遺言執行者が必要なときって?

遺言を書く際には、必ず遺言執行者を指定しておかなければならない、というわけではありません。
しかし、遺言執行者でなければ遺言の内容を執行できないもの、又は遺言執行者が指定されていないと遺言の内容の実現がスムーズにいかない、という場合があります。

今回はそのような場合について説明したいと思います。

遺言執行者でなければ執行できないもの

遺言が見つかり、その中で遺言執行者が特に指定されていなかったときには、原則として相続人が遺言の内容に沿って相続手続をします。

ところが、遺言事項の中には、遺言執行者によらなければ遺言の内容を執行できないものがあります。
それが次の遺言事項です。

①死後認知の届出(民法781条2項、戸籍法64条)
②相続人の廃除(民法893条)
③相続人の廃除の取消し(894条2項)

以上遺言事項があるのに遺言執行者の指定がされていない場合には、家庭裁判所で遺言執行者を選任してもらわなければなりません。

死後認知とは、遺言者が「あの子は自分の子だ」と遺言の中で認知することです。
廃除とは、虐待されたなどの理由で特定の相続人から相続権をはく奪することです。

①~③は、遺言の中に書いただけでは、効力が発生しません。
①は認知届の提出等の手続が必要です。
②、③は家庭裁判所による廃除の審判や戸籍法に基づく届け出が必要です。

つまり、遺言の内容を実現するのに上記の手続をすることが必要なので、必ず遺言執行者が必要、というわけなのです。

内容的には、相続人の数が変わってくる微妙な問題です。
認知や廃除に反対する相続人が出てくるでしょうし、手続しないで無かったことにしてしまいたいなと考える相続人がいてもおかしくない問題です。
相続関係に影響が大きいことから、これら3つについては遺言執行者によらなければ執行できない、と法律で定められたのでしょう。

ちなみに、遺言を書く際に指定する遺言執行者は、相続人の中から選ぶのでも、相続人以外から選んで指定するのでも、どちらでも問題ありません。
上記の3つに関する遺言事項があったとしても同様です。
ただ、特殊な手続が必要ですし、同じ相続人として微妙な問題でもありますから、相続人以外の専門家を指定して遺言執行を頼んでおくのが無難かもしれませんね。

遺言執行者を指定しておいた方が良い場合

さて、以下は遺言書の中に遺言執行者をあらかじめ指定しておかなくてもよいけれども、指定しておいた方が良い場合です。

①相続人がいない
②相続人がいるが、判断能力が低下している、などの理由で、相続人自身で手続が進められなさそうである
③相続人が多数おり、相続人間で意見がぶつかりそうである

①相続人がいない場合は、相続人以外の人や法人に遺贈するケースでしょう。
法律上の原則は、相続人が遺言の内容に沿って手続するわけですが、遺言の内容を執行してくれる相続人がそもそもいないのですから、この場合はもう遺言執行者の指定必須、と言ってよいかと思います。

②のケースも想像していただければお分かりになるかと思いますが、遺言執行者必須、と言ってよいでしょう。

③は、遺言の内容に不満を持つ相続人、自分が主導権を握らないと気が済まないタイプの相続人などがいて、誰か指定しておかないと遺言執行がスムーズに進まなそうだな、と予想がつく場合です。
このような場合にも、遺言の内容を実現してもらうためには、遺言執行者を遺言の中で指定しておく方が安全です。

遺贈

これまでのブログで、遺贈をする場合には遺言の中に必ず遺言執行者を設定してほしい、と書いてきました。

実を言うと法律的には、「遺贈」は遺言執行者必須ではありません。
(※紛らわしく感じるところですが、遺言執行者がいる場合は、遺贈義務の履行は遺言執行者しかできません。)
しかし、遺産の所有権移転手続の場面では、遺言執行者がいた方がよいのです。

特に不動産の遺贈の時に問題になるのですが、遺言執行者がいない場合、受遺者(遺贈を受ける人)が不動産の移転登記を受けるには相続人全員と共同申請をしなければなりません。
相続人同士・相続人と受遺者の仲が悪いという場合だけでなく、遠方に住んでいる、多忙であるなど、登記手続の際に相続人全員の協力を得るのが難しい場合、なかなか登記手続が進みません。
しかし、遺言執行者がいれば、遺言執行者を登記義務者として共同申請をすることが可能です。
このような事情があるため、遺贈の場合は、遺言執行者を指定しておいた方が良いのです。

ちなみに不動産の遺贈の中には「配偶者居住権の遺贈」というものもあります。
こちらも相続人との共同申請です。

その他

このほか、遺言できる事項の中には、専門家ではない相続人には執行が難しいものがあります。
これにあたると思われるのが、一般財団の設立や、信託の設定です。
相続人自身で問題なくこれらの手続ができる、というのであれば、遺言執行者を決めておく必要はないでしょう。
しかし、相続人では手続が難しいだろうと言う場合には、相続人以外の専門家を遺言執行者に指定しておく必要があります。

以上、今回は、遺言執行者が必要な場合について説明しました。
公正証書遺言で作成する場合には、遺言執行者を指定していない場合、公証人から指導が入りますが、自筆証書遺言の場合にはチェックが入りません。
自筆証書遺言で作成する場合には、遺言執行者の指定が必要かどうか、上記の内容を参考にして遺言執行者を指定しておくかどうかを検討して頂ければと思います。

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