家族信託契約をすれば、どのような財産でも財産管理・処分を託せる(信託できる)のかというと、そうではありません。
今回は、家族信託において、信託できる財産とできない財産について、簡単に説明したいと思います。
信託できる財産
信託できる財産は、財産的な価値があり、金銭的価値を評価できる積極(プラス)財産です。
具体的には、
・預貯金、現金といった金銭
・土地、建物といった不動産
・株式、国債などの有価証券
・自分が経営する会社の事業や株式(自社株)
・特許権や著作権などの知的財産
が挙げられます。
信託する財産については、信託しない財産と分けて管理しなければなりません(分別管理義務)。
そのため、金銭であれば、受託者名義の信託口口座を開設し、その口座に入金して管理します。
不動産であれば、委託者から受託者に所有権を移転し、信託の登記を入れて、第三者から見ても「これは信託されている(受託者に預けられている)財産である」とわかるようにしておかなければなりません。
ここで一点、勘違いされる方が多いのでお伝えしますが、預貯金については、委託者の預貯金口座をそのまま管理できるわけではありません。
どういうことかと言うと、例えば、年金が入ってくる親の口座を、そっくりそのまま受託者名義に変えて管理する、ということはできません。
したがって、預貯金口座に入っているお金は、一旦おろして、受託者名義の信託口口座に預け入れる、ということが必要になります。
借地権(土地を借りてその上に家を建てているケース)についても信託することが可能です。
ただし、地主さんとの関係がありますので、事前に地主さんの了承を得ておくことが大切です。
信託が難しい財産
上に信託できる財産の例を挙げましたが、信託法上、信託は可能だけれども、現実には信託が難しい財産があります。
それは下記のような財産です。
・農地
農地の所有権移転には、農業委員会の許可又は届出が必要です。
農業委員会の許可が得られない以上、所有権の移転ができないので、これは信託財産である、という登記ができません。
また、農業協同組合等が信託を引き受ける場合を除き、農地の信託は原則禁止とされています。
そのため、農地転用許可を得るなどして、農地を非農地化しない限りは信託の登記ができない、つまり分別管理ができないため、信託することが難しい、ということになります。
・有価証券
国債や上場株式といった有価証券は、証券会社の口座で管理しているかと思います。
信託するのであれば当然有価証券も、受託者名義の口座を開設して、そこで管理する必要があります。
ところが、現時点ではまだまだ受託者名義の信託口口座を開設してくれる証券会社が少ないです。
つまり、分別管理が難しい財産は、信託法上は信託できるけれども、現実には信託が難しい、というわけなのです。
信託できない財産
信託できる財産は、プラスの財産に限られ、消極(マイナス)財産は信託の対象になりません。
したがって、借金、住宅ローン、保証債務、といった債務は、信託できない財産となります。
とは言え、不動産を信託したい場合に、その不動産に係る借入金が信託できないと、困る場合があります。
このような場合には、不動産は信託財産に入れ、債務については、その不動産を管理する受託者が債務引受けをすることにより、実質的にマイナスの財産も信託したのと同じような状態にすることがあります。ただし、受託者に債務引受けをさせる前に、債権者である金融機関の承諾を取り付ける必要があります。
また、年金受給権、生活保護受給権など、その人自身に属する権利も信託できない財産です。
まとめ
以上をまとめますと、信託できる財産は、
①金銭的価値を評価できる積極(プラス)財産であること
②信託しない財産から分離して、分別管理ができるもの
この2点の条件を満たせるもの、ということになります。