任意後見と法定後見、どちらが優先される?

成年後見には、あらかじめ自分で決めた人と後見契約を結ぶ任意後見契約と、家庭裁判所で後見人を決める法定後見制度の2つがあります。
さて、任意後見契約と法定後見制度、どちらが優先されるのでしょうか?
任意後見契約を結んでいたのに、別な親族が法定後見の申立てをしてしまったような場合、どうなるのでしょうか?

今回は、この点について説明します。

原則として任意後見が優先!

任意後見契約を結び、公正証書で契約書を作成、後見の登記もされている場合には、任意後見契約が優先されます。

任意後見契約が締結されている以上、家庭裁判所に法定後見の申立てをしても、原則として申立ては却下されます。
例外的に法定後見開始の審判がされるのは、「本人の利益のため特に必要がある」と家庭裁判所が認めるときに限られます(任意後見契約法10条1項)。

例外は?

では、「本人の利益のために特に必要がある」と、例外的に法定後見の開始の審判がされるのは、どのような場合なのでしょうか。
下に例を挙げます。

①あらかじめ締結した任意後見契約において、本人が任意後見人に与えた代理権が狭すぎて十分な後見が行えないことが判明したが、既に本人の判断能力が低下しており、追加で代理権を付与するのが困難である場合

任意後見契約は契約で代理権の範囲を決めますので、後見人となる人に十分な範囲の代理権を与えていないと、いざ後見開始となったときに、必要な本人の財産管理や身上監護ができないという事態が発生することがあります。
後から必要な代理権を追加することは可能なのですが、後見の必要な本人の判断能力が既に低下していた場合には、本人から代理権を与えることは不可能です。

そのため、この任意後見契約の内容のままでは本人のために十分なことができない、ということであれば、本人の利益のために法定後見を使う必要があります。
したがって、任意後見契約を結んでいても法定後見開始の審判がされる、ということになります。

②本人の判断能力が低下し、任意後見受任者が任意後見監督人の選任の申立てをすべきであるのにもかかわらず、申立てをしないで放置している場合

本人の判断能力が低下して、後見が必要な状況にあるのに任意後見受任者が任意後見監督人の選任の申立てをしなければ、いつまで経っても任意後見が開始しません。

つまり、本人の利益を守れません。
このような任意後見受任者は信頼できませんから、法定後見の開始の審判がされます。

③本人について同意権・取消権による保護が必要な場合

これはどういうことか言うと、例えば、本人がたびたび悪質な訪問販売などの被害にあっており、今後も被害の可能性が高い、と言ったような場合に出てくる問題です。
任意後見人には、同意権・取消権が無い(任意代理の委任契約であるため)ので、本人のやった行為について同意をしたり、取消しをすることができません。
つまり、例で言えば、訪問販売で本人が結んでしまった契約の取消しを任意後見人がすることができない、というわけです。

法定後見人には取消権がありますので、本人がした契約を取り消すことができます。
任意後見契約では被害から本人を守り切れない、という場合には法定後見を利用する必要がある、というわけです。

法定後見が開始すると任意後見契約はどうなる?

さて、上記のような事情等で、法定後見が開始した場合、任意後見契約はどうなるのでしょうか?
任意後見契約は、任意後見監督人が選任されると開始します。
そのため、法定後見の開始が、任意後見監督人が選任される前なのか、選任された後なのかで変わります。

任意後見監督人の選任後に法定後見開始の審判がされたとき

この場合は、任意後見人と成年後見人(法定後見人)の権限が抵触・重複してしまいますので、任意後見契約が終了します(任意後見契約法10条3項)。

任意後見監督人の選任前に法定後見開始の審判がされたとき

この場合は、既存の任意後見契約は当然に終了せず、なお、存続することになります。

以上、今回は、任意後見、法定後見のどちらが優先されるかについて説明しました。

原則は、あくまで任意後見契約が優先です。
「自分の選んだ人に後見を頼みたい」と言う場合には、やはり任意後見契約を結ぶことをお勧めします。

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