言っても、一旦銀行(債権者)に言われるとおりに払って、債務を承継することになっていた相続人に後から払戻してもらうのは、なかなか面倒ですよね。
相続人の仲が悪かった場合には、ちゃんと払戻してもらえない可能性もあります。
解決策は?
借金のために問題が起きないよう、相続人に負担をかけない一番良い方法は、遺産を残す本人が亡くなる前に借金を完済しておくことです。
とはいえ、それができればとっくにそうしていますよね。
亡くなる前にできる対策として一つ挙げるとすれば、自分の死後、誰に借金を引き継がせるかについて、債権者に承諾を得たうえで遺言を作成することです。
これも、ここまでやっている人・できる人もなかなかいないでしょう。
こうなると、遺言や遺産分割協議で取り決めた内容通り借金のついた自宅やアパートを相続する人だけが債務を払えばよいようにしてくれるよう、銀行(債権者)と交渉するほかありません。
債権者は貸したお金を確実に回収したいと考えますから、払ってくれる人が複数いた方が都合がよいので、なかなか認めてくれない可能性は確かに高いです。
相続人間で協力して、債権者に対して粘り強い交渉が必要となってくるでしょう。
以上、ここまでお読みいただいて、借金があると、財産をもらわない、少ししかもらわない相続人にも負担をかける、ということがご理解いただけたでしょうか。
このことで、相続人間の仲が悪くなってしまうことも往々にしてあります。
借金が自分の死後も残りそう、ということがわかっているのであれば、どう分ければもめないのか、相続人となる人が払っていけそうなのか、家族で早めに話し合っておくのが大切かと思います。