介護した分はもらえるの? ― 特別寄与料とは

「改正で、介護した人は、その分貰えることになったのよね!」
こういう制度ができたことを、既にご存知の方は多いと思います。

「夫も、その兄弟も、義父母の介護を私に押し付けてきたんだから、その分しっかり貰いたいわ!」
大変な介護を担ってきたのだから、そう考えるのが普通だと思います。

さて、制度はできたのはいいのですが、この制度を使って報われるだけのものを、実際に貰えるのでしょうか?
貰うにはどうしたらよいのでしょうか?

今回はこの、特別寄与料について、説明していきたいと思います。

特別寄与料とは?

まず、特別寄与料とは、
「亡くなった人(被相続人)に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、亡くなった人の財産の維持または増加について特別の寄与をした親族は、相続の開始後、亡くなった人の相続人に対して寄与に応じた額のお金を請求できる制度」
です。

この特別寄与料を請求できる親族は、相続人以外の被相続人の親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)です。
※相続放棄をした人、相続人の欠格事由(例えば被相続人を殺害した人)に該当する人、廃除によって相続権を失った人は除かれます。

条文を読んで気づいていただけたでしょうか?
勘違いしがちですが、「特別寄与料」を請求できるのは「相続人以外の親族」です。
相続人は「寄与分」として請求していくことになります。

6親等内の血族、3親等内の姻族を図で示すと、下記のような人たちになります。


ところで、改正でなぜこのような制度が設けられたのでしょうか?

例をあげましょう。

父には長男と長女の二人の子がいました。
長男夫婦は父と同居していたのですが、長男が父より先に死亡。
その後、父の介護を長年に渡り、長男の妻が介護。
長女は遠方に住んでいることもあり、介護は一切手伝ってくれませんでした。
そして、とうとう父(義父)が亡くなり、相続発生!
長男夫婦に子がいない場合、父親(義父)の遺産はすべて長女が相続します。
妻(嫁)には相続権がないため、義父に遺言で遺産の一部を残してもらう、または生前贈与してもらうなどしないかぎり、介護した分は報われません。
仮に、長男が父より先に死亡していなかったとしても、実際に介護をしていた妻自身が報われる方法は、ほぼありませんでした。
(長男の履行補助者として「長男」に「寄与分」が認められる可能性がわずかにあるだけでした。)。

これでは、介護した長男の妻があまりに可哀そう!

と言うわけで、このような制度が作られたのです

「寄与分」と「特別寄与料」の違い

ところで、「特別寄与料」に似た制度に「寄与分」があります。
寄与分と特別寄与料は言葉もよく似ています。
どう違うのでしょうか?

一言で言うと、
相続人の寄与分は、「遺産取得額の調整」
特別寄与料は、「遺産分割とは関係ない金銭の請求」
です。
特別寄与料は、相続人ではない親族が主張するものなので、遺産分割とは関係ないのです。
つまり、「介護した私にも遺産を貰う権利がある!」と言って、遺産分割の話し合いに入れるわけではありません。
また、特別寄与料を請求する相手は「相続人」です。

図でまとめると下記のようになります。

図を見てお分かりになったかと思いますが、亡くなった人に尽くした・貢献したからと言ってどのような貢献をしても特別寄与料を請求できるわけではありません。
相続人が請求できる寄与分より、対象が狭いのです。
例えば、家族で個人商店を営んでいて(事業)、資金が足りないからと不足分を補うために、お金を足してあげていた(財産上の給付)としても、相続人であればそれを「寄与分」として認めてもらえますが、相続人でない親族の場合には特別寄与料を認めてもらえないわけです。

「特別の寄与」が認められるための要件

特別の寄与があったと認められるには、どのような要件を満たしていなければならないでしょうか。

要件を見ていきたいと思います。

請求できるのは、
1 被相続人に対して無償で労務の提供をしたことにより
2 被相続人の財産の維持または増加について
3 特別の寄与をした
4 相続人以外の被相続人の親族(←つまり親族でない内縁の妻などはもらえません。)

ただし、
5 相続の開始及び相続人を知ったときから6か月を経過したとき
または
6 相続開始から1年を経過したとき
は請求することができません。

※ちなみに特別寄与料には「療養看護型」と「家業従事型」がありますが、ほとんどのケースは介護、つまり「療養看護型」になると思います。

「5」の請求期限には特に注意をしなければなりません。
相続の開始及び相続人を知ったときから6か月過ぎると請求はできません。
思った以上に期間が短いと思いませんでしたか。
6か月だと家族によっては、まだ遺産分割協議もまとまっていないでしょう。

「遺産分割協議もこれからなのに、相続人でない人がよこせと請求してくるなんて!」と言われそうな気もします。
言われなかったとしても、面と向かって直接請求するのは気がひける人もいるでしょう。
かと言って、家庭裁判所に申立てをしたら、喧嘩を売っているように感じる人もいるのではないでしょうか。

では「特別の寄与」の額はどう決まるのか?

家庭裁判所は、
① 寄与の時期
② 寄与の方法
③ 寄与の程度
④ 相続財産の額
⑤ その他一切の事情
を考慮して特別寄与料の額を決めます。

では、貢献したと認められる最低基準はどのようなものでしょうか?
【介護の場合】
要介護2以上
・無償(介護の対価としてお小遣いなどもらっていないこと)
1年以上、仕事をせずに介護に専念

特別寄与料の額の算定の目安はどうでしょうか?
【算定の目安】
療養看護型の寄与分=介護報酬額×療養看護の日数×裁量割合(0.5~0.8
裁量割合が0.5~0.8にされているのは、介護の専門家ではないから、ということだそうです。

これを見てどう感じたでしょうか?
基準も厳しいし、認められる額も期待したほど多くは貰えなさそうですね。

特別寄与料を請求する方法は?

特別寄与料を請求する方法は、原則、当事者間の協議です。
期限内に、相続人に直接、特別寄与料を請求します。

当事者間で協議が整わない、または協議できない場合は、家庭裁判所に協議に代わる処分を請求します。
つまり、家庭裁判所に「調停(特別の寄与に関する処分調停)」を申し立てをしなければなりません。
これも当然、期限内に申立てをしなければなりません。

申し立てるからには、これだけ寄与した、という証拠も家庭裁判所に出さなければなりません。

申立てのために用意する資料の例を下記に挙げます。
【療養看護型】
・要介護認定通知書
・要介護の認定資料
・診断書
・介護サービス利用票
・介護サービスのケアプラン
・施設利用料明細書
・介護利用契約書
・医療機関の領収証
など

【家業従事型】
・確定申告書
・給与台帳
・給与明細書
・給与振込口座の通帳
など

特別寄与料を請求しようと思っているのなら、これらのものをきっちり取っておかなければなりません。
具体的に自分がどのような介護をしたのか、など記録もこまめに取っておかないといけないでしょう。

相続人が数人いる場合の特別寄与料の額

さて、特別寄与料は、相続人から貰うわけですが、相続人が複数いる場合、誰がどう負担するのでしょうか?

相続人が数人ある場合には、各相続人は特別寄与料の額に、法定・指定相続分を掛けた額を負担することになります。
たとえば、相続人が3人いて、各相続人の法定相続分が3分の1だったら、特別寄与料も各相続人が3分の1ずつ負担することになります。

一方、特別寄与者は、全員の相続人に特別寄与料を請求する必要はなく、一部の相続人に特別寄与料を請求しないこともできます。

 

 

特別寄与料を請求する場合の注意点など

特別寄与料を請求する場合の注意点なども見ていきましょう。

・ 特別寄与料を請求するには被相続人と同居している必要は?
同居している必要は、ありません。

・ 義父(被相続人)の世話をしていた長男の妻が、その対価として長男(夫)から金銭を受領していた場合は「無償」の要件を満たさない?
お世話した対価としてお小遣いなどを貰っていた場合には、「無償」の要件を満たさない可能性があります。

・ 受領した特別寄与料に税金はかかる?
相続税が、かかります。
ちなみに相続税がかかる場合、相続人の2割増の税金を納めることになります。
特別寄与料が確定すると、相続税の納税義務が生じ、特別寄与者は、当該事由を知った日(特別寄与料が確定したことを知った日)から10か月以内に相続税の申告・納税をしなければなりません。

・ 特別寄与料を支払った相続人の相続税はどうなる?
相続人が支払った特別寄与料の額は、各相続人の相続税の課税価格から控除されます。
特別寄与料の額が相続税の申告期限までに確定しない場合、確定後4か月以内に更正の請求を行うことができます。

・ 特別寄与者が被相続人から贈与(介護などの対価ではないもの)を受けていた場合
相続発生前3年以内に受けた贈与財産が、遺産に持戻しされます。
(つまり、相続税の計算に影響が出ます。)

このほか、特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有していた財産の価格から、遺贈の額を控除した残額を超えることはできません。
と、いうことは遺産をすべて、特別の寄与をした人以外の誰かに遺贈されている場合には、特別寄与料を請求しても貰えない可能性があるのです。

いかがでしょう?
こうしてみてみると、特別寄与料を実際に請求して、貢献しただけの十分な対価を貰うことは、なかなか難しいということがわかっていただけたでしょうか?

やはり、将来相続人になる人たちの代わりに介護などを担っているのであれば、遺言で財産を貰うか、生前贈与でそれなりのものをあらかじめ貰っておいた方が確実です。
そうは言っても、「やってあげているのだから、その分をください」とは自分からなかなか言い出せるものではありませんよね。

逆に、相続人でない人に介護などをしてもらっている人に、特別寄与料を貰うのは難しい、請求しても十分な対価を貰うのも難しいのだ、ということを理解していただきたいなと思います。
そのうえで是非、遺言で財産を残してあげたり、生前に贈与するなどして、あらかじめ準備をしておいてあげていただければと思います。

 

関連記事

  1. 明治31年以降の法定相続人の範囲・相続分と適用期間

  2. 認知症などによる預金口座凍結対策 — 3つの方法

  3. 相続土地国庫帰属制度について

  4. 市役所から相続人代表者指定届を出せと手紙が来た!どうすれば?

  5. 空き家の譲渡所得の3000万円特別控除と併用できる特例は?

  6. 贈与税等申告期限の延長・特別定額給付金の税務上の取扱いなど(新型コロナ…