2014年に俳優の高倉健さんが亡くなられた後、その遺産などを巡って、肉親と養女の間で争いがあることが週刊誌などで報道されたことがありましたね?
さて、お付き合いしていた女性を妻として入籍するのではなく、なぜ養女(養子)にしたのか?
真相は当事者のみしか知らないことですので、勝手な推測はできません。
が、遺産相続の点から見たときに、妻にする場合と養子にする場合とで、どう変わってくるのか?
今回は、この点についてみてみたいと思います。
実子がいない場合
まず、これまでに結婚したことがなく、他に子がいない場合をみてみましょう。
高倉健さんの場合は、このケースのようですね。
本人の両親は既に亡くなっているものとします。
本人には妹が一人いるとします。
【妻にした場合】
妻の法定相続分は4分の3、妹の法定相続分は4分の1です。
二人の間に子がいない場合、兄弟姉妹も相続人となりますので、妻は夫の兄弟姉妹と遺産分割協議が必要になります。
【養子にした場合】
お付き合いしていた相手を妻ではなく、養子にした場合には、兄弟姉妹は相続人にはなりません。
養子にすれば全財産をすんなり渡すことができるわけですね。
であるならば、養子にした方が有利なのか、と考えるかもしれませんね。
しかし、妻にした場合であっても、「全財産を妻に相続させる」という遺言を書いておきさえすれば、愛する女性に全財産を渡すことは可能です。
兄弟姉妹には遺留分(遺言があっても請求できる最低限の取り分)がありませんので、このような遺言さえ用意しておけば、遺留分の問題も発生しません。
遺言書を作成するには、公正証書遺言で作成すると最低でも数万円の手数料がかかります。
また、公証役場に依頼をしてから実際に作成されるまでには日数もかかります。
一方、成人している相手を養子にするにあたっては、お金はかかりませんし、当事者の本籍地又は居住地の市区町村へ養子縁組届を出せば、その日から親子関係が発生します。
紙一枚の届を出すだけで、遺言も書かないで全財産を愛する女性に渡せるなら、養子縁組した方が楽そう、と考えるでしょうか?
しかしながら、相続税のことを考えた場合には、妻にした方が圧倒的に好都合です。
妻であれば、法定相続分額又は1億6千万円のいずれか大きい額までは、相続税の配偶者控除が受けられるからです。
養子の場合には、このような特別の控除はありません。
実子がいる場合
では、これまでに結婚したことがあり、子がいる場合はどうでしょうか?
離婚した前妻との間に実子が二人いるものとします。
【妻にした場合】
後妻の法定相続分は2分の1、子A、子Bの法定相続分はそれぞれ4分の1です。
実子には遺留分がありますので、「全財産を後妻に相続させる」と書いたとしても、子らが遺留分を請求してきたときには、後妻と子らとの間で話合いが必要になります。
ちなみに上記の相続関係における子らの遺留分は、法定相続分4分の1×2分の1なので、それぞれ8分の1ずつです。
【養子にした場合】
あえて妻ではなく、養子にした場合、実子二人、養子一人で当分に分けることになるので、それぞれ3分の1が法定相続分になります。
この場合も、遺言で「全財産を養子に相続させる」と書いても、実子との間で遺留分の問題が発生します。
したがって、遺留分を請求された場合のお金をどう用意しておくかの対策を考えておくことが必要になるわけです。
実子が二人以上いる場合、妻にする場合と養子にする場合とでは、妻にした方が法定相続分が大きいことがわかりますね。
つまり奇をてらって、愛する女性を養子にするよりも、素直に妻にした方がいいでしょう。
いかがだったでしょうか?
実子がいる場合には、妻にした方が財産を多く渡せるけれども、遺留分の問題が出てくることには変わりがありません。
実子がいない場合には、妻にする場合と養子にする場合で法定相続分が変わってきます。
ただし、それでも相続分の問題は適切な遺言書を書けば解決できますし、相続税の面を考えると妻にした方が好都合なので、わざわざ養子にする必要性もない、ということがお分かりいただけたでしょうか?