家族信託契約を結ぶ際、任意後見の併用を検討した方が良い場合は?

万が一、認知症などになって自分自身で財産の管理が困難になったときのための対策として家族信託契約があります。
しかしながら、家族信託契約が万能でないことは、以前、別のブログでお伝えしました。

家族信託と同様に、万一のために備える手段として任意後見契約があります。
人によっては、家族信託契約と併せて任意後見契約を結んでおく必要があります。

今回は、家族信託契約の側から見て、併せて任意後見契約を結ぶことを検討した方が良い場合について、紹介したいと思います。

家族信託と後見制度の違い

ここでまず、各種後見制度と家族信託の違いをおさらいしたいと思います。
下記の表をご覧ください。

法定後見任意後見家族信託
法律民法任意後見契約に関する法律信託法
制度の目的身上監護
財産管理
身上監護
財産管理
財産管理
財産承継
制度を利用するにあたり本人の意思(同意)不要
(補助は必要)
必要必要
効力発生家庭裁判所の審判家庭裁判所の審判
(任意後見監督人の選任)
信託契約の締結時
又は
遺言の効力の発生
対象財産全ての財産任意に選択任意に選択
財産の活用方法限定的限定的柔軟
本人が死亡終了終了終了するとは限らない
裁判所の関与の強さ強い一定程度ほぼ無し

3つとも財産管理の機能は持っていますが、関係する法律など、結構違いがあることがお分かりいただけたでしょうか。
この違いが、後見と家族信託の併用、使い分けのポイントになってきます。

家族信託の利用を検討する人は、財産を柔軟に活用したい、全く知らない人が財産管理人に就任するのは抵抗がある、という方々だと思います。
ですので、後見の制度を検討する場合は任意後見を第一に検討します。
ただし、既に認知症を発症しているなど、ご本人の判断能力が低下している場合には、後見の必要があっても、法定後見しか選択できませんのでご注意ください。

家族信託と任意後見を併用した方が良い場合

では、家族信託と任意後見を併用した方が良い場合について説明していきたいと思います。

身上監護が必要な人

まず、後見制度と家族信託の一番大きな違いは、身上監護機能の有無です。
つまり、ここに家族信託と任意後見を併用すべきか検討する大きなポイントがあります。

身上監護とは、具体的に何をするかというと、例えば、
・介護契約等の福祉サービス利用契約
・老人ホーム等の入所契約
・入院等医療契約
などです。
このほか、要介護認定の申請等も入ってきます。
これらの契約などは、本来、本人が選択して締結するものですが、病気や認知症などで判断能力が低下した後は代わりにやってくれる人が必要になります。

したがって、
・身上監護に特に配慮する必要がある場合
・将来、身上監護を必要とする可能性が高い場合
には、任意後見の併用の検討が必要になります。

必要はあるけれど家族が十分身上監護できそうだ、と言う場合には、家族信託契約を結んでおくだけでよいかもしれません。

・身上監護の必要があり、かつ、入院等に際し、家族の支援を受けられない場合
には、任意後見の併用を検討することが必須になってきます。

こういった例としては、いざとなった時、子や親族が近くに住んでいない、頼ることが難しい、というケースがあげられます。

身上監護の必要があり、家族の支援を受けられないもう一つの例としては、障がいを持つ子のために家族信託契約を結ぶ場合があります。
障がいを持つ子がいる親が自分の財産を信託した場合、自分が生きている間は子のために信託財産を管理、身上監護もできるでしょう。
しかし、親自身の判断能力が低下したり、亡くなってしまうと、財産管理だけ家族信託契約で手当てをしていても、身上監護の部分の手当が無い状態だと子が困ってしまいます。
そのため、子のために身上監護をしてくれる人がいない場合、別途、
子は任意後見契約を結んでおく必要が出てきます。
ただし、この場合、子自身に任意後見契約を締結する能力が無い場合には、任意後見ではなく法定後見制度を利用せざるを得ないこともあります。

管理して欲しいが、信託できない財産がある

家族信託で財産の管理を託す、と言っても、家族信託では自分のすべての財産を管理してもらうことはできません
信託できる財産と信託できない財産があるからです。
また、そもそも信託できない、信託が難しい財産しかない、と言う場合には、任意後見を使わざるを得ません。

信託できない、難しい財産の例としては、
・農地
・賃貸人が譲渡を承諾しない借地権
・年金が入ってくる口座そのもの
・株式、有価証券(信託口座を作れる証券会社が見つからなかったなどの場合)
があげられます。

このうち、特に気にする方が多いのは年金の入って来る口座でしょう。
年金が入って来る預貯金口座は、信託財産に入れられません。
年金は本人名義の口座にしか振り込まれません。
つまり、年金が振り込まれる口座を受託者名義に変えることはできないのです。
年金が多額に入って来るので、この口座も管理してほしい、となると、任意後見契約を結ぶ必要があります。

このほか、賃貸アパート、マンションを信託財産としていて、入った家賃の中から「受益権」として定期的に受託者から現金を手渡されるなどして、手元に入って来るお金もあったりしますよね。
こういった自分の手元にあるお金も信託財産に入っていない以上、管理されません。
将来、自分の手元に置いてあるお金の管理もできなくなってきた時には心配があるな、という場合には、任意後見契約を検討しておいた方がよいでしょう。

ちなみに、家族信託と任意後見を併用した場合、それぞれの管理対象財産は以下のようになります。

財産管理人任意後見人
(任意後見)
受託者
(家族信託)
管理対象財産・年金が振り込まれる預貯金口座
・手元現金
・信託財産以外の財産
信託財産に入れられた以下の財産
・預貯金
・不動産
・株式、有価証券


以上、今回は、家族信託契約を結ぶことを検討する場合に、併せて任意後見契約を結ぶことを検討した方が良い場合について紹介しました。
身上監護が必要か、管理して欲しい財産は何なのか、ご家族とも相談し、考えたうえで併用した方がよいのかを考えていただければと思います。

関連記事

  1. 家族信託と財産管理委任契約の違い

  2. 障がい者の生活を守る方法の一つ — 特定贈与信託とは?

  3. 家族信託の契約内容等の変更時にかかる税金について

  4. 遺言信託と遺言代用信託って何?

  5. 商事信託と民事(家族)信託の違い ― どちらを選択するべき?

  6. 信託できる財産、できない財産