最近、一部で家族信託がもてはやされていますが、家族信託は本当に使える、認知症及び相続対策なのか疑問に思ったことはありませんか。
今回は、家族信託のメリット・デメリットや他の相続対策方法との違いについてお伝えしたいと思います。
メリットとデメリットは何?
家族信託のメリットとデメリットを他の相続対策・認知症対策と比べてみます。
メリット
まずはメリットを見てみましょう。
遺言 | 成年後見(法定) | 家族信託 |
・本人一人で内容を決められる ・事情や気持ちが変わったら何度でも描き直しができる ・相続発生後、話し合いをしなくても財産の承継ができる(相続人間の仲が悪くても遺言内容がきちんとしていれば相続手続が進む) ・子の認知、特定の相続人の廃除なども遺言の中でできる ・自筆証書遺言であれば作成費用0円 ・将来取得する財産も遺言の対象にできる | ・本人の財産を確実に守ることができる ・家庭裁判所や後見監督人の監督下に置かれるので特定の推定相続人(将来相続人になる可能性のある人)に財産を使い込まれる恐れがない(家族間・推定相続人間の仲が既に悪い場合に特に有効) ・悪徳訪問販売員としてしまった本人の売買契約などを後見人が取り消すことができる ・身上監護ができる | ・生前・死後両方の財産対策ができる ・認知症が進行した場合の財産凍結の対策ができる ・不動産、株式などの相続による共有化問題を回避できる ・二次相続、三次相続の承継先も指定できる ・受託者(本人の財産を預かり、管理・処分する人)を家族の中で決められる |
家族信託が優れていると言われるのは、遺言の機能と後見の機能を持ち合わせているところです。
ただし、遺言と後見それぞれのすべての機能を持ち合わせているわけではないことにご注意ください。
表を見てわかるように、子の認知や特定の相続人の廃除などは、家族信託ですることはできません。
デメリット
では、デメリットはどのようなものがあるでしょうか。
下記の表をご覧ください。
遺言 | 成年後見(法定) | 家族信託 |
・専門家に内容をチェックしてもらっていない自筆証書遺言の場合、内容に不備があるためにかえって相続人間で揉めたり、預金の払い戻し・不動産登記などの相続手続ができない、といった結果になることがある ・二次相続、三次相続の承継先は指定できない | ・家庭裁判所が後見人、後見監督人を選任するので、本人や家族の希望通りの人が選ばれるとは限らない ・本人が認知症から回復、又は死亡するまで後見人や後見監督人に報酬を払い続けなければならない ・生前贈与、節税対策、新たに生命保険に加入する、古くなった実家を建て替えるなど本人の財産を柔軟に使うことはできなくなる | ・家族間で話し合いが必要 ・家族構成によっては受託者に適した人が見つからないことがある ・受託者は無限責任を負う ・専門家の関与なしに信託契約書の設計・作成が困難 ・身上監護機能はない ・悪徳訪問販売員としてしまった本人の売買契約などを取り消すことはできない ・判例が少なく、実務が確率されていない部分が多い ・希望の金融機関に信託口口座が作れないことがよくある ・信託の対象にできるのは現在所有している財産のみ |
ちなみに遺言、成年後見(法定後見)は家族の仲が悪くても使える制度ですが、家族信託は家族の仲が悪かったら使うことができません。
家族信託には身上監護の機能がないことから、成年後見との併用をする場合もあります。
成年後見制度との違いは
家族信託とよく比較されるのが成年後見制度です。
では、どのような違いがあるのでしょうか。
こちらも主な違いを表にまとめましたので、ご覧いただければと思います。
法定後見 | 任意後見 | 家族信託(民事信託) | |
財産管理者 | 家庭裁判所が選任した後見人 | 任意後見契約で定めた後見人 | 信託契約で定めた受託者 |
権限 | ・財産管理 ・法律行為の代理 (本人の行為の取消権有り) | ・財産管理 ・法律行為の代理 (原則、本人の行為の取消権は無し) | 信託された財産の管理・処分 |
身上監護機能 | 有り | 有り | 無し |
財産の積極的処分・運用の可否 | 積極的な運用や合理的理由のない処分は不可 | 積極的な運用や合理的理由のない処分は難しい | 信託目的(契約内容)の範囲内で自由な処分・運用が可能 |
財産の処分などについての家庭裁判所の許可 | 要 | 契約内容に盛り込んであれば不要 | 不要 |
財産管理者を監督する者 | 家庭裁判所 成年後見監督人 | 任意後見監督人(家庭裁判所が選任) | 委託者(本人) 受益者(信託契約の利益を受ける人) 信託監督人(定めた場合) 信託代理人(定めた場合) |
報告先 | 成年後見人が家庭裁判所・成年後見監督人に定期的に報告 | 任意後見人が任意後見監督人に定期的に報告 | 原則、年一回、受託者が財産状況開示資料を受益者に報告。 一定の場合には、毎年1月31日までに信託計算書を税務署に提出 |
報酬 | 家庭裁判所が決定。 財産額等に応じて月額2~6万円+付加報酬が付く場合がある。 | 任意後見人の報酬は契約で決めておく(家族であれば0円も可能)+任意後見監督人報酬(月額は法定後見人の半額の1~3万円) | 報酬は契約で決めておく。 0円にすることも可能。 |
本人が亡くなった時 | 後見終了。 本人の相続人らが遺言又は遺産分割協議により財産を取得。 | 後見終了。 本人の相続人らが遺言又は遺産分割協議により財産を取得。 | 信託契約内容によっては終了しないことも。 預貯金口座凍結の回避も可能。 次の受益者や残余財産の帰属権利者が、受益権や残余財産を取得。 |
家族信託は本当に成年後見より優れている?
よく言われるのが、成年後見を使うと「財産を柔軟に動かせなくなる。」ということです。
では、「柔軟に動かせなくなる」とは具体的にどういうことでしょう。
例えば、
・株式などの上場有価証券や、不動産投資等の積極的な資産運用をすることはできなくなる。
・新たに生命保険契約をすることはできなくなる。
つまり老後の生活資金の目減りを防ぐための積極的な資産運用や生命保険を使っての相続税対策などができなくなりますね。
・子、孫への贈与(お年玉、お小遣いも含む)ができなくなる。
・孫が大学に合格した、などの場合にお祝金をあげることもできなくなる。
生前贈与ができなくなるので、生前贈与を使った相続対策もできなくなります。
・自宅や所有している賃貸アパートを売却又は建て替えようと考えた場合、家庭裁判所の許可が必要になる。
合理的な理由がないと許可が出ません。とくに賃貸アパートの建て替えはハードルが高いでしょう。
自宅をバリアフリー住宅にリフォームする場合も大きなお金が動くことになるので許可が必要になります。
・自社株の議決権行使を経営専門外の成年後見人に任せることになる。
会社を経営していて自社株を持っている人は、議決権の行使を社外の、しかも会社を経営したこともない人に任せないといけなくなります。
財産を柔軟に動かせなくするのは、「成年後見制度は本人の財産を守る。」ということを重要視しているからです。
その点、家族信託は信託契約書の内容にのっとって、本人(委託者)の財産を受託者(財産の管理・処分等を任された人)が管理・処分するので、契約内容によっては柔軟に財産を動かせますし、その際家庭裁判所の許可も必要ありません。
以上を見ると「やはり家族信託にしようかな。」と感じるかもしれませんね。
しかし、成年後見ではできて、家族信託ではできないこともあります。
例えば、老人ホームなどの施設との契約、介護保険契約、医療の契約など、身の回りの手続きや契約、つまり「身上監護」と呼ばれる機能は家族信託にはありません。
一人住まいをしているところに悪徳訪問販売員がやってきて、高級布団など買わされてしまった場合に、本人に代わって「取り消します。」と言うこともできません。
成年後見(法定後見)は、後見人を裁判所が探して選んでくれるので、近しい親族や身寄りがいなくても利用できます。
一方、家族信託は、そもそも家族の中に受託者(本人の財産を預かり、管理する人)として適当な人がいない又は見つからなければ、信託契約を組むことができません。
まだ新しい制度なので、判例も確立されていない、という点での不安要素もあります。
つまり、家族信託も万能と言うわけではないのです。
あなたやあなたの家族にとっては、家族信託は合いそうでしたか。
違いをよく知ったうえで、使うか使わないかを決めてみてくださいね。