これまでに、家族信託の設定時及び契約継続中についてかかる税金について説明しました。
今回は、家族信託の終了時にかかる税金について、わかりやすく説明したいと思います。
課税されるか否かは、誰が残余財産をもらうかで決まる
家族信託契約が終了したときには、何らかの財産が残ります。
この残った信託財産を受取る人を「帰属権利者」と呼びます。
「帰属権利者」を誰にするかについては、信託契約を作成する際に、あらかじめ決めておき、契約の中に書いておきます。
(帰属権利者を定めない場合もありますが、家族信託契約においては、ほとんどのケースで帰属権利者を指定しますので、ここでは「帰属権利者がいる」という前提で話を進めます。)
信託継続中は、信託財産から利益を受けていたのは「受益者」でした。
なので、一定の利益を受けていた場合は、確定申告をして、受益者が税金(所得税)を払っていましたね。
信託が終了すると、受益者は利益を受けられなくなり、帰属権利者が残った信託財産を受取ります。
すなわち税務上、受益者から帰属権利者に財産の所有者が変わったものとして課税関係を考えます。
つまり、受益者からどんな立場の帰属権利者に所有者が変わったのかで、課税されるか否かが決まります。
受益者=帰属権利者
受益者と帰属権利者が同一人物であった場合には、信託契約中と信託終了後で、信託財産の所有者に変更はありません。
つまり、税務上、財産(経済的な価値)が移動していません。
したがって、後で説明します流通税以外の税金は課税されません。
受益者≠帰属権利者
受益者と帰属権利者が別人であった場合には、信託契約中と信託終了後で、信託財産の所有者が変わっています。
すなわち、経済的な価値の移動がありますので、税金が発生します。
①適正な対価の授受がある場合
残余財産を受取る代わりに、帰属権利者が受益者に対して適正な対価を支払っていた場合には、帰属権利者に税金は課せられません。
一方、受益者は受取った対価について譲渡所得税が課税されます。
②適正な対価の授受が無い場合
残余財産を受取る代わりに、何らの対価も払っていなかった場合、受益者から帰属権利者に対して財産の贈与(又は遺贈)があったものとされるので、帰属権利者に対して贈与税(又は相続税)が課せられます。
受益者には課税されません。
流通税
残余財産が不動産であった場合には、流通税がかかります。
流通税に関しては、受益者と帰属権利者が同一人物であろうが、別人であろうが、等しく課税されます。
かかる税金は、以下の3つです。
①所有権移転登記分の登録免許税:固定資産評価額×2%
②信託登記を抹消する分の登録免許税:不動産の個数×1000円
③不動産取得税:固定資産評価額×3~4%
ただし、権利帰属者が以下に該当する場合には、税金の軽減があります。
ア 委託者=受益者(受益者は生存している)=権利帰属者
移転登記分の登録免許税:非課税
信託登記を抹消する分の登録免許税:不動産の個数×1000円
不動産取得税:非課税
委託者、受益者、権利帰属者がすべて同一人物であった場合には、自分で預けた財産が自分のところに戻ってきただけですから、かかる手数料は信託登記を抹消する分だけになります。
イ 委託者(財産を預けた人)=受益者(受益者死亡)。委託者の相続人が権利帰属者になる場合
移転登記分の登録免許税:固定資産税評価額×0.4%
信託登記を抹消する分の登録免許税:不動産の個数×1000円
不動産取得税:非課税
委託者と受益者が同一人物だったけれども、死亡により家族信託契約が終了。
その相続人が残余財産を受取る場合は、通常の相続と何ら変わりがありません。
したがって、移転登記分の登録免許税と不動産取得税については、通常の相続によるときと同じになります。
ア・イともに流通税が軽減されるポイントは、委託者=受益者です。
正確に言うと、「信託の効力が生じたときから引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である」というところです。
契約当初の受益者と終了時の受益者が変わっていたら?
「最初の受益者が死亡したら、次に指定しておいた人が受益者になる」という契約にする場合もありますよね。
この二番目の受益者が受益権を取得した後、信託契約が終了する場合の課税関係は、どうなるでしょう。
契約開始当初、委託者=受益者の自益信託であっても、
委託者の死亡後は、
委託者の地位→委託者の相続人へ
受益者の地位→第二受益者へ
と地位が移ります。
そうすると、第二受益者が、残余財産の帰属権利者となっても、
「信託の効力が生じたときから引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である」
という要件は満たしません。
原則通り、①所有権移転登記分の登録免許税、②信託登記を抹消する分の登録免許税、③不動産取得税がかかることになります。
ただし、委託者の地位を相続により承継させず、受益者の地位とともに移動させる旨を信託契約に定める、残余財産の帰属権利者を信託開始時の委託者の相続人にする、など、契約内容を工夫すれば、①、②の税金について軽減措置を受けられるようにすることは可能です。
以上、今回は、信託契約終了時にかかる税金についてご説明しました。
委託者と受益者、帰属権利者との関係で、かかる税金が大分変わってくることをご理解いただけたでしょうか。
信託契約内容を検討する際は、信託契約の終了時まで見据えて、お考えいただければと思います。