遺言執行者の義務・権限・権利

遺言を確認したところ、あなたが遺言執行者に指定されていることがわかりました。
このような場合、どのような義務が発生するのでしょうか。
一方で、どのような権利や権限があるのでしょうか。
今回は、この点について説明したいと思います。

遺言執行者に指定されていたら、必ず遺言執行者にならないといけない?

さて、遺言執行者の義務などを説明する前に、この点を説明したいと思います。

法律では、
「遺言執行者に指定されている事を知り、遺言執行者となることを承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない(民法1007条1項)」
と規定されています。
「承諾したとき」となっていますので、遺言執行者になることを拒否することはできます。

ちなみに、未成年者や破産をした人は遺言執行者になることはできません(民法1009条)。

遺言執行者になることを拒否した場合、代わりの遺言執行者はどうするのか、心配になるところですよね。
このような場合には、利害関係人、つまり相続人や受遺者などの請求で家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらうことができます。(民法1010条)。

義務

さて、遺言執行者になることを承諾した場合には、次のような義務が発生します。

直ちに任務開始(民法1007条1項)

遺言執行者になることを承諾したならば、直ちに遺言執行者としての職務を開始しなくてはなりません。

遺言内容の通知 (民法1007条2項)

遺言執行者は、遺言の内容を、すべての相続人に通知する義務があります。

財産目録の作成と交付 (民法1011条1項)

遺言執行者は遺産の状況を速やかに調べて、財産目録を作成しなければなりません。
そして、その財産目録を相続人に交付する必要があります。

相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為(民法1012条1項)

遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする義務があります。
これは義務であると同時に権利でもあります。

遺贈の履行(民法1012条2項)

遺言の内容に「遺贈」するものがあり、遺言執行者がいる場合は、遺贈は遺言執行者のみがすることができます。

善管注意義務(民法644条・1012条3項)

遺言執行者は、善良な管理者としての注意をもって、任務を遂行する義務があります。
「善良な管理者としての注意」とは、その人の職業や社会的地位から考えて通常要求される程度の注意です。

報告(民法645条・1012条3)

相続人から請求があったときには、遺言執行の状況等について報告する義務があります。

受取物引渡し(民法646条・1012条3項)

遺言執行にあたって受領した金銭やその他の物、収受した家賃などは、相続人に引き渡さなければなりません。

補償義務(民法647条・1012条3項)

相続人や受遺者に引き渡すべき金銭を自分のために使ってしまったたときは、使った日以降の利息を支払わなければなりません。
また、使ったことによって更に損害が出たときは、その損害を賠償する責任を負います。

以上が、遺言執行者の義務です。
たくさん義務が課せられているな、と感じた方は多いかと思います。
とは言え、人の財産を預かって行う仕事なので、内容としてはごく当然の義務ばかりです。

権限

次に権限を見ていきましょう。

その前に一つだけ、遺言執行者の行為の効果について説明しておきます。
民法では、
「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる(1015条)」
とされています。

一方、相続人は、
「相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない(1013条1項)」
とされています。
中には遺言の内容に不満を持つ相続人が出てくることもありますが、相続人が遺言執行者の仕事の妨害をすることは禁じられているのです。

では、権限について説明します。

相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為(民法1012条1項)

義務のところでも出てきましたが、遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をすることができます。
遺言執行をするにあたり当然の権限と言えるでしょう。

対抗要件を備える(民法1014条2項)

遺言執行者は、対抗要件を備えることができます。

対抗要件とは、法律関係や権利関係を当事者以外の第三者に主張するための法律要件のことです。
代表的なものとして、不動産登記があります。

具体的に遺言執行者が何をするかと言うと、例えば、
・亡くなった人から相続人に不動産の名義変更の登記(相続登記)をする
・債権の譲渡通知をする
といったような行為です。

預貯金の払戻し解約(民法1014条3項)

遺言が、特定の財産を特定の相続人に相続させる内容のものであったときには、遺言執行者は、預貯金の払戻し・解約をする権限があります。

復任権(民法1016条)

遺言執行者になったものの、自分一人で遺言執行をすることが難しいこともありますよね。
その場合、遺言執行者は自分の責任で、第三者に自分の任務をやってもらうことができます。

権利

最後に、遺言執行者の権利について説明します。

費用の償還(民法650条・1012条)

遺言執行者は、遺言を執行するために必要な費用を支出した場合、相続人に対してその費用の償還を請求することができます。

具体的にどのような費用か例を挙げると

・財産目録の作成費用
・不動産の登記費用
・不動産の分筆費用
といったものになります。

報酬の請求(民法648条・1018条)

遺言執行者は、遺言執行を行ったことについて相続人に報酬を求めることができます。
報酬額は、家庭裁判所に決めてもらうこともできます。
ただし、遺言に報酬を定めてあったときは、それに従います。

以上が、遺言執行者の義務・権限・権利となります。

遺言執行者となることを承諾した以上、誠実に遺言の内容を実現しなければなりません。
そのために法律で上記のような義務が課され、必要な権限などが遺言執行者に与えられている、ということが、ご理解いただけたでしょうか。

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