有価証券を信託する場合の注意点

家族信託で財産を信託する場合、信託する財産は、それ以外の財産とは分別して管理しなければなりません(信託法34条)
したがって、上場株式などの有価証券を信託する場合も、信託口口座開設が必要になります。

まだまだ数は少ないものの、一部の証券会社では信託口口座の取扱いを始めたため、上場株式などの有価証券の信託も可能となりました。
ただし、証券の信託が可能になったとは言え、現金を預ける場合とは事情が異なります。

そこで今回は、有価証券の信託を検討する場合に、皆様に知っておいて欲しい注意点を、いくつか説明したいと思います。

①「一般口座」しか選択できない

通常、証券口座を開設する場合には、特定口座、NISA口座、一般口座のいずれかを選択します。
ところが、家族信託のために信託口口座を開設する場合には一般口座しか選択できません

証券会社に口座を開設する場合は、特定口座を選択し、その中でも源泉徴収口座を選択する方がほとんどかと思います。
上場株式等の譲渡所得については確定申告が必要ですが、特定口座+源泉徴収口座を選択している場合、毎年の確定申告は不要です。

一方、一般口座の場合は毎年必ず確定申告を行う必要があります。
つまり、有価証券を信託する場合は、一般口座しか選択できないため、毎年確定申告を行わなければならない、という手間が増えます。
この確定申告を行うのは、信託契約において利益を受けている「受益者」になります。

②信託口口座を作っても、希望する有価証券をその口座に移管できない可能性がある

現在取引している証券会社が、信託口口座を取扱っていない場合、有価証券を信託するには、信託口口座を扱っている証券会社に、保有している有価証券を移管する必要が出てきます。
ところが、証券会社により、取扱い銘柄は異なります。
移管先の証券会社が、現在保有している有価証券を取扱っていない場合には、移管したくても移管できません。
つまり、保有している有価証券の銘柄によっては、信託ができない、ということになります。

③受益者連続型の契約には対応していない

現時点では、信託を取り扱う証券会社でも、最初の受益者が死亡したら第二受益者へ、第二受益者が死亡したら第三受益者へ、と受益権が移転していく受益者連続型の信託契約には対応していません。
対応してくれるのは、委託者兼受益者の死亡により信託が終了するという「一代限りの信託」契約だけです。
したがって、証券を信託したいとなると、信託の契約形態に制限がかかる、ということになります。

④有価証券の売買の発注権限は受託者だけになる

証券会社による「代理人制度」の制度では、親も代理人登録している子も発注できます。
代理人制度とは、証券口座の名義人が高齢になったときに、口座名義人が自分の家族に資産管理や資産運用を任せたいという場合や、家族が口座名義人の資産管理や資産運用が心配と考えた場合に、口座名義人の子などが「口座管理人」となり、口座名義人に代わって、残高・取引内容の確認、注文の発注、各種書類の代筆等を行うことができる制度のことです。

一方、信託口口座を開設して、そこに有価証券を預けた場合、信託口口座内に預けられたものの売買の発注権限は受託者だけになります。
つまり、元々の有価証券の所有者である委託者は、売買の発注などができない、ということになるのです。
「家族のサポートも欲しいけれども、上場株式の売買を自分でやりたい」などと考えている場合には、有価証券を信託で預けてしまうのは使い勝手が悪いですね。

以上、今回は、証券を信託する場合の注意点について説明しました。
法律上は信託できても、証券については、まだまだ制約が多い、また不便な点もあるということがおわかりいただけたでしょうか。

今取引している証券会社が信託口口座を開設できる証券会社なのか、別な証券会社に開設するとして保有している有価証券を移管できるのか、事前に必ずチェックしてください。

また、現金を預ける場合に信託口口座を開設するときもそうですが、証券会社においても、信託口口座を開設する際には、事前に証券会社による信託契約書のチェックが入ります。
証券会社が信託契約書の内容にOKを出さない限り、信託口口座の開設に際し、信託契約書を提出しても、口座を開設してもらえませんので、この点についても注意していただければと思います。

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