親が再婚していた時にやっておく相続対策は?

ご両親が離婚・再婚している、と言うケースは、現在は取り立てて珍しいものではありません。
しかしながら、親が亡くなった際にどのような問題が起きるのか、どのような対策をしておくべきか、考えたことのないご家族は割と多いように思います。
そこで、今回は、親が再婚していた時に起こる問題とその対策についてご紹介したいと思います。

再婚すると親子関係はどうなる?

まず、再婚すると親子関係はどうなるのでしょうか?

例えば、子が幼いうちに父が実母と離婚して、新たに別の女性がお母さんとしてやって来たとします。
父が再婚すると、父と未婚の子の戸籍に、新しくやって来た女性が父の妻として載ります。
戸籍上は実父、未婚の子(成人して結婚するまで)、継母が一つの戸籍に入っています。
実生活も三人で親子として暮らしています。
未婚の子と継母の関係も良好であれば、家族としては全く問題がありませんね。

その後、子が成人しました。

実父も継母も年を取り、まず、実父が病気で死亡しました。
継母がまだ元気なので、継母が暮らし続けられるよう、実父の建てた実家は継母が相続しました。
数年して継母の衰えが進んでからは、子は継母の病院の付添いなどの面倒をきちんと見ていました。
そしてとうとう継母も亡くなりました。

さて、この子は、継母の元々の財産や、継母が実父から相続した実家を相続することができるでしょうか?

継母に実子がいる場合

まず、継母に実子がいる場合を見てみましょう。
父の実子を子A、継母の実子を子B、とします。
再婚時の家族関係としては下記の図のような状態になります。

さて、子Aと継母が親子としてどんなに長く一緒に暮らしていたとしても、法律上、子Aと継母は親子ではありません。
実父と継母が再婚した当時、子Aが未成年ですと、実父、子A、継母が一つの戸籍に載るため、子Aと継母に親子関係が発生しているように見えます。
一つの戸籍に載るために、これで勘違いされるご家族がいらっしゃいますが、子Aと継母は
法律上は親子ではありません。
(実親が熟年再婚したケースでは、この点の勘違いをされるご家族は、あまりいらっしゃらないようですね。)
子Aと継母の間に血のつながりが無い以上、子Aは継母の財産を相続できないのです。

上記の図のような親族関係であれば、この場合の継母の法定相続人は、継母の実子、子Bだけになります。
いくら継母と子Aの関係が良好でも、いくら継母の面倒を見ていたとしても、このままでは継母の遺産を相続することはできないのです。

元は実父が建てた家であっても、実父の死亡後に継母がその家を相続していたら、継母が死亡したときにはその家は継母の遺産です。
継母の遺産になってしまっているので、元は実父が建てた家であっても実父の実子はその家を相続することはできません。

実子がいないが兄弟姉妹がいる場合

幸い、継母に実子がいなかったとしても、同じ問題が発生します。
継母に実子がいなかった場合の家族関係が以下のようであったとします。

この場合の継母の法定相続人は、やはり子ではありません。
継母の兄弟姉妹が法定相続人となります。
兄弟姉妹の中で亡くなった人がおり、その兄弟姉妹に子(継母の甥姪)がいれば、その子(甥姪)が法定相続人となります。

「もとは実の親が建てた家なのに」
「実の親のように老後の面倒を見たのに」
それでも相続権が一切無いというのは、子としては何ともやりきれませんね。

では、どうしておけばよかったのでしょうか?

相続対策は?

さて、このような哀しい事態に陥らないよう、子が取れる相続対策は4つあります。
ただし、どれにも注意点・不便な点がありますので、そちらも併せて説明します。

①遺言

まず、一つ目の方法は、実親の再婚相手(継父・継母)に遺言を書いてもらう、と言う方法です。

継父・継母に、遺産を自分に残してもらうよう、元気なうちに遺言を書いてもらうのです。
法律に則ったきちんとした遺言があれば、血のつながりが無くても(法定相続人ではなくても)遺産をもらうことが可能です。
遺言を書いてもらう際の注意点は、法定相続人ではないので「相続させる」ではなく「遺贈する」と遺言に書いてもらう必要があるところです。

遺言で対策を取った場合の注意点は一つあります。
「継父・継母に実子がいる場合は遺留分の問題は残る」というところです。

遺言で継父・継母の全財産をもらうことになっていたとしても、法定相続人は継父・継母の実子なので、この実子から遺産の最低限の取り分である遺留分を請求される可能性が残ります。
継父・継母に実子がいなかった場合、継父・継母の兄弟姉妹には遺留分は発生しませんので、この問題は発生しません。

遺言で対策を取る場合に一つネックになるのは、人によっては「私に財産を残してくれるよう遺言を書いて」と継父・継母に直接頼みづらいところでしょうか。

②養子縁組

二つ目の方法は、継父・継母と養子縁組をしておく、と言う方法です。
養子縁組をすれば、法律的に「親子」となります。
つまり、継父・継母の法定相続人となることができます。

ちなみに継父・継母と養子縁組をしても、実の親と親子関係が切れるわけではありません(※普通養子縁組の場合)のでご安心ください。

子となる側が成人していれば、市町村役場の戸籍係に養子縁組届と本人確認書類等の必要書類を提出すれば縁組できます。
費用もかかりませんので、遺言を書いてもらうよりも手続としては、お手軽です。

注意点は、継父・継母に実子がいる場合は、相続の際は、継父・継母の実子と遺産分割協議をすることが必要、というところです。
ちなみに養子縁組とあわせて遺言を書いておいてもらうことも可能です。
(養子縁組をした場合は親子となっていますので、遺言の文言は「相続させる」に変わります。)

養子縁組をする場合のネックは、遺言と同様、「養子縁組をしてほしい」と頼みづらいところがあるところでしょう。

③配偶者居住権

自宅が実父の建てた家であった場合、実父の相続で自宅をそのまま継母に相続させると継母の死後、自宅が継母の実子や兄弟姉妹に行ってしまいます。
これを防ぐためには、「配偶者居住権」という制度が使えます。

具体的にどうするかというと、例えば、実父の相続の際、遺産分割で自宅の所有権を子が相続、居住権を継母が相続します。
継母は居住権を持っているので、住み慣れた自宅にそのまま住み続けられます。
継母が亡くなると、この居住権は消滅します。
子は自宅の所有権を持っているので、自宅を継母の実子や兄弟姉妹に渡さなくて済む、という訳です。

配偶者居住権を設定しなくても、そもそも実父の相続の際、実父の遺産をすべて実子が相続しておけば、わざわざこのようなことをしなくても済みます。
とは言え、実父の配偶者である継母に一切遺産を渡さない、という訳にもなかなかいかないでしょう。

実父の自宅は子が相続してしまって、継母には預貯金だけ渡す、という分け方もあるでしょう。
そうは言っても、実父の遺産の内容によっては、そのような分け方をするのは難しい、という場合もあります。

そのようなときに、配偶者居住権を設定することを考える、というわけです。

ただし注意点は、配偶者居住権で自宅が再婚相手の実子や兄弟姉妹の方に財産が行ってしまうのを防ぐことができるのは元々実父が建てた「自宅だけ」、というところです。

継母が亡くなった際、継母自身の財産について相続権があるのは、やはり継母の実子または兄弟姉妹です。
配偶者居住権の設定だけでは、継母の遺産は、継母の実子や兄弟姉妹の方にすべて渡さなければならない、ということになります。

「実父の建てた家だけ守れればいい」というのであれば配偶者居住権の設定だけでも十分でしょう。
しかし、継母をお世話・介護した分が報われるようにしたい、継母の遺産をいくらかでも相続したい、と考えるのであれば、配偶者居住権の設定だけでは不十分です。
①遺言または②養子縁組の併用を考える必要があるでしょう。

④民亊(家族)信託契約を結ぶ

最後に挙げる方法は、民亊(家族)信託契約を結ぶ、という方法です。
③配偶者居住権と同様、実の親が建てた家が再婚相手の親族に行ってしまうのを防ぐには、こちらの方法も使えます。

具体的にどうするか簡単に例を挙げますと、実父が元気なうちに子が受託者及び残余財産の帰属権利者となって、実父を委託者及び第一受益者、第二受益者を継母、として家族信託契約を結びます。
受託者となった子は委託者である実父の財産を信託財産として預かります。
実父が存命の間は、実父が第一受益者です。

実父の死後は第二受益者である継母のために信託財産を管理、継母の死後は残余財産を帰属権利者の子が受取ります。

配偶者居住権と違うところは、自宅の他、賃貸マンション等の収入が入る不動産、現金も信託財産として入れて、再婚相手の親族に実の親の遺産が渡るのを防ぐことができる、と言う点です。

こちらも、実父との間で家族信託契約を結んで対処できるのは、実父自身の財産だけです。
継母の財産も、となると継母の財産については実父の家族信託契約とは別途、信託契約を結ぶ必要があります。

ただし、信託財産に、すべての財産を入れられるわけではありません。
農地や年金の入る預貯金口座そのものなど信託財産に入れるのが実質的に難しいものがあるからです。

また家族信託契約を結んでも、継母に実子がいる場合は、やはり遺留分の問題が残ります。

家族信託契約が①~③の方法と比べて大変なところは、まず信託契約を結ばないといけない、というところです。
契約書の内容については、自分の親や親の再婚相手にきちんと理解・納得してもらわなければ信託契約を結ぶことができません。
不動産については信託の登記が必要ですし、金融機関に信託口口座を開設して、預かった財産は自分の財産とは分別して管理をしなければなりません。

このようにまず設定から手間と費用がかかるため、将来親の遺産となるものは自宅とわずかな預貯金くらいしかない、という場合には全く見合わない方法かと思います。

まとめ

以上、問題と相続対策の4つの方法をお伝えしました。
①~④のいずれの方法も、実の親の再婚相手が元気なうち(判断能力がある間)でないとできません。
とくに③配偶者居住権の設定は実の親の相続の際、④家族信託は実の親も元気なうちでないとできないものです。

相続したい(守りたい)財産が実の親の元々の財産だけなのか、そうでないのかによっても取るべき方法は変わってきます。

いずれにしても、対策を取るのであればお早めに。
自分から親に切り出しづらい、という場合には、専門家に間に入ってもらって話をしてもらってもよいかと思います。

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