遺言も家族信託も、特定の人に財産を承継させることができるという機能を持っています。
しかし、どう違うのか、よくわからない方も多いかと思います。
そこで今回は、遺言と家族信託の違いについて説明します。
効力発生時期
まず、それぞれの効力はいつ発生するのかについて見ていきます。
遺言:遺言を書いた人が亡くなった時
家族信託:信託契約を結んだ時
※遺言信託(遺言で信託を定めた時は、遺言を書いた人が亡くなった時)
効力発生時期の違いによる影響は?
さて、効力発生の時期が違うと、どのような影響が出てくるか想像できるでしょうか。
遺言を書いた後、実際にいつ亡くなるかは誰にもわかりませんよね。
1年先なのか、10年先なのか。
とすると、遺言を書いた当時と亡くなったときの財産は、同じ状態であるとは限らないということが想像できるでしょう。
生活のために貯金を取り崩すこともあるでしょう。
必要があって売却してしまったり、気が変わって誰かに財産の一部をあげる可能性もあります。
とは言え、遺言を書いた後、自分の財産を自分で処分するのは自由です。
このほか、認知症になって、成年後見人がつき、その成年後見人が本人の生活費を賄うのに必要と考えて、誰かに遺贈するつもりだった財産を処分してしまう可能性もあります。
亡くなった後、いざ遺言を開けてみたら、遺言に書かれている財産が無い、ということは十分ありえる、ということです。
財産が無くなっているものがあった場合には、残っている財産にだけ、遺言の効力が及びます。
また、遺言は何度でも書換えが可能です。
遺言は、日付が一番新しいものに一番強い効力があります。
ここに一つ遺言の危ういところがあります。
軽度の認知症になった状態のときに、一部の悪い相続人にそそのかされて、その相続人に有利な内容の遺言に書換えさせられることがあるのです。
つまり、遺言は書いた人が亡くなるまでは効力が発生しないので、当初考えたとおりになるとは限らない、ということです。
一方、家族信託の効力は、契約締結の時から発生します。
信託財産として組み入れられた財産については、契約書に書かれている通りに管理・処分されます。
したがって、当初考えた計画通りに財産を渡せる、ということになります。
しかし、自分が気が変わった時には、自分一人でいつでも自由に財産を処分したい、と考える人にとっては逆に不自由に思えるでしょう。
財産の承継のされ方
財産の承継のされ方は、次のような違いがあります。
遺言:すべての財産が相続人や受遺者に一括で承継される
家族信託:信託財産を一括で承継させることも、分割して給付することもできる
遺言は、亡くなった時に一括で相続人や受遺者に財産が引き継がれます。
一括で渡すと多額の財産に有頂天になって、あっという間に浪費してしまうタイプの相続人も中にはいますよね。
「財産をあげたいのはやまやまなんだけれど、きちんと管理できないから心配だな」
そう思っても、分割で少しずつ渡すことができません。
一方、家族信託の場合には、一定額を定期的に、委託者から渡したい相手(受益者)に財産を渡してもらうこともできます。
「財産はキチンと管理できる人に管理してもらいたい」、「定期的に少しずつ相手に財産を渡してもらいたい」と考える場合には、家族信託契約の方が便利だと思います。
財産が承継される時期
財産が承継される時期にも違いがあります。
遺言:遺言を書いた人が亡くなった時
家族信託:①委託者の生前、②委託者が死亡した時、③委託者の死亡後
遺言は、遺言を書いた本人が亡くなった時にしか財産承継できませんが、家族信託は、承継時期を契約内容で定めることができます。
①は、生前贈与に似ています。
③の「死亡後」というのはいわゆる「後継ぎ遺贈型の受益者連続信託」を使う場合です。
後継ぎ遺贈型の受益者連続型信託を使う例として、よくあげられるのが次のようなケースです。
「後妻がいて、後妻との間には子がいない。
自分の死後、後妻が住む場所に困らないよう自宅不動産を後妻にあげたい。
しかし、後妻に自宅を相続させると、後妻の死後は見知らぬ後妻の親族に自宅不動産が相続されてしまう。
だから、後妻の死後は、自分の血がつながった先妻との間の子に自宅不動産をあげたい。」
家族信託であれば、第一受益者を「後妻」、第二受益者又は信託終了後の権利帰属者を「先妻との間の子」としておけば、後妻の親族側に自分の財産が流れるのを防げます。
一方、遺言は、自分の死後の時点の財産承継について定めておくことしかできません。
遺言の中に「自分の死後は後妻に相続させる」と書くことはできても「後妻が亡くなった後は、先妻の子に相続させる」と書くことはできないのです。
後妻に頼んで、「自分が亡くなった後は、先妻の子に夫の自宅不動産を渡す」という内容の遺言を書いてもらうのも難しいでしょう。
たとえ一旦は協力してもらって後妻にそのような内容の遺言を書いてもらったとしても、後妻が後で遺言を書き直してしまえば、自分の意思は実現できません。
遺言と家族信託の併用
ここまで、遺言と家族信託のちがいについて説明してきました。
が、必ずしも
「遺言か。家族信託か。」
という二択で決める必要はありません。
併用は可能だからです。
また、以下のような場合には、家族信託契約を結んでも、併せて遺言を作成しておいた方がよいかと思います。
①特定の人に渡したい財産があるが、その財産は信託できない財産である
②信託したい財産と信託したくない財産がある
③家族信託契約締結時には存在していなかった財産がある
④認知や未成年後見人の指定など、身分行為について定めたいことがある
どういうことか以下に説明します。
①信託できない財産がある
遺言はすべての財産について定めておくことができますが、家族信託はすべての財産を信託財産に入れることができません。
年金が振り込まれる預貯金口座や農地など、信託ができない・難しい財産について承継先を決めておきたいときには、その財産につき遺言の作成が必要です。
②信託したくない財産がある
「これだけは人任せにせず、自分で管理したい」などの事情で、特定の財産を信託財産に入れたくないこともありますよね。
信託財産にしたくはないが、自分が亡くなった後に渡したい相手は決まっているという場合には、遺言を書いておく必要があります。
③家族信託締結時には存在していなかった財産がある
家族信託契約を結んだ後、贈与を受けるなどして新たに財産が増えることもあります。
その場合、追加信託をすることもできますが、遺言で承継先を決めることもできます。
④身分行為について定めたいことがある
家族信託ができるのは、財産のことについてだけです。
・実は隠し子がいて、その子の認知をしたい。
・まだ幼い未成年の子がいて、自分の死後、その子に後見人が必要であることがわかっているため後見人を指定しておきたい。
といった身分行為は、遺言でないとすることができません。
ですので、こういった身分行為について決めておきたいことがある場合には、遺言の作成が必要になります。
以上、今回は、遺言と家族信託の違い及び併用についてご説明しました。
「ウチはどちらの方がよいかわからない」
「併用した方がいいのかな」
など、お悩みの際は、いつでもご相談をお受けしますので、お気軽にお問合せくださいね。