本人の財産を、万一のときに備えて、家族又は信頼できる友人・知人が管理できるようにしよう、と考えた場合、比較的新しい制度である家族信託契約の他、以前からある財産管理委任契約、というものがあります。
さて、家族信託契約と財産管理委任契約とは、どう違うのでしょうか。
今回は、二つの契約の違いについて説明したいと思います。
財産の所有権の名義
財産管理委任契約
まず、財産管理委任契約とは、委任者(本人)が法律行為その他の事務処理を受任者に委託する契約です(民法643条)。
財産管理委任契約を結ぶと、管理を委託された人は「受任者」と呼ばれ、本人の「代理人」となります。
この委任契約に基づく代理では、財産の管理を委託した本人の財産の所有権が、受任者に移転することはありません。
したがって、財産管理委任契約を結んでも、所有権の名義が変わることはありません。
つまり、不動産の所有権の移転登記手続などは「不要」です。
家族信託
これに対し、家族信託契約では、委託者(本人)の財産の所有権が受託者に移転します。
受託者に所有権が移転しますので、所有権の名義変更が必要です。
具体的には、受託者に不動産の所有権移転登記手続をすることや、受託者名義の信託口口座の開設が必要になってきます。
財産の管理処分権限
財産管理委任契約
財産管理委任契約を結んでも、本人が自分の財産の管理処分権限を失うことはありません。
代理人(受任者)と本人が共同で管理又は処分等を行います。
受任者が本人のために、受任者の名において取得した権利は、本人に移転する義務を負います(民法646条)。
また受任者が本人の代理人として法律行為を行った場合は、本人に直接その法律効果が帰属します(民法99条1項)。
家族信託
これに対し、家族信託契約では、信託された財産の管理処分権限は、受託者だけが持つことになります。
本人や受益者が、直接信託財産の管理・処分等を行うことはできません。
受託者が行った信託財産の管理・処分の法律効果は、受託者を通して、信託財産に帰属します。
辞任する場合
財産管理委任契約
財産管理委任契約においては、委任者からでも受任者からでも、いつでも契約を解除することができます(民法651条)。
すなわち、「委任者と気が合わないし、契約を続けるのが難しい。辞任したい。」などとなったら、受任者から自由に「辞めたい」と言うことができるのです。
委任契約は、本人と委任者相互の高度な信頼関係に基づく契約です。
契約を解除しよう、と言う場合には、信頼関係は失われていることが多いので、あえてその関係を続けることを強制するのは適切でない、という考えから、いつでも契約解除ができるのです。
ただし、相手の不利な時期に解除し、損害を与えた場合には賠償が求められます。
それでも、やむを得ない事情があった場合には、賠償は不要です。
家族信託
家族信託においては、義務を負う受託者の側から一方的に自由に辞任することはできません。
信託法では、本人(委託者)と受益者の同意があってはじめて、受託者が辞任できます(信託法57条1項)。
信託においては、「信任関係」は受託者が本人のために一方的に負うので、一方的に義務を負う受託者の側から自由に辞任できないのです。
ただし、信託において何を期待し、任せるかは、委託者が信託目的に定めます。
そのため、信託契約に「別段の定め」をおけば、それによって受託者が辞任できるようにすることも認められています(信託法57条1項但書)。
また、やむを得ない事由がある場合には、裁判所の許可を得て、辞任することは認められています(信託法57条2項)。
契約の当事者が死亡した場合
財産管理委任契約では、本人又は受任者のいずれかが死亡すれば、契約は終了します(民法653条)。
これに対し、家族信託契約では、委託者が死亡しても、受託者が死亡しても、当然には契約は終了しません。
契約を結ぶ際に、受託者が死亡した場合の新たな受託者が定めてあれば、その受託者が任務を引き継いでいきます。
財産承継機能
財産管理委任契約には、財産承継機能はありません。
そもそも、契約を結んだ際に、財産の所有権が本人から移転することはありませんから、契約が終了しても、財産はそのまま本人のところに依然として残るだけです。
家族信託契約は、信託契約が終了すると、契約書に定めた「帰属権利者」に残余財産が移転します。
「帰属権利者」は自由に定めることができますので、家族信託契約を結ぶことで、本人は自分が財産を渡したい相手に財産を承継させることができます。
ここで、双方の契約の違いを下記に簡潔に表にまとめましたので、ご覧いただければと思います。
財産管理委任契約 | 家族信託契約 | |
所有権の名義 | 本人 | 受託者 |
管理処分権限 | 本人と受任者 | 受託者 |
辞任する場合 | いつでも契約を解除して辞任できる | 辞任するには、委託者と受益者の同意が必要 |
当事者が死亡した場合 | 本人又は受任者の一方が死亡すれば終了 | 契約当事者が死亡しても当然には終了しない |
財産承継機能 | なし | あり |
以上、今回は、家族信託契約と財産管理委任契約の違いについて説明しました。
あなたやあなたの家族にとって、家族信託契約がよいのか、それとも一般的な財産管理委任契約の方が都合がよいのか?
上記の違いをよく知ったうえで、取るべき方法を検討していただければと思います。
当事務所では、どちらの契約でも、ご相談にのることができます。
「万一に備えたいけれども、家族信託と財産管理委任契約とどっちにした方がいいか、アドバイスが欲しい」という場合には、いつでもお気軽にご相談くださいね。