相続時精算課税制度とは

相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母又は祖父母から20歳以上の子又は孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。
「相続時精算課税」を選択した贈与者ごとに、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額から2500万円の特別控除額を控除した残額に対して贈与税がかかります。

相続時精算課税制度とよく比較されるのが、暦年贈与(暦年課税)と言われるものです。
一人の人が1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から基礎控除額の110万円を差し引いた残りの額に対して贈与税がかかります。
つまり1年間にもらった財産の合計額が110万円以下なら贈与税はかからない、という、ご存知の方が多い制度です。

相続時精算課税制度と暦年課税制度の比較

ここで暦年課税制度と相続時精算課税制度の違いについて表にまとめました。
まずはこちらをご覧ください。

暦年課税制度相続時精算課税制度
贈与者誰でもよい贈与した年の1月1日において60歳以上である父母又は祖父母
受贈者誰でもよい贈与した年の1月1日において20歳以上である子や孫
(令和4年4月1日以降の贈与については18歳以上)
非課税限度額年間110万円総額2500万円
非課税限度額を超えた場合の税率10%~55%一律20%
贈与税の申告年間110万円を超えたら申告2500万円を超える、超えないにかかわらず、贈与されたらその都度申告
申告時期贈与を受けた翌年の2月15日~3月15日贈与を受けた翌年の2月15日~3月15日
贈与者が死亡した場合の相続税死亡前3年以内の贈与は相続財産に加算して相続税を計算この制度の適用を受けた贈与をすべて相続財産に加算して相続税を計算
(ただし、相続税額を超えて納付した贈与税は還付)
贈与の回数回数制限なし回数制限なし
(一回にまとめてでなく、複数回に分けて贈与してもよい)

相続税のところを見て、お気づきになったかと思いますが、相続時精算課税制度は文字通り、相続時に精算をする制度です。
贈与した物によっては価格変動がありますが、相続税を計算する際の評価額は、相続時ではなく、「贈与した時」の額になります。
贈与した物が2500万円を超えていた場合には、贈与税の申告時に一律20%の贈与税がかかります。
ただし、相続時に相続税額を精算した際、多く払っていたことが判明すれば、払い過ぎた分については還付されます。

よくやる間違い

ここで、相続時精算課税制度を選択する際に、よくやってしまう間違いについて挙げておきたいと思います。

贈与者も受贈者も、「贈与した年の1月1日」でなく「誕生日」で考えてしまう。

例えば、今年5月5日が誕生日で、60歳を迎えたとします。
今年の1月1日には、まだ59歳だったのですから、今年は相続時精算課税制度は選択できません。

非課税限度額の勘違い

暦年贈与の非課税限度額は、受贈者単位で考えます。
つまり、一人の人に複数の人から贈与された額が、年間で110万円を超えていたら贈与税の申告が必要です。
例えば、一人の子が、祖母から60万円、母から50万円、父から80万円を別々に貰ったとします。
贈与者一人一人があげた額は110万円を超えていませんが、子がもらった総額は190万円なので、非課税限度額の110万円を超えています。
したがって、非課税枠を超えた部分につき、贈与税がかかります。

これに対し、相続時精算課税制度については、贈与者単位で考えます。
一人の子が、父からの贈与は相続時精算課税を選択、母からの贈与は暦年贈与を選択したとします。
今年、父から2500万円の贈与を受取り、母から100万円贈与を受けたとします。
総額では2600万円を受け取っていますが、それぞれ違う贈与制度を利用しており、どちらも非課税枠限度額なので贈与税はかかりません。

相続税精算課税制度を選択した翌年以降、110万円以内の贈与を続ける

これが一番よくやってしまう間違いです。
相続税精算課税制度と暦年贈与を併用できると勘違いしてしまう、というパターンです。

相続時精算課税制度を選択したら、その贈与者については暦年贈与の制度は使えません。
また、「やっぱ、やーめた」と言って暦年贈与に戻すこともできません。
一度相続時精算課税制度を選択したら、その贈与者が亡くなるまで相続時精算課税制度が適用されるのです。

したがって、本当に相続時精算課税制度を選択して後悔しないのか、よく検討する必要があります。

相続税精算課税制度を選択した後、贈与税の申告を忘れる

もう一つやってしまいがちな失敗がこれです。
一つのパターンは、上記の間違いにも関連してくるものです。
例えば、相続税精算課税制度を選択し、最初の年に2500万円贈与。
次の年、同じ人が100万円の贈与。
110万円の非課税枠内の贈与だから、贈与税の申告は不要だろう、と思い込んでしまう、というものです。

もしくは、相続税精算課税制度を選択肢、最初の年に1000万円贈与。
次の年、1万円贈与。
2500万円の枠をまだ超えていないからいいだろう、と思って贈与税の申告をしない、というパターンもあります。

どちらも贈与税の申告は必須です。
相続税精算課税制度を選択した以上、「2500万円の枠を超える、超えないにかかわらず、贈与されたら必ず申告」しないといけないのです。

相続時精算課税制度と暦年課税(贈与)、どっちを選ぶべき?

どちらにも、メリット、デメリットがありますので、自分はどちらが向いているかを見て、贈与方法を選択しましょう。

まず、暦年贈与は、非課税枠は110万円と小さいですが、何年贈与し続けても制限はありません
コツコツ長く贈与し続ければ、相続時精算課税制度よりも大きな額を非課税で贈与し続けることもできます。
一度にまとめてあげてしまうと無駄遣いされそうだから、様子を見つつ贈与したい、という場合も暦年贈与の方がいいでしょう。

一方、相続時精算課税制度のメリットは、まとまった財産を一度に贈与できる、ということでしょう。
時間をかけずに大きな額を贈与したい場合には、相続時精算課税制度の方がメリットがありますね。

多額の贈与を一度にしたい場合には、贈与税の税率をみた場合には、圧倒的に相続時精算課税制度の方が有利です。
暦年贈与は最高税率が55%ですが、相続時精算課税制度を選択した場合はいくら贈与しても税率は20%です。

暦年贈与は、贈与したら基本的に、受贈者が亡くなった後にいちいち精算などする必要はありません。
(ただし、死亡前3年以内の贈与は、受贈者の相続財産に加算されて相続税が計算されます。)
一方、相続時精算課税は、贈与した額全額が、相続財産に加算されて相続税が計算され、精算をする必要があります。

さて、ここに一つのポイントがあります。

相続財産に加算される額は、「贈与時」の評価額です。
贈与される財産には、不動産や株式など、評価額が変動するものもありますよね。
贈与時の評価額が、相続時より低ければ節税になります。
しかし、贈与時の評価額が相続時より高ければ、高い税金を払うことになってしまうのです。
したがって、評価額が変動するものを贈与したいと考えているのであれば、将来価値が上昇することが確実である財産を選ぶ必要がある、ということですね。

以上、表にまとめた相続時精算課税制度、暦年課税制度それぞれの特色や、注意点を踏まえて、ご検討いただければと思います。

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