相続税の延納と物納

相続税は、申告期限までに現金一括で支払うのが原則です。

そうは言っても、遺産が不動産ばかりで現金がない、など、現金一括での支払いが困難な場合もありますよね。
そのような場合には、延納や物納という制度があります。
今回は、延納及び物納の制度についてご紹介したいと思います。

延納とは

延納とは、相続税の全部または一部を年払いで分割して納付する方法です。

延納ができる場合

延納が認められるには、以下の要件を満たす必要があります。

①納付すべき相続税額が10万円を超えている
②金銭での一括納付が困難である
申告期限までに延納申請書を提出すること
④担保を提供すること
※延納税額が100万円以下かつ延納期間が3年以下の場合は担保不要です。

延納の期間は5年以内です。
ただし、不動産、不動産の上に存する権利、立木、事業用の減価償却資産及び特定同族会社の発効する株式等の価格の合計額が課税財産価格の10分の5以上を占める時は、それらの財産の価格に対応する部分の相続税額については15年以内、その他の部分の相続税については10年以内となります。

物納とは

物納とは、相続財産によって相続税を納付する方法です。

ところで、原則として延納から物納への変更はできません
ただし、延納の許可を受けた申請者が延納による納付が困難になってしまった場合には、申告期限から10年以内の申請によって、延納から物納に変更することが可能です。

物納ができる場合

物納が認められるには、以下の要件を満たす必要があります。

①延納によっても金銭納付が困難であること
申告期限までに物納申請書を提出し、税務署長の許可を受けること

物納は、税務署長の許可が下りないとすることができませんので注意しましょう。

物納できるもの

物納ができるのは国内にある相続財産に限られます。
遺産が海外の不動産だったとしても、海外の不動産で物納することはできないのです。
また、物納できる財産は、あくまで相続で取得した財産です。

また、物納できる財産には優先順位があります。

【物納の順位】
1 国債・地方債、不動産、船舶、上場株式等
2 非上場株式等
3 動産

物納できる財産については、上記以外にも細かい要件があります。
要件は下記のとおりです。

①管理処分不適格財産(物納不適格財産)でないこと
②物納劣後財産に該当する場合には、他に適当な価格の財産がないこと
③物納にあてる財産の価格は、原則として物納申請税額を越えないこと

管理処分不適格財産、物納劣後財産については次に説明します。

管理処分不適格財産・物納劣後財産とは

では、管理処分不適格財産(物納不適格財産)及び物納劣後財産について説明します。

【物納できないもの】
まず、物納することができない管理処分不適格財産とは、例えば、以下のようなものが該当します。

・抵当権など担保権が設定されている不動産
・権利の帰属について争いがある不動産
・境界が明らかでない土地
・隣接する不動産の所有者その他の者との総称によらなければ通常の使用ができないと見込まれる不動産
・他の土地に囲まれて公道に通じない土地で通行権の内容が明確でないもの
・借地家縁の目的となっている土地で、当該借地権を有する者が不明である
・耐用年数を経過している建物
・管理又は処分を行うために要する費用の額がその収納価格と比較して課題となると見込まれる不動産
・譲渡制限株式
・権利の帰属について争いがある株式

一通り見ていただくと分かるかと思いますが、権利関係に問題があるなど、すぐに換金することが困難なものは、お金の代わりに受取っても税務署の側でも困るので受取れない、というわけです。

【物納するには条件があるもの】
物納劣後財産は、条件付きで物納にあてることができます。
例えば以下のような財産が該当します。

・地上権、永小作権若しくは工作を目的とする賃借権、地役権または入会権が設定されている土地
・法令の規定に違反して建築された建物及びその敷地
・土地区画整理法等の事業が施行され、その思考に係る土地につき、法律の定めるところにより仮換地の指定又は一時利用地の指定がされていない土地
・現に納税義務者の居住の用または事業の用に供されている建物及びその敷地
・劇場、工場、浴場その他の維持または管理に特殊技能を要する建物及びその敷地
・建築基準法第43条第1項に規定する道路に2m以上接していない土地
・森林法第25条又は第25条の2の規定により保安林として指定された区域内の土地
・法令の規定により建物の建築をすることができない土地
・過去に生じた事件または事故その他の事情により、正常な取引が行われないおそれのある不動産及びこれに隣接する不動産
・事業の休止をしている法人の株式

こちらも管理処分不適格財産ほどではありませんが、何らかの問題がある財産であることがわかるかと思います。

ところで、「物納」というと不動産で物納を考える人が多いと思います。
物納できる財産には条件があること、税務署長の許可が必要であることから、物納できる財産は選べない、と考えがちですが、相続した不動産が複数あった場合、物納する不動産をどれにするかは相続人が選ぶことができます
ですので、物納できる財産の要件を満たしていれば、相続人にとって魅力のない不動産を物納にあて、一番取っておきたい不動産を相続人の手元に残すことは可能です。

まとめ

以上、今回は、延納・物納の制度についてご紹介しました。
延納をするにも、物納をするにも条件があります。

物納できない財産は、税務署だけでなく相続人にとってもあまりありがたくない財産であることが、例を見ておわかりになったかと思います。
将来相続税が払えなさそう、でも問題のある財産ばかりで、物納するにも税務署長の許可がおりないかも・・・と心配がある場合は、相続が発生する前に、せめて問題を取り除いて物納にあてることができるよう整備することも考えてみてはいかがでしょうか

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