遺留分侵害額調停を通して、隠された相続財産を明らかにさせることはできる?

さて、前回は遺留分の請求方法についてお伝えしました。
自分の遺留分がいくらになるのかは、遺留分の対象財産が総額でいくらなのかわからないと具体的な請求額を計算できませんね。
「それはわかっているけど、請求する相手が相続財産の一部を隠しているような気がする。」
このようなこともありますよね。
さて、このような場合、調停を通して請求相手に隠し相続財産を開示させることはできるのでしょうか?
今回は、この点についてお伝えしたいと思います。

遺留分算定の基礎となる財産は?

本題に入る前に、遺留分算定の基礎財産についておさらいをしておきましょう。

遺留分算定の基礎となる財産は、
被相続人が死亡時に有していた財産 + 贈与された財産の価格 相続債務
でしたね。

この計算式に算入される「贈与財産の価格」は、
相続人以外への贈与:相続開始前1年間にされた贈与を算入
相続人への贈与:相続開始前10年間にされた贈与を算入
でした。
ただし、遺留分権利者に「損害を与える意図」で贈与がされていた場合は、1年以上前または10年以上前のものであっても算入されます。

ちなみに「損害を与える意図」があったかどうかの立証責任は遺留分を請求する側にあります。

調停の中では隠された相続財産を明らかにさせることはできない。

おさらいを済ませたところで、今日の本題に入りましょう。
相手方が相続財産の一部を隠していると思われる場合、調停委員にその旨を伝えて、相続財産をすべて明らかにさせることはできるのでしょうか?

調停委員に、相手方に相続財産をすべて開示してくれるよう言ってくれ、とお願いすることは可能です。
そうして調停委員に促されるなどして、相手方が正直にすべての相続財産を明らかにしてくれれば、めでたし、めでたし。
すぐに自分の遺留分額が計算できますね。

では、「隠してないよ。これで全部だよ。」と相手方に白を切られてしまった場合はどうでしょうか?
残念ながら、調停委員には相続財産を強制的に調査する権限・捜査する権限などはありません。

このように相続財産の範囲に争いがある場合は、別途「地方裁判所に遺産確認の訴え」を提起する必要があります。
この訴訟手続の中で、裁判所に相手方に対する調査を請求することはできます(これを「調査嘱託」と言います)。
ただし、この調査嘱託を認めるかどうかは裁判所の判断次第になります。
そして調査嘱託が認められないことも多々あります。

ちなみに、この訴訟を提起して争っている間は、遺留分請求額調停の方は、「休止」となります。
つまり、遺産確認の訴訟手続が終了するまで調停は再開されない、というわけです。

結局、このような状態に陥ってしまった場合は、一連の裁判手続が終わるまで数年かかることも覚悟しておくことが必要になります。
また、効果的に訴訟を進めるには弁護士の手助けがどうしても必要になるため、そこまで手間と費用をかけて争うのか、裁判所に行く前に検討する必要があるかと思います。

 

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