生命保険を相続対策に使うとは?

「生命保険は相続対策に使える」という話を耳にはさんだことはありませんか?
「聞いたことはあるけれど、本当なのかどうなのかわからない」
「どう使うと相続対策になるのかわからない」
そう思っている人も多いのではないでしょうか?

まず、生命保険が相続対策に使える、という話は本当です。

そこで、今回は生命保険をかけるとなぜ相続対策になるのか、効果的に使うにはどう生命保険を使えばよいのかについて説明したいと思います。

生命保険はどのような問題に対する相続対策になるのか

相続において出てくる問題は、大きく3つあります。
①遺産をどうしたらうまく分割できるか
②相続税をどう抑えるか
③相続税の納税資金の確保をどうするか
どれも悩ましい問題ですね。
どの問題にも引っ掛からない相続もありますが、遺産や相続人の状況によっては3つとも引っ掛かる可能性もあります。
生命保険は、うまく使えばこの3つの問題に対処することができます。

では、具体的にどう使うのか、どのような効果が得られるのかを説明していきたいと思います。

遺産分割対策

一口に「生命保険金」と言いますが、遺産分割対策として使えるのは「受取人指定のある」生命保険金です。
(ただし、被相続人自身が受取人になっている生命保険契約は除きます。)

生命保険金も相続税の課税対象となる相続財産ですが、「受取人指定のある」生命保険金は「みなし相続財産」という扱いになります。
みなし相続財産は税法上の相続財産にはなっても、民法上の相続財産には含まれないのです。

この「民法上の相続財産に含まれない」というところがポイントです。
民法上の相続財産に含まれないと何が起こるかと言うと、
①原則として、遺産分割の対象財産にならない
②原則として、遺留分の算定基礎財産から外れる
③原則として、特別受益に該当しない
ということになるのです。

これが、遺産分割対策にどうつながるのか具体的に説明ましょう。

まず、遺産分割の対象財産にならない、ということは、受取人指定のある生命保険金は、指定された受取人固有の財産となる、と言う事です。
遺産分割協議をすることなく、他の相続人の協力も必要とすることなく、指定された受取人が単独で手続して生命保険金を受け取れるのです。
他の相続人に分け前をよこせ、と言われても分ける必要がありません。

つまり、お金を渡したい相手に確実に渡せる、ということですね。

他の相続人より多めにお金を渡したい相続人がいる場合、例えば、葬儀費用を払うことになるであろう相続人や、介護を献身的にやってくれた相続人に確実にお金を渡すことができるわけです。
お金を多く渡したい特定の相続人がいる場合だけでなく、逆に素行が悪いなど、お金をできる限り渡したくない(取り分を減らしたい)特定の相続人がいる場合にも使えます。

例えば、不動産5000万円、預貯金5000万円、合計1億円の遺産があったとします。
相続人が子二人であれば、この1億円を二人で分けますね。
子二人の法定相続分は同等なので、一人5000万円相続します。

ところが、遺産の一部、例えば預貯金のうち2000万円を保険に変えておくと、1億円ー2000万円=8000万円が遺産分割の対象です。
各相続人の法定相続分は4000万円になります。
2000万円の死亡保険金は、渡したい子の方にそっくり渡せるわけです。
つまり、元々は法定相続分が同じであっても、一方の子は4000万円相続し、もう一人の子は6000万円相続することになるわけです。

また、遺言で不動産を多く継がせる、又は家業を継ぐことになっている後継者が決まっているなど、他の相続人に代償金を払う必要がある場合、受け取った生命保険金を代償金の資金としても使うことができます。

例えば、被相続人父、相続人は長男、長女の二人。遺産は、預貯金2000万円と評価額4000万円の自宅土地建物の不動産だけ。
長男が父と同居して、父の面倒を見ていたので、長男に不動産を継いでもらおう。介護してもらった分のことも考慮したい、と考えたとします。
何の対策もしなければ総額6000万円の遺産を長男・長女の二人で分けることになります。
法定相続分で分けると一人3000万円ずつですね。
ここで長男に評価額4000万円の自宅を渡してしまうと、預貯金が2000万円しかありませんから、長女に渡す分が1000万円足りません。
1000万円の代償金は長男が自腹で用意しなければならないことになります。
しかしながら、長男自身が預貯金を持っていないと代償金を払えませんよね。

そこで、父が死亡保険金が2000万円の保険に入り、保険金の受取人を長男に指定します。
遺産分割の対象となる遺産は4000万円の不動産だけになりますから、法定相続分で分けるとそれぞれ取り分は2000万円ずつになります。
長男は、不動産を相続し、受け取った2000万円の死亡保険金で長女に代償金2000万円を払う、という寸法です

この場合、一つ注意しなければならないのは、保険金の受取人に指定するのは、代償金を払うことになる人であるということです。
「保険金は受取人固有の財産であり、遺産分割の対象ではない」ということは、代償金をもらうことになる人を受取人に指定してしまうと、保険金をもらった他、さらに「代償金をくれ」と言われかねません。
上記の例で言うと、もし長女を保険金の受取人にしてしまうと、長女は保険金2000万円を受け取ったうえで、「長男に代償金2000万円ちょうだい」と言うことができる、ということになってしまうのです。
なので、くれぐれも保険金の受取人を誰にするかは間違えないようにしてください。

遺言で特定の相続人に多く財産を渡した場合も、考え方は同じです。
多く遺産をもらう相続人を保険金の受取人に指定しておくのです。
最近の民法改正で、遺留分の支払いは原則金銭で、ということになりましたから、遺留分を請求される可能性の高い内容の遺言を作成した場合には、相続人が遺留分の支払いに困らないよう、併せて対策を取っておくことが必要です。
ですので、生命保険を契約し、遺留分を支払うことになる相続人を保険金の受取人に指定しておくということが、遺留分対策になるのです。

相続税の節税対策

相続税には、3000万円+600万円×法定相続人の数、の基礎控除がありますよね。
これとは別に、生命保険金については、法定相続人一人当たり500万円の相続税の控除が受けられるのです。
この法定相続人の数には相続放棄した人の数も入れられます。
遺産の一部を生命保険金にしておくことで、法定相続人一人につき500万円の控除が増やせるのは大きいですよね。

このほか、生命保険で財産の評価を下げる、という手法もありますが、この方法については素人には複雑は生命保険の契約内容をよく見て、リスク(損する可能性)もしっかり把握したうえで適切な保険を選ぶ、契約を組み替える、ということが必要になってきます。
財産評価を下げるためには、保険商品にかなり詳しい人に相談することが必要です。
しかしながらほとんどのご家庭では、このような保険商品を使ってまでの対策をする必要はまずないかと思います。

納税資金の確保

相続税の納税期限は、相続開始から10か月以内。忙しいですね。
しかも現金で一括払いが要求されます。
遺産の内容が、不動産は多いけれど、現金はあまりない、と言う場合には困りますね。
相続人間が不仲で、10か月目までに遺産分割協議が整わず、預貯金などの金融資産が凍結されたまま。払う現金が手元にない、ということも。
そんな時に役立つのが死亡保険金です。
死亡保険金を納税資金に充てるのです。

通常の金融資産に対し、生命保険金は、指定された受取人が単独で手続して受取ることができます。
たとえ、遺産分割協議が難航して、預貯金などの金融資産が凍結されたままでも、この生命保険金は受取ることが可能です。

相続税は全相続人が連帯して納付する義務がありますから、相続人が不仲で遺産分割協議が難航する可能性がありそうなら、一番信頼できる相続人を受取人に指定しておき、相続税が払えるようにしておきましょう。

また、財産の中身が不動産が多く、預貯金が少なくて「相続税を払う時になったら子どもたちが困りそうだな」と言う場合には、生命保険料を今からコツコツ払ってまとまった死亡保険金が出るようにしておきましょう。

相続対策に使う際の注意点

最後に注意点を書き添えます。
まず一つ目は、遺産分割対策のところで少し触れましたが、保険の契約内容が、契約者=被相続人、被保険者=被相続人、保険金受取人=被相続人となっている保険金は、遺産分割の対象になってしまいます。
受取るための手続も単独ではできないことになってしまいます。
ですので受取人は必ず相続人の誰か一人に指定しておきましょう。
また、万一受取人に指定していた人が、自分(契約者)より先に亡くなってしまった場合には、速やかに受取人を変える手続をしておきましょう。

二つ目は、「私だけ保険金をもらって申し訳ないから、やはり遺産に含めて相続人全員で分割しよう」と言って、他の相続人に保険金を分けると、もらった他の相続人に贈与税が課される可能性があります。
遺産分割の調整で、代償金の原資にする場合には贈与税は課されません。
つまり、遺産分割協議書の書き方には注意しなければなりません。
ちょっとの違いで大問題になってしまうので、この点もお気を付けください。

以上、生命保険が相続対策に有用であることはご理解いただけたでしょうか。
注意点にも気をつけて、あなたの相続対策にご活用いただければと思います。

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