「自分の死後、ペットの世話をしてくれる家族がいない」
このような場合、後に残されるペットがどうなるか心配ですよね。
ペットには飼育費用がかかりますから、「あとよろしく」と親戚であれ、友人・知人であれ、気軽に頼みづらいところがあります。
「お世話してもらう財産は残すから、大切なペットの世話を頼みたい」
さて、このような場合、ペットのために家族信託はできるのか?
今回は、「ペット信託」について説明していきたいと思います。
ペットを受益者として家族信託はできない
「ペットのために財産を残し、お世話と共にその財産を管理してもらう」
目的は、はっきりしています。
ところが、ペットは法律上、権利義務の主体となることができません。
したがって、「ペットの利益ために」と思ってもペットを「受益者」として家族信託契約書を作成することはできません。
受益者のいない「受益者の定めのない信託(目的信託)」という契約形態もあるのですが、これをお勧めすることはできません。
なぜなら、目的信託は、税務上法人課税信託とされ、法人税や法人住民税が課されるなど、重い税負担が生じるからです。
また、そもそも目的信託の場合は、純資産額が5000万円を超える法人等でなければ受託者(財産の管理人)になることができない、という制限があります。
ペットのために、このような規模の法人を探すなど現実的ではありませんよね。
ペットのために家族信託するには?
では、ペットのために家族信託を契約することはできないのでしょうか?
方法はあります。
どうするかと言うと、まず、ペットでなく、ペットのお世話をしてくれる人を「受益者」とします。
ペットの世話にかかる費用として金銭を「信託財産」とします。
ペットために金銭を管理してくれる人を「受託者」とします。
この時に注意しなければならないことが一つあります。
「ペットのお世話をしてくれる人」と「そのためのお金の管理をしてくれる人」を同一人物にしてはいけません。
受益者=受託者としてしまうと、そのような状態になった時から1年間で信託は終了してしまいます。
なぜなら、信託は他人(受益者)のために受託者が財産を管理する制度なので、受益者と受託者が同一人物であることは信託の趣旨にそぐわないからです。
つまり、ペットのために家族信託契約を設定するのであれば、最低2人の人にお願いをしなければならない、ということになります。
とすると、例えば、ペットショップに相談してお世話を頼み、ペットショップを「受益者」にします。
ペットショップに定期的に費用を支払うことを親族又は友人・知人に頼んで、この親族又は友人・知人を「受託者」にする。
という契約の仕方が考えられます。
通常、家族信託契約では信託報酬を設定することは少ないですが、このケースでは、お金を管理してくれる人のために信託報酬を設定した方がよいでしょう。
家族信託以外の方法
では、家族信託以外でペットのために取れる手段は無いのでしょうか。
実は、次のような方法があります。
負担付遺贈・負担付死因贈与契約
ペットの世話を行うことを負担として、ペットの世話をお願いする相手に、まとまった財産を自分の死後に贈与する(遺贈する)という内容の遺言を作っておく。
または負担付死因贈与契約を結んでおく、という方法があります。
ペットの世話のお願いをするわけですから、世話をしてくれる人に贈与(遺贈)するものは、お金が適切でしょう。
「自分の死後、お金がいくら残るかわからないから」
などと考えて、不動産をあげると不動産取得税や登記費用がかかってしまい、お願いする相手に更に余計な負担がかかってしまいますので避けましょう。
【注意点】
贈与するとして、気を付けないといけないところは他にもあります。
具体的には、
・財産を受取った相手に、相続税が課せられる可能性がある。
・遺言でお願いした場合(遺贈)、相手に、自分の死後、遺贈を拒否される可能性がある。
・死因贈与契約を結んだ場合、やはり契約を相手が拒否したいとなったときに撤回が難しい。
というところです。
遺贈は、遺言により、こちらの一方的な意思でするものですので、自分の死後、遺言を開けて初めてペットの世話をお願いされていると知った相手が「そのようなお願いは困る」と考えれば、拒否ができてしまいます。
万一拒否されてしまったら、あなたの大切なペットが困ってしまいますね。
なので、遺贈でお願いする場合には、事前に相手の了承をしっかり得てから、遺言を作成するのがよいでしょう。
一方、死因贈与契約は、自分と相手とで合意して契約を結んでおくので、遺贈と違って、いざとなった時に一方的に相手に契約を撤回されることは防げます。
とはいえ、遺贈であっても死因贈与契約であっても、額によっては相手に相続税が課せられる可能性があります。
お相手が自分の法定相続人でなければ、相続税がかかるときは通常の2割増しです。
「相続税がかかるなんて聞いてない!」と言われるトラブルを避けるためにも、あらかじめ税金のことについても話しておきましょう。
ペットの情報はきちんと残しておく
これまで、ペットをお世話してもらう契約について説明してきました。
とは言え、どのような手段で頼むにしろ、ペットの情報をきちんと伝えておかないと、お世話をする人も適切にお世話ができませんよね。
ですので、
・ペットの名前
・種類
・性別
・生年月日(年齢)
・エサの好き嫌い
・かかりつけの病院
といった情報も書き記しておき、お世話する人に情報が渡るようにしておきましょう。
以上、今回はペットのための家族信託と、他の取り得る手段についてお伝えしました。
当事務所では、ペットのために「家族信託を組みたい」「遺贈したい」というご相談もお受けしております。
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