せっかく書いた遺言が無効となってしまう場合は、どのような場合でしょうか?
また、認知症の診断が出ていたら、その後に書いた遺言はすべて無効になってしまうのでしょうか?
今回は、この点について説明したいと思います。
遺言が無効となる場合
民法では、遺言が無効となる場合について、具体的に定めています。
以下、それぞれ説明します。
方式違背(民法960条)
遺言は、民法に定めてある方式に則って作成しなければなりません。
したがって、その方式から外れた遺言は「無効」となります。
例えば、
・自筆証書遺言の日付が、「令和3年9月吉日」となっている」
・自筆証書遺言の押印が、シャチハタなどのスタンプ印
・自筆証書遺言の本文がパソコンで作成してある
といった場合、無効となってしまいます。
遺言の一部を訂正する場合も、法律で訂正方法が定められていますので、その方式に従う必要があります。
遺言が無効となるケースは、ほとんどがこの方式違背です。
特に、自筆証書遺言を作成、遺言書保管所の保管申請もしない場合には、誰のチェックも入りません。
そのため、方式違背により無効となってしまう遺言が多いのです。
ですので、自筆証書遺言を作成した場合には、面倒だなあと思っても専門家のチェックを受けるか、遺言書保管所に保管申請をして遺言保管官のチェックをしてもらうことをお勧めします。
遺言者が15歳未満(民法961条)
遺言は15歳になって、初めて作成することができます。
幼くして遺言を作成しようと考える人はほとんどいないと思いますが、いずれにしても15歳になる前に遺言を書いても、それは無効になります。
後見人又はその近親者に対する遺言(民法966条)
被後見人(後見人が付いている人)が、後見の計算終了前に、後見人又は後見人の配偶者・子・孫などの利益となるような遺言を作成したときは「無効」となります。
ただし、後見人が、被後見人の直系血族(父母・子・孫)、配偶者、兄弟姉妹が後見人である場合は、この法律は適用されません。
つまりこの法律は、専門家など赤の他人が後見人に付き、後見が開始した後に遺言を作成した場合の規定、というわけです。
後見人は、被後見人のすべての財産を預かって管理しています。
後見任務就任から終了までの財産管理の収支の計算を済ませないと、後見人に不正があったかどうか確認できません。
という訳で、無効、ということなのです。
共同遺言(民法975条)
二人以上の人で、一つの遺言を作成した場合は無効となります。
例えば、夫婦で1枚の紙に、遺言書を作成したような場合です。
たとえ夫婦であっても、遺言書は、それぞれ別々に作成をしましょう。
その他
上記に挙げたほか、遺言が法律行為一般の無効原因に当たる場合にも無効となります。
例えば、次のような場合です。
・公序良俗違反(民法90条)
遺言の目的が、反社会的・反道徳的なものだった場合には、無効です。
・錯誤(民法95条)
勘違いや、動機に誤りがあって不本意に遺言を作成した場合には、無効となります。
認知症になった親が書いた遺言は無効?
遺言者は、遺言をする時において、その能力を有しなければならない(民法963条)、とされています。
遺言能力とは、遺言者が遺言事項を具体的に決定し、これによる法律効果を理解し判断することができる能力です。
では、認知症の診断が下された親が書いた遺言は、すべて無効となってしまうのでしょうか?
この点、後見人がついている状態(被後見人)であっても、事理弁識能力が回復している限り、医師2人以上の立会いの下で遺言をすることができる、とされています(民法973条1項)。
したがって、認知症の症状が出た後に作成した遺言は必ずしも無効になるとは言い切れません。
そもそも、認知症と診断されているだけでは、遺言能力は否定されません。
なぜなら、認知症の進行の早さも症状も、人それぞれだからです。
実際、裁判で遺言の有効無効が争われた場合には、
①認知症の存否・内容・程度、
②遺言内容の難易
③遺言内容の合理性や動機の有無
を総合的に考慮して判断されています。
成年後見人はついていない、成年後見の申立て中でもない、けれども、遺言を書いてもらうにはちょっと怪しいな、と感じられるところがある。
しっかりしているけれども、世間一般からみて、かなりの高齢である。
と言う場合には、かかりつけのお医者さんから、判断能力について診断書をもらっておくのがよいでしょう。
実際、公正証書遺言を作成する場合、遺言者が高齢である場合、診断書の提出を求めてくる公証人もいます。
仮に公証人から診断書を求められなくても、後々本人の遺言能力を疑われた場合に備えて、診断書を取っておくのが無難でしょう。
自筆証書遺言を作成する場合などは、本人がどのような状態だったかを証明できるよう、できれば動画も取っておくとよいかと思います。
以上今回は、遺言が無効となる場合について説明しました。
せっかく遺言を作成するのですから、是非、無効とならないよう、また有効・無効について争いの出ないよう、遺言を作成してくださいね。