相続人がいない・相続放棄した財産はどうなるのか - 相続財産管理人

生涯未婚で、子もなく、親兄弟も死亡しており、法定相続人がいない場合や、相続人全員が相続放棄してしまった場合、残された遺産はどうなってしまうのでしょうか?
遺言も残されておらず、誰も引継ぐ人がいなければ、最終的に遺産は国のもの(国庫に入る)になります。

とは言え、相続人がいなければ、自動的に国のものになるわけではありません。
残される財産は、預貯金だけでなく、不動産や株式、車など、色々ありますよね。
国庫に入ると言っても、不動産や車はそのままの形では国庫には入らず、必ず売却などして現金化してから国庫に納められます。

また、借金などのマイナスの財産も遺産ですよね。
なので、これらの遺産を売却してお金に変えたり、借金などの債務を支払って清算をする必要が出てきます。
つまり、遺産を処分・清算してくれる仕事をする人が必要になってきます。

では、この仕事を誰がやってくれるのか?
この時に出てくるのが「相続財産管理人」という人です。

相続財産管理人も、相続人がいなければ自動的に役所からやって来るわけではありません。
家庭裁判所に、「相続人がいないので、相続財産管理人を選んでください」、という申立てをして初めて、選ばれてやって来ます。
「相続人がいるのかいないのか、わかりません」と言う場合も、相続財産管理人を選んでください、と申立てをすることができます。

相続財産管理人選任の申立てをする人は誰?

相続財産管理人選任の申立てをすることができるのは、利害関係人や検察官です。

具体的にどのような人が利害関係人になるのかと言うと、
・相続人がなく死亡した人の財産を管理している人
・相続人なく死亡した人の成年後見人
・相続権のない近親者(親族)
・死亡した人の債権者
・死亡した人の不動産に抵当権を付けていたなどの担保権者
・受遺者(遺言で特定の遺産をもらう人)
・遺言執行者
・特別縁故者であると主張する人
・国
・地方公共団体
などです。

申立てに必要な費用としては、
・収入印紙800円
・連絡用の郵便切手
・官報公告料4320円
と言ったところですが、遺産の内容によっては
、通常70万円から100万円程度の予納金を納めるように家庭裁判所から言われます。
そもそも相続財産管理人は無料で仕事をするわけではありません。
残された遺産が少ないために、相続財産管理人の報酬や、古い家の解体・不用品の処分費用などが捻出できない可能性もあるからで
す。

ちなみに相続財産管理人は、弁護士や司法書士といった専門職が選ばれることがほとんどです。

相続財産管理人がついた場合のスケジュール

さて、相続財産管理人が選任されると、相続人や債権者を探したり、債務を清算したりなどの仕事が始まるわけですが、最終的に相続財産管理人の仕事が完了するまでには、最低でも13か月かかります。
では、どのように手続が進んでいくのか見ていきたいと思います。

① 相続財産管理人の選任の公告(1回目の公告)

まず、「相続財産管理人が選任された」ということが官報で公告されます。

「そもそも官報なんて見たことないよ、どこで売ってるの?」
という人の方が多いと思います。
政府刊行物を扱っている所や、官報販売所という所があるので、そこで官報を購入することができます。
わざわざ買いに行かなくても、今はインターネットで閲覧することもできます。
インターネット版の官報は、国立印刷局のホームぺージから閲覧することができますので、興味のある方は一度見てみてください。

ちょっと脱線してしまいましたが、選任された相続財産管理人は、まず最初に、本当に相続人(遺言で包括遺贈された人も含む)がいないのか調査します。
この公告の日から2か月以内に相続人がいることが判明しなかった場合には、次の段階に進みます。
もし、相続人がいることが判明し、その相続人が相続することを了承した場合には、相続財産管理人は管理中の収支について計算して、その相続人に遺産を引き継いで任務終了です。

② 相続債権者・受遺者に対する請求申出催告の公告(2回目の公告)

最初の2カ月で相続人がいることが判明しなかった場合、債権者や受遺者(遺言で財産をもらうことになっている人)を探します。

官報で、「亡くなった人に債権を持っている人、遺言で財産をもらうことになっている人は、請求してください(名乗り出てください)」とお知らせするわけです。
官報公告をする前に、相続財産管理人に知られている債権者・受遺者に対しては、相続財産管理人が個別に申出を催告するよう言ってきます。

官報には、「これが掲載された翌日から2か月以内に請求してね」と書かれています。
催告する(請求する)期限は最低2か月と法律で決められているので、「2か月」と官報に書かれるのです。
もし、この期間内に申出をしなかったり、管理人に債権者・受遺者であることが知られていなかった場合には、遺産の中から弁済を受けることができなくなってしまいます。

申出をした債権者などは、相続財産管理人から順次弁済を受けることができます。
未払いの家賃、水道代、電気代、ガス代など、細かいものについても債務が残っていれば、相続財産管理人が遺産の中から払っていきます。
本来相続人がいれば、亡くなった人のこういった後処理はすべて相続人がやることなのですが、相続人がいないので、代わりに相続財産管理人がやっていくわけです。

③ 相続人捜索の公告(3回目の公告)

さて、1回目の公告から2回目の催告期間の満了まで、最低でも4か月経っています。
ここまで待っても相続人が現れなかった場合に6か月以上の期間を定めて「相続権のある人は申し出てください」と再度公告するのが、この3回目の公告です。

④ 相続人不存在の確定

3回目の官報で公告した、6か月の期間が満了しても、相続人が誰も名乗り出てこなかった場合には、相続人の不存在が確定します。
また、この期間満了後に「私が相続人です」「私が受遺者です」と名乗り出ても、相続財産(遺産)を受取る権利を失ってしまいます。

⑤ 特別縁故者に対する相続財産分与の申立て

6か月の期間が満了し、相続人の不存在が確定しました。
名乗り出た債権者や受遺者に対する弁済も終了しました。
それでも残っている相続財産があれば、特別縁故者が財産分与を受けられる可能性が出てきます。

特別縁故者として財産分与を受けたい場合には、3回目の公告の6か月の催告期間満了から3か月以内に財産分与の申立てを家庭裁判所にしなければなりません。
家庭裁判所は、財産分与の申立てがあると、相続財産管理人の意見も聞いて、特別縁故者であると主張する人に財産を分与するかどうかを決めます。

ちなみに、この財産分与で財産を取得した特別縁故者には、相続税が課されます。

残りの財産をすべて特別縁故者に分与すると家庭裁判所が決定を下せば、相続財産が無くなるので、ここで相続財産管理人の任務は終了です。

⑥ 相続財産管理人による残余財産の国庫への引継ぎ

特別縁故者は特にいなかった、又は特別縁故者には相続財産の一部しか分与されなかった、と言った事情で、なお残った相続財産があれば、それを相続財産管理人が国庫に納めます。
国庫には、指定の口座にお金を振込むかたちで納めます。
国庫に納めたら、相続財産管理人の任務は終了です。

以上、ここまで見てきていかがだったでしょうか。
終了するまでに1年以上かかり、長い道のりになることはわかっていただけたかと思います。

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