今回は、家族信託設定後、信託継続中にかかる税金について説明したいと思います。
固定資産税・都市計画税
自宅やアパートなどの不動産を信託財産にした場合、当然、その不動産にも固定資産税や都市計画税が課税されます。
では、この固定資産税や都市計画税は誰が払うことになるのでしょうか。
信託契約を結んだあと、信託財産は受託者に預けられますので、不動産の所有者(登記名義人)は「受託者」になっています。
したがって、固定資産税や都市計画税は、受託者が支払います。
とはいえ、登記上、所有権が受託者に移動しているからといって、受託者はその不動産を自分の自由に使っているわけではありません。
受託者は、あくまで委託者のために不動産を管理しているだけですよね。
つまり、固定資産税や都市計画税は、信託事務を処理するための「費用」なので、受託者は、固定資産税や都市計画税を信託財産の中から支払うことができます。
さて、ここで一つの問題が出てきます。
信託財産の中から費用を払うことができるとしても、信託財産の中に現金がなかったら、受託者は必要な費用を払うことができませんよね。
家族信託契約で管理してほしいのは不動産だけだとしても、不動産と共に一定のお金も信託する必要があるのは、このように税金などの管理費用を受託者が払う必要があるからだ、ということを、ここであわせてご理解いただければと思います。
信託財産から生じた収益にかかる税金
信託契約継続中に、信託財産から収益が生じれば、当然税金が課税されます。
信託財産から生じた収益の例としては、例えばアパートを信託した場合のアパート収入(家賃)が挙げられます。
アパートの大家さんであった父親が高齢となり、自分でアパートの管理が難しくなってきたため、アパートの管理を任せるために息子を「受託者」とする家族信託契約を結んだとします。
そしてアパートの管理費用を差し引いた残りの家賃を、父親は「受益者」としてもらうことにしました。
家賃収入があるので、これまで毎年父親は確定申告を行い、所得税を払っていました。
さて、家族信託契約を結んだあと、この所得税の確定申告や、所得税を払うのは誰になるのでしょうか。
これに関しては、今までどおり、父親になります。
信託財産から生じた収益については、受益者が申告・納税を行わなければならないのです。
民法上では、所有権は受託者に移動していますが、所得税法上は、受益者が資産及び資産にかかる負債を所有しているとみなされるからです。
注意点1
ここで注意しなければならないのは、上記のアパートの例でいえば、受託者である息子が家賃収入を賃借人から受け取った時点で、受益者である父親に課税が発生する、というところです。
息子から実際に、家賃を父親が受取っているかどうかに関係なく、課税が発生するのです。
受託者を通り抜けて受益者に課税することから「パススルー課税」と呼ばれています。
また、受益者の総収入金額・必要経費又は収益・費用の計算にあたっては、受益者が信託にかかる収益の分配として受けたものを基礎に計算するのではなく、信託財産にかかる収益・費用を基に計算する、というところにも注意が必要です。
つまり、上記のアパートの例で言えば、父親が息子から実際に受け取った家賃だけで計算するのではなくて、息子が預かっている信託財産全体から生じた収益・費用を基に計算するということになります。
他の例として、信託財産が株式であれば、源泉徴収や管理費用を差し引かれる前の配当金全額が配当所得の金額となります。
注意点2
不動産を信託財産とした場合には、もう一つ注意点があります。
かつて、民法上の組合の事業から生ずる損失を利用した節税スキームが流行したことがありました。
同様のことが信託を利用することにより可能であるため、節税スキームを防止するために、ある措置が取られています。
何かというと、受益者である個人の不動産所得の金額の計算上、信託財産から生じる不動産所得にかかる損失の金額はなかったものとみなされる、というものです。
したがって、信託している不動産に損失が生じても、信託をしていない不動産にかかる不動産所得の金額や他の所得の金額との損益通算をすることができません。
また、純損失の繰り越しをすることもできません。
以上、今回は信託継続中にかかる税金について、ご説明しました。
家族信託契約を検討する際には、この信託継続中にかかる税金の注意点にも気をつけていただければと思います。