相続手続のスケジュールと期限 ― 期限を必ず守らないといけない手続は?

家族が亡くなると、葬儀の手配から何から、たくさんの事をやっていかなければなりません。
ご相談を受けていると、哀しみの中で、なかなか手続を始められなかったり、仕事もあって忙しく、ついつい手続を始めるのが遅れてしまった、という方にお会いします。

しかし、相続手続の中には厳格に期限が決められているものもあり、手続が遅れると取り返しがつかなくなることもあります。
そこで今回は、改めて相続手続のスケジュールと期限について説明したいと思います。

相続に伴う主な手続のスケジュール

ではまず、主な手続のスケジュールを下記に載せます。

期限手続
7日以内死亡届
2週間以内世帯主変更の届出
国民健康保険証の返却
介護保険被保険者証などの返却
公的年金の受給停止(厚生年金は10日、国民年金は14日以内)
未支給年金の請求
1か月以内個人事業主の廃業届
3か月以内遺言書の有無、内容の確認
相続人の調査・確定(戸籍収集)
相続財産の調査
相続放棄・限定承認の手続
4か月以内準確定申告
6か月以内特別寄与料の請求
10か月以内遺産分割協議
相続税の申告・納税
預貯金や株式の名義変更・解約
不動産の相続登記
1年以内遺留分の侵害額請求
2年以内葬祭費、埋葬料の請求
高額療養費の請求
死亡一時金の請求
3年以内生命保険の保険金請求
5年以内遺族年金、寡婦年金の請求

実際には他にもやらなければならない手続はありますが、上記に挙げただけでも手続がいっぱいあって「うわっ」と思われた方がいるかと思います。
一方で、銀行のチラシや雑誌等で、こういったスケジュール表を見たことがあり「うん、知ってるよ」という方も多いでしょう。

しかし、上記に載っている手続は、目安に過ぎないもの、多少遅れても大丈夫なもの、厳格に期限が決まっているもの、とが混在しています。
そのため、たくさんある手続に混乱して、絶対に手続の期限を逃してはならないものをやり忘れ、後で困ってしまう方が、実は割といらっしゃいます。
そこで、以下に絶対に期限を逃してはいけないものについて、説明していきたいと思います。

相続放棄と相続税の申告・納税は、絶対期限厳守!

数ある手続のうち、最も期限に気を付けなければいけないのは、「相続放棄又は限定承認」と「相続税の申告・納税」です。
負債が多くて相続放棄を検討する場合や、逆に、財産が多くて相続税の申告・納税が必要な場合は、期限に間に合うよう準備を進めなければなりません。

相続放棄・限定承認

相続放棄または限定承認をする場合には、相続される人が亡くなってから3か月以内に、家庭裁判所に決まった書類を出す必要があります。
正確には、自分が亡くなった人の相続人であることを知ったときから3か月以内にやらなければなりません。

実際に自分が相続に直面してみると、「亡くなってから3か月」という期間は、かなり短く感じられると思います。
「負債があるって聞いたけど、まあ払っても残る財産があるだろう」
「何も聞いてないし、負債は無いだろう」
と悠長に構えていると、いざ負債が多額にのぼると分かった時には、「期限ギリギリ」または「期限が過ぎていた」などということになりかねません。

したがって、相続が開始して、まず急がなければならないのは、「財産の調査」です。
負債がプラスの遺産よりも多いのかどうか把握できないと、相続放棄の必要があるのかどうかわかりませんよね。

また、法定相続人が誰なのか、すべて把握しておく必要があります。
つまり「相続人の調査・確定」も急ぐ必要があります。
なぜかと言うと、相続放棄は、各相続人が単独で手続できるのですが、限定承認を選択する場合には「相続人全員」で手続しなければならないからです。
相続放棄を選択するにしても、自分だけ放棄して他の相続人を放っておくと迷惑をかけてしまいます。

なので、相続放棄又は限定承認の手続が必要な場合には、
①遺産の調査・確定
②相続人の調査・確定
この二つを急いで進める必要があります。

【相続の承認又は放棄の期間伸長の申立て】
「頑張ったけれど、財産調査も相続人調査も間に合わなさそう」
このような場合には、3か月の期限が過ぎる前に、家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間伸長の申立て」をしておきましょう。
この場合の期限も厳格に決められていますので、期限を越えないよう注意しましょう。

相続税の申告・納税

遺産が多く、相続税がかかる場合には、相続が開始してから10か月以内に、相続税の申告・納税が必要になります。

相続税の基礎控除額を超える場合は、必ず相続税の申告が必要になります。
プラスの遺産 負債 基礎控除額
であれば、必ず相続税の申告・納税が必要です。

相続税の基礎控除額は
3000万円+600万円×法定相続人の人数
です。

ここで一点、注意しなければならないことがあります。
相続税には、配偶者控除や小規模宅地などの特例があります。
「特例を使うと、払う相続税が0円」である人は一定数います。
ここで、「相続税0円だから、相続税の申告は必要ない」と考えて申告しないとアウトです。
申告しないでほったらかすと、特例も使えないうえ、延滞税、無申告加算税などが課税されてしまうのです。

特例を使うと相続税が0円になるのであれば、「特例を使います」ということで相続税の申告をしなければなりません。
つまり「遺産総額が基礎控除額を越えていたら、必ず相続税の申告が必要だ」ということは必ず覚えておいてください。

【納税は現金一括払い!】
さて、相続税の納税は「現金一括払い」が原則です。
「不動産はいっぱいあるけれど、相続税の支払いに使える現金がない!」
となると困ってしまいますね。

相続税は、相続人各自で支払います。
遺産を売って納税資金を捻出しようとした場合、遺産分割協議で話し合いがついてないと、売却が進められません。
配偶者控除やその他特例を使って相続税を抑える場合には、どう分けたら特例を最大限使えるのかも考えたいですよね。

つまり、相続税の申告・納税が必要である場合には、10か月の期限までに遺産分割協議も完了していないといけない、というわけです。

したがって、相続税の申告・納税が必要な場合
①遺産の調査・確定
②相続人の調査・確定
③遺言の有無の確認
④遺言が無い場合、遺産分割協議
を急いでやる必要がある、ということになります。

【遺産分割協議が間に合わない。納税資金が用意できない。】
遺産分割協議が申告期限までにまとまらなかった場合には、一旦未分割のまま、法定相続分で各相続人が遺産を取得したものと仮定して、各相続人が相続税を支払うことになります。
ただし、相続税申告のときに「申告期限後3年以内の分割見込書」の届出を行うことによって、小規模宅地等、相続税の各種特例を、後で受けることは可能です。

納税資金が捻出できない、と言う場合には「物納」という制度があります。
ただし、物納できる財産には条件がありますので、物納を考える場合には条件を満たす財産があるか調べておく必要があります。

このほか、不動産が遺産の半分以上を占める、やむを得ない事情がある、などの条件にあてはまれば、
・延納(延納期間15年)
・納税の猶予(猶予期間1年)
・換価の猶予(猶予期間原則1年)
といった制度を利用することは可能です。

一方、そもそも遺産の額が基礎控除額を越えず、相続税の申告・納税が要らない場合には、戸籍の収集や遺産分割協議などを、期限を気にせずゆっくりやっても大丈夫、ということになります。

準確定申告

相続税の申告の他、人によっては準確定申告をすることが必要です。
準確定申告とは、亡くなった人の所得について相続人がする確定申告です。

通常、確定申告は1年に一回、大体2月15日~3月15日の間に行います。
しかし、亡くなってしまった場合は、月1日から死亡日までに得られた所得の確定申告をする、というわけです。
準確定申告の申告期限は、死亡日から4か月以内です。

そもそも準確定申告が必要な人は、生前も毎年確定申告をしていた人がほとんどです。
亡くなった方が年金生活者で、収入が年金のみであり、その年の受給年金総額が400万円未満の場合には、この準確定申告は必要ありません。

こちらも、期限を越えてしまうと延滞税が課税されてしまうので気を付けてください。

特別寄与料

亡くなった人に対し、無償で療養看護、その他の労務を提供したことで亡くなった人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした親族は、特別寄与料を相続人に対してすることができます。
特別寄与料の請求をできる人は、相続人以外の被相続人の親族(六親等以内の血族、配偶者、三親等以内の姻族)です。

これについても期限があります。
具体的には、
①相続の開始及び相続人が誰かを知った時から6か月以内
②相続の開始から1年以内
です。

亡くなってから6か月以内、というと相続手続がまだ済んでいない場合も多いでしょう。
しかしながら、「ゴタゴタしてるのに申し訳ないから、落ち着いたら請求しよう」と考えていると、請求できなくなってしまう可能性が高いのです。

ですので、特別寄与料を請求したいのであれば、速やかに相続人に対して請求することが必要になります。

遺留分侵害額請求

遺留分を侵害する生前贈与があった場合、遺言による贈与(遺贈)があった場合、遺留分権利者は、遺留分侵害額請求をすることができます。
遺留分侵害額の請求は、
①遺留分を侵害する贈与又は遺贈を知った時から1年以内
②相続開始の時から10年以内
にしなければなりません。

遺留分の侵害を知りながら、1年間何もしないでいると「侵害した分をお金でよこせ」とは言えなくなります。
また、遺留分の侵害を知らなくても相続が開始してから10年経つと権利は消滅してしまいます。

いかがでしたでしょうか。
特別寄与料や遺留分侵害額請求、保険金の請求などは、忘れてももらえないだけです。
しかしながら税金に関しては、期限を忘れると払う税金が増えてしまうので特に注意が必要である、ということがお分かりいただけたでしょうか。
また、負債が多く、相続放棄又は限定承認をしたい場合には、財産調査・戸籍収取などを急ぐ必要があるということをご注意いただければと思います。

関連記事

  1. 遺留分侵害額調停を通して、隠された相続財産を明らかにさせることはできる…

  2. 私道の評価額はどう計算する?

  3. 親が生命保険に入っていたか分からない時には? ― 生命保険照会制度

  4. 遺言の存在を知らずに遺産分割協議をしたらどうなる?

  5. 被相続人(亡くなった人)の証券口座を探すには?

  6. 養子と相続