前回のブログで、遺言には色々な種類があることをお伝えしました。
ここで、
「では、遺言の種類によって効力の強さは違うのだろうか?」
と、疑問を持つ方がいらっしゃるかと思います。
また、
「遺言を書いたら、その後財産が使えなくなる」
とか、
「遺言を書いた後、財産が減ってしまったらどうなるんだろう?」
という疑問をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。
そこで、今回はこれらの点について説明したいと思います。
遺言の種類による効力の差はない
要件を満たし、有効に成立している遺言であれば、どの種類であっても「効力は同じ」です。
遺言の種類によって変わるのは、遺言者の死亡後、家庭裁判所の検認を受ける必要があるか無いか、銀行の対応に多少差がある、と言った手続的な手間の部分です。
自筆証書遺言だと、「これは本当に本人が書いたものなのか」と利害関係人から有効性を疑われることはありますけれども、有効なものであれば公正証書遺言と効力は変わりません。
遺言の効力発生時期
遺言は、遺言者(遺言を書いた人)が死亡したときから効力を生じます(民法985条1項)。
遺言に停止条件を付けていた場合は、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、その条件が成就したときから遺言の効力が生じます(民法985条2項)。
停止条件というのは、「条件が満たされるまで、法律効果の発生を停止させておく」というものです。
例えば「孫Aが大学に合格したら、金300万円を孫Aに遺贈する」などと遺言に書いてあったら、遺言者の死亡後、大学に合格するまで孫Aは祖父の遺産の中から300万円をもらえない、ということです。
つまり、自分が生きている間に遺言の効力が発生することはありませんから、亡くなるまで自分の財産をどう使おうと自由です。
したがって、遺言を書いてしまったら財産を使えなくなる、と心配する必要はありません。
遺言を書いた後、財産を誰かにあげてしまったらどうなる?
遺言を書いた後、長生きすることは往々にしてあります。
生きている間は生活費もかかりますし、何か事情があって財産の一部を誰かに贈与することもあり得ます。
では、最終的に死亡後、遺言を書いた当時にあった財産が、遺言者自身が使う・処分するなどしたことで無くなっていた場合は、どうなるのでしょうか?
この場合、使う・処分するなどして無くなってしまった部分については遺言を撤回したものとみなされます(民法1023条2項)。
残っている財産の部分についてはなお、遺言は有効です。
さて、人生がどうなるかは自分にも分かりません。
認知症になって、自分に法定後見人が付くこともあり得ます。
家族でない専門家が法定後見人になった場合、自分(本人)が書いた遺言の内容など知らないでしょう。
遺言の内容を知らない法定後見人の判断で、本人の生活のために財産を処分して換金されたり、金融機関の整理をするために預貯金口座が解約されてしまうこともあります。
その場合も、自分(本人)の死後、遺言が有効なのは残った財産の部分だけです。
遺言を作成するとき、あげる物とあげる相手を一つ一つ特定する内容にすることが多いですが、遺言作成後に大きく財産内容が変わる可能性が高い場合には、割合で分ける内容で遺言書を作成するのも手です。
遺言が何通も出てきた場合は?
遺言を書くのは人生で1度きりしか許されないわけではありません。
気が変わったり、事情が変われば何度でも書き直して構いません。
なので、中には毎年遺言を書くという人も、世の中には存在します。
さて、「亡くなってみたら、遺言が何通も出てきた!」という場合には、どうしたらよいのでしょうか?
遺言が複数あるときは、日付が一番新しいものの内容が優先されます。
前段でもお伝えしたとおり、遺言の種類では効力は変わりません。
例えば遺言が2通あり、
最初に書いたのが、自筆証書遺言、後で書いたのが公正証書遺言であれば、公正証書遺言の内容が優先されます。
最初に書いたのが、公正証書遺言で、後で書いたのが自筆証書遺言であれば、自筆証書遺言の内容が優先されます。
気をつけなければいけないのは、日付が一番新しい遺言だけが有効、とは限らないところです。
民法では、前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす(1023条1項)、とされています。
つまり、前に書いた遺言の全部の撤回をしていない限り、最新の遺言書と矛盾していない部分は、古い遺言も有効なのです。
遺言が何通書かれていても、同じです。
例えば、遺言が7通あったら、7通とも全部有効な部分が存在する可能性があるため、全部の遺言を見て、どの部分が有効なのか、それぞれチェックすることが必要となってしまうのです。
このような場合、専門家ですら解読には非常に苦労してしまいます。
銀行や役所などで手続する際には、すべての遺言を出す必要が出てきますし、各担当者もチェックに時間をかけざるを得ません。
そうすると、一つ一つの手続に余計な時間がかかってしまうことになります。
このような事態をさけるため、遺言の書き直しをする際は、「遺言者は、本日以前に作成した遺言のすべてを撤回する。」と必ず入れて、前に書いた遺言を全部撤回しておきましょう。
以上、今回は遺言の効力について説明しました。
遺言の効力が実際に発生するのは、遺言を書いた本人の死後なので、遺言を一回書いた後、遺言の書換えも財産の処分も自由であることなど、ご理解いただけたでしょうか。
当事務所では、遺言の書き直しなどのご相談も受けております。
もし、一度書いてしまった遺言について疑問やお悩みがある場合には、いつでもご相談くださいね。