小規模宅地の特例(特定居住用宅地等)と空き家の特別控除の比較 — 親が老人ホームに入った場合

「親が老人ホームに入った後に亡くなってしまったけれど、親が元々住んでいた自宅について相続税の特例とか税金の特別控除とか使えるのかしら?」
このような疑問を持たれる方は多いと思います。

よく名前が知られている相続税の特例としては「小規模宅地の特例」がありますね。
同様に良く知られている特別控除の特例として「空き家の3000万円の特別控除」というものがありますね。
これらの制度が使えれば、税金が抑えられます。
場合によっては、税金を払わないで済むかもしれません。

さて、親が老人ホームに入ってそのまま亡くなってしまった場合、親の自宅について、これらの特例や特別控除は適用されるのでしょうか?
自分たちの場合、どちらが使えるのでしょうか?
今回は、こちらについて見ていきたいと思います。

その前に、まずはそれぞれの制度がどのようなものであるかを確認しておきたいと思います。

小規模宅地の特例

まずは、小規模宅地の特例とは何なのか、確認したいと思います。
「小規模宅地の特例」と一口に言いますが、この特例には4種類あります。
しかし、今回は、親の自宅についての話ですので、小規模宅地の特例のうち「特定居住用宅地等」と呼ばれるものについて説明します。

特定居住用宅地等の小規模宅地の特例とは、亡くなった人の自宅の土地を、一定の要件にあてはまる親族が、相続又は遺贈(遺言による贈与)で取得した場合には、土地の価格を330㎡までは80%減額して計算する、というものです。
つまり、土地の価格を8割引きで計算するので、その分相続税」が抑えられる、というわけです。

では、小規模宅地の特例の対象は何か、適用を受けるための要件は何か、を見ていきましょう。

【対象となる土地】
亡くなる直前において、
① その人が自宅として住んでいた土地
② 亡くなったその人と生計を一緒にしていた親族の自宅の土地

【対象となる土地の取得者】
① 亡くなった人の配偶者

② 亡くなった人と同居していた親族
ここでいう親族は6親等以内の血族、3親等以内の姻族を言います。
法定相続人でなくても、上記の範囲の親族は、対象となる土地を遺贈で取得したら特例の適用を受けられる可能性がある、というわけです。

要件は、亡くなった人と同居していたに、相続開始直前から相続税申告期限まで引続き住み続け、その家が建っている、対象となる土地を相続税申告期限まで保有していること。
つまり、相続税申告期限前に、亡くなった人の自宅土地建物を売却したら適用は受けられない、ということですね

③ 自宅を持っていない親族
ただし、
要件1. ①、②の人(配偶者と同居親族)がいなかった場合に限られます。

要件2. その親族が、相続開始前3年以内に自己所有の家屋に住んだことがないこと

要件3. その親族が、相続開始前3年以内に、自分の配偶者、自分の3親等以内の親族、又は自分と一定の関係がある法人が所有している家屋(日本国内にあるもの)に住んでいなかったこと

要件4. その親族が、相続開始時に住んでいた家を、過去に所有していたことがないこと
例えば、相続が開始する5年前に、自分の家を他人に売って他人名義にし、その家に家賃を払って住み続けていた場合などは適用を受けられない、というわけですね。

要件5. 相続開始後、相続税申告期限まで、亡くなった人の対象となる土地を保有し続けること

④ 亡くなった人と生計を一緒にしていた親族
要件は、対象となる土地を相続税申告期限まで保有し、その土地上の家に相続開始前から相続申告期限後まで住み続けていること。

空き家の特別控除

空き家の特別控除とは、一人住まいの親が亡くなって、空き家になった実家を相続人が売る場合に適用できる優遇税制です。
空き家となった実家を売却した時、一定の要件を満たすと、売却した時の利益(譲渡所得)の金額から最高3000万円を控除することができます。
つまり、「譲渡所得税」についての特別控除の特例です。

特例の対象と要件

では、特別控除の対象と控除を受けるための要件を見ていきたいと思います。

【対象となる不動産】
亡くなる直前において
① その人が、自宅として住んでいた建物(=被相続人居住用家屋)
② 自宅の敷地

【不動産についての要件】
① 昭和56年5月31日以前に建築された建物であること

② 区分所有建物登記がされている建物ではないこと
つまり、自宅がマンション、アパート、二世帯住宅で建物は一つであるけれども親と子の住んでいる部分について別々に登記が入っているものは、対象外です。

③ 相続開始の直前において亡くなった親以外に同居していた人がいなかったこと
つまり、いわゆる独居老人の自宅が対象となるということです。
親子で同居していたり、親の実家に親族など同居していた人がいた場合は、対象外です。

【特例を受けるための要件】
① 売却をした人は、相続又は遺言による贈与(遺贈)で、亡くなった人の自宅建物及びその敷地を取得したこと
つまり、空き家を売却した場合の特別控除といっても、例えば赤の他人が持っていた空き家を買ってきて転売、といった場合は対象外です。

② 自宅建物及び敷地を売った相手は第三者であること
つまり、自分の配偶者や一定の範囲の親族に売った場合は、対象外です。

③ 売却金額は1億円以下であること

④ 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに、相続又は遺贈で取得した不動産を売ること

⑤ 相続開始から売却まで、又は建物を取壊して敷地を売った場合は取壊しまで、空き家であったこと
親が亡くなった後、相続人の誰かが一時的に住んでいたり、誰かに貸していたりした場合は適用対象外です。

⑥ 建物は、売却時に耐震基準に適合していたこと
リフォームして耐震基準を満たしておけば適用になります。

老人ホームに入ってしまったら特例の適用は?

さて、2つの特例の内容がわかったところで、親が老人ホームに入って、そこで亡くなった場合に、これらの特例の適用を受けられる可能性があるのかについてみていきたいと思います。

どちらの特例についても「亡くなる直前において」親が自宅に住んでいたこと、が要件に入っています。
そのため、亡くなったときに老人ホームに入っていたとなると、適用が受けられないのではないか、というところが気になりますよね。

幸い、親が老人ホームになっていた場合にも、どちらの特例も適用を受けることは可能です。
しかしながら、老人ホームに入っていた場合に特例を受けるためには要件があります。
そして、その要件は、各特例で異なっています。
では、要件がどのように異なっているか、見ていきたいと思います。

双方の比較

まずは下記の表をご覧ください。

小規模宅地の特例(自宅)空き家の3000万円控除
老人ホーム入所後に死亡適用OK適用OK
老人ホーム入所前、親子で同居していた適用OK適用不可
老人ホーム入所後の自宅の状態第三者に貸したりしなければ適用OKいつでも親が戻れる状態を維持しておく必要あり
介護認定・要支援認定を受けた時期死亡直前までに認定を受ける老人ホームに入所する前に認定を受ける
自宅が区分所有建物
(マンション、アパート、区分登記された二世帯住宅)
親が住んでいた部分のみ適用OK適用不可

こうしてみると、空き家の3000万円控除の方が、要件が厳しいのがわかりますね。

また、お気づきになったかと思いますが、特例の適用を受けるためには、どちらも介護認定又は要支援の認定を受けている必要があります。
親が嫌がるから、という理由で認定を受けさせていない、という人も少なからずいらっしゃるようですので、この点には十分注意してください。

認定を受ける時期に違いがあることにも気をつけなければなりません。
将来、空き家の3000万円控除の適用を受ける可能性があったら、親を老人ホームに入れる前に、介護または要支援の認定を受けさせておく必要があるのです。

以上、今回は、小規模宅地の特例と空き家の3000万円控除について、親が老人ホームに入ってた後に亡くなった場合、適用を受けられるかについて見てきました。
もし、将来これらの特例を受けたいと考えておいでの場合は、要件に当てはまるかよく確認したうえで、対策を取っていただければと思います。

関連記事

  1. 生命保険を相続対策に使うとは?

  2. アパートを建てると節税になる?そのからくりは?

  3. 小規模宅地の特例って何?

  4. 相続と贈与、どちらで渡すのが得?

  5. 相続時精算課税制度とは

  6. 妻に自宅を残す方法 ― 持ち戻し免除の意思表示の推定とは