遺言で不動産をもらったなら、所有権移転登記は、できるだけ早く済ませましょう。
法定相続分で不動産を相続人全員で共有にした、というような場合には、それほど危険はありません。
が、2019年からの大規模な民法改正で、早めに登記を済ませないと、ある落とし穴にはまる可能性があるのです。
具体的に、どういう事になるのか、例をあげて説明したいと思います。
お父さんが、遺言を残して亡くなりました。
お母さんは既に亡くなっていたために、相続人は長男と二男の二人。
遺言の内容は「すべての財産を長男に相続させる」となっていました。
長男は「登記手続は後でやればいいや」と思い、放置していました。
ところが、遺言の内容を快く思わなかった二男が、遺産の実家の土地建物を法定相続分で相続登記の申請をしてしまいました。
(民法第252条但し書きの「保存行為」として、法定相続人の一人が、法定相続分で相続登記をすることは、他の相続人の委任状なしにできてしまいます。)
そして、すぐに自分の持ち分を第三者に売ってしまいました。
さて、この場合、長男は「遺言で私がすべてもらうことになっていたのだから」と、第三者に「返せ」と言うことができるのでしょうか?
【改正前】
改正前は、長男は登記をしていなくても、遺言があるために第三者に実家の所有権の全てを対抗できました。
つまり、法定相続分を超えた部分についても「返せ」と言うことができました。
「遺言があったなんて聞いてないよ!」
と困ったのは第三者のほうです。
ところが!
【改正後】
改正後の現在は、長男は第三者に対して、法定相続分2分の1を超える部分について所有権を対抗できません。
つまり、実家の土地建物は、見知らぬ第三者と「共有」するはめになってしまいました。
例を見て、お分かりになったかと思いますが、改正により、第三者の保護(取引の安全)がより強化されたのです。
不動産については、自分が所有者であっても登記をしていなければ、他の人に「自分が所有者である」と主張ができません。
「自分が所有者だ!」と主張する人が二人いたら、先に登記を済ませた方が勝ちなのです。
改正前は、遺言があった場合には、登記をしていなかったとしても、上記の原則は適用されていませんでした。
ところが、改正後は遺言があったとしても、登記をしない限り、「法定相続分を超える部分」について、第三者に対抗できなくなってしまったのです。
ですので、登記はなるべく早く済ませましょう。
法務局の保管制度を利用していない自筆証書遺言だと、家庭裁判所の検認の手続が必要であるため、検認の手続を済ませない限り登記手続には進めません。
つまり、相続が開始してから、実際に遺言どおりに登記ができるまでに時間がかかってしまうのです。
こういった危険がある、ということを念頭に置いて、相続人や受遺者のことを考え、遺言は公正証書遺言か、法務局の保管制度を利用することも併せて考えてみてくださいね。