遺言の書き方 — 相続させる、遺贈するの使い分け

遺言を書くときに、何と書いて財産を取得させるべきか、迷ったことはありませんか?
「渡す」と書くのか、「譲る」と書くのか、はたまた「贈る」と書くのか?
ここで「とりあえず、財産をあげるということが伝わればいいだろう」と思って適当に書いてはいけません。

遺言では「相続させる」か「遺贈する」

遺言を書くときは「相続させる」か「遺贈する」という言葉を使いましょう。

ただし、この二つであれば、どのような場合でも、どちらを使ってもよいわけではありません。
どちらも、「遺産を取得させる」という意味には変わりはありませんが、法律上の効果は変わってきます。

基本は、遺産を取得させる相手が、
法定相続人→「相続させる」
法定相続人以外(ただし相続人に対しても使える)→「遺贈する」
です。
例外として、配偶者居住権の場合には、相手が相続人でも「遺贈する」という言葉の方を使います。

もう少し詳しく、この二つの違いについて説明していきたいと思います。

相続させる

「相続させる」という言葉は、法定相続人に対して遺産を取得させる場合にしか使えません。

「相続させる」という言葉の性質は、原則として「遺産分割方法の指定」です。
「相続させる」と書くことで、遺言者の死亡後直ちに、遺言で書いた特定の遺産が指定した相続人に相続により承継させるものと認められる効果が得られるのです。
したがって、遺言執行者(遺言を内容通りに実現する手続をしてくれる人)の指定は不要です。

また、不動産の所有権移転登記をする際も、他の共同相続人の協力をあおぐ必要はなく、その不動産を受取る人が単独で手続することができます。
農地の所有権移転には農業委員会の許可を得る必要がありますが、遺言の内容が「相続させる」という場合は、農地法3条1項の農業委員会の許可を取る必要はありません。

ただし、遺言の内容を拒否し、財産の受取りを望まない場合には、ちょっと厄介です。
自分が相続人であることを知ってから3か月以内に相続放棄の手続をしなければならないからです(民法915条)。
つまり、単に「いらない」と言うだけでは、受取りを拒否できないのです。
受取りを拒むなら、家庭裁判所に相続放棄の申述をしなければなりません。

また、相続放棄の手続は、欲しくない財産だけを選んで放棄できません。
相続放棄をする場合は、その人が貰えるはずの財産をすべて放棄しなければならないのです。

上記のような事情があるため、配偶者居住権を遺言で配偶者に取得させようと言う場合には「遺贈する」と書く必要があるのです。
配偶者は当然法定相続人ですが、配偶者居住権を「相続させる」とすると、配偶者が「配偶者居住権は欲しくない」、と考えたときに、配偶者居住権だけを放棄できません。
受取りを拒否するなら、他に貰えるはずだった遺産もすべて放棄する相続放棄の手続を家庭裁判所にしなければならなくなってしまうのです。
配偶者居住権は不便なところもあるため、配偶者が必ずしも貰って嬉しい財産とは限りません。
したがって、配偶者居住権の場合には、「遺贈する」と書かなければならないのです。

遺贈する

「遺贈」とは、「遺言による無償の贈与」のことです。
法定相続人以外の人、つまりお世話になった知人や内縁の配偶者などに、遺言で財産を取得させたい場合には「遺贈する」という言葉を使います。

「遺贈する」という遺言を作成する場合には、遺言執行者を誰にやってもらうかも決め、併せて遺言の中に書いておきましょう

不動産の遺贈をする場合は、特に遺言執行者が必要です。
遺言執行者が遺言の中で指名されていない場合、不動産を遺贈で貰った人は、所有権登記申請を共同相続人全員と共同で登記の申請をしなければなりません。
このとき、共同相続人の中に①登記申請に協力してくれない人や、②行方不明の人や認知症になっている人がいる、といった場合には、登記申請ができなくなってしまいます。

このような場合に、登記手続を進める手段としては、家庭裁判所に遺言執行者選任の申立てをするより他ありません。
つまり、遺言執行者がいないと、遺言で遺産を取得できることになっていても、スムーズに受取ることができないのです。
したがって、遺贈をする場合には、必ず遺言の中に遺言執行者を誰にするか書いておきましょう。

遺贈の場合(ただし、遺贈する財産を特定してある特定遺贈に限る)の相続放棄は、いつでもできます。
単に口頭で、共同相続人に「いらないよ」と言うだけで放棄できます。
ただし、実際には単に口頭で伝えるより、「放棄します」と、共同相続人に内容証明郵便を送ります。
その方がはっきりと証拠に残るからです。
一方、遺産を割合で遺贈する包括遺贈の場合には、受取りを拒む場合はやはり3か月以内の相続放棄の申述を家庭裁判所にしなければなりません。
包括遺贈の場合、受遺者は相続人と同一の権利義務を有することになるからです。

農地を遺贈(特定遺贈)された場合、現実にその農地を受取るには農業委員会の許可を得る必要があります(農地法3条1項)。
遺贈された相手が法定相続人である場合や、遺贈が特定遺贈でなく包括遺贈であった場合には、農業委員会の許可を得る必要はありません。

 

「相続させる」と「遺贈する」の違いを下記に簡単な表にまとめましたので、こちらもご覧いただければと思います。

相続させる遺贈する
対象者相続人に限られる相続人に限られない
性質遺産分割方法の指定遺贈
放棄する場合3か月以内に相続そのものを放棄(民915条)いつでも放棄できる(民986条1項)
※包括遺贈の場合は3か月以内の放棄(民915条)
遺言執行者不要
不動産の登記単独申請相続人との共同申請
※遺言執行者がいる場合は、遺言執行者との共同申請
農地の場合農業委員会等の許可不要農業委員会等の許可が必要
※包括遺贈のときは許可不要

遺言で使うのを避けるべき言葉

「相続させる」「遺贈する」の使い分けについて説明してきましたが、参考までに遺言で使うのを避けるべき言葉も挙げておきたいと思います。
よくある例としては、「任せる」「委ねる」「託す」です。
「すべての不動産を任せる」
「預貯金を委ねる」
「すべての財産を託す」
一見、これでも話が通じるように見えますが、このような言葉を使ってはいけません。

元の意味を見てみましょう。
任せる→意味は、(指示や責任の所在をはっきりさせたうえで)仕事などを相手の好きなようにさせる
委ねる(ゆだねる)→意味は、処置などを人に任せる
託す(たくす)→意味は、自分がなすべきことを他の人に頼む

ご覧のとおり、遺産を「贈る」「渡す」という意味で使うには、曖昧な言葉です。
「任せる」「委ねる」「託す」だと、「遺産の『管理』をお願いする」という意味にも読めてしまいます。

遺言で遺産を貰えなかった人や遺言の内容に不満を持った人は当然、曖昧な文言には突っ込んできます。
「この遺言には『任せる』としか書いていない。あなたに財産を『あげる』とは、はっきり書いていない。あげるならあげるとはっきり書くはず。これはあくまで管理を任せるという意味で書かれたのだ!」

などと争いになる可能性が高いです。
また、相続人間で争いにならなかったとしても、言葉が曖昧ですと肝心の銀行手続や登記手続で遺言に基づく手続を受付けてもらえなくなる可能性が高くなります。
したがって、複数の意味に取れる言葉は使ってはいけません。

以上、今回は遺言における「相続させる」「遺贈する」の使い分けについて説明しました。
遺言を書く場合には、どちらにすべきか、上記の記事を参考に検討してみてください。
なお、「どっちにした方がいいか、もっと詳しくアドバイスが欲しい」と言う場合には、いつでも当事務所にご相談いただければと思います。

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