遺産分割調停の進み方

遺産分割協議は、基本的には相続人間で話合いを進めます。
しかしながら不幸にして、どう分けるか意見がまとまらない、取り分を巡って喧嘩になってしまって話が進まない、といった場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることが必要になってきます。
そこで今回は、遺産分割調停になった場合、どのように手続が進むのか、見ていきたいと思います。

調停の内容

まず、遺産分割調停では何をするのかを、見ていきたいと思います。
下記の図を見てください。
これらのことを順番に進めていきます。
一つ一つ、合意ができたら次に進む、という感じです。

遺産分割調停の流れ
もう少し具体的に説明していきたいと思います。

①相続人の範囲の確定
まず、誰が相続人なのかを確定します。
代襲相続人がいないか、自分たちが知らない間に縁組していた養子がいないか。
隠し子がいないか、前に別れた配偶者との間に子はいなかったか。
逆に欠格事由に該当したり、廃除されたりして、相続人から外される人はいないか。
漏れの無いように確認します。

②遺産の範囲の確定
次に遺産の範囲を確定します。
原則として、被相続人が亡くなった時点で所有していて、現在も存在するものが、遺産分割の対象となる遺産です。
ここで、「現在も存在するもの」というのが重要なポイントです。
死亡時は存在したけれども、遺産分割で話し合った時には存在しないものについては遺産分割の対象となりません。
例えば、相続人の誰かが、被相続人の口座からお金を下ろして使ってしまったり、値打ちのある骨董品を売ってしまった、というような場合です。

ただし、相続人たちが無くなってしまったものについても「遺産に含める」と合意すれば、分割対象にできます。
この際の合意には、お金を使ってしまった、骨董品を売ってしまった相続人の同意は不要です。

負債については、遺産ですが遺産分割の対象にはなりません。
法定割合で当然分割されるものなので、話し合う必要がないからです。

ちなみに、葬儀費用や香典、遺産管理費用(死後に発生した固定資産税、水道光熱費、修繕費など)、遺産から生じた収益(死後に発生した家賃収入、配当金など)は遺産ではありません。
ただし、家賃収入や配当金など遺産から生じた収益については、当事者全員が遺産分割の対象とする旨の合意をした場合には、遺産分割の対象に含めることができるとした判例(最判平成17年9月8日)はあります。

③遺産の評価
遺産の確定ができたら、遺産分割の対象となる財産のうち、不動産などの評価額を確認します。
現金預貯金と違い、不動産など値動きがあるものは、いつの時点の評価額で計算するか確定させる必要があるからです。

原則として、遺産の評価は遺産分割時の評価額で計算します。
ただし、調停においては、当事者全員が同意するのであれば、不動産の場合、固定資産税評価や相続税評価の額を用いることも可能です。
評価を巡って争う場合には、当事者がそれぞれ不動産業者に作成してもらった査定書や、不動産鑑定士に鑑定してもらった鑑定書を出して主張します。

それでも相続人間で評価額の合意ができない場合には、裁判所が選任した不動産鑑定士に鑑定評価を依頼することになります。

この際の鑑定費用は、相続人が負担せねばならず、あらじめ費用を納める必要があります。
鑑定費用の負担割合は相続割合ですが、この費用負担も争うとこれも裁判所が決めます。
また、鑑定評価が出るまでには2か月程度かかることが多く、更に調停の決着が先に延びることになります。

③遺産の評価、④各相続人の遺産の取得額の決定の手続にまたがるところですが、特別受益(生前贈与や遺贈で受けた利益)や寄与分(被相続人の財産の維持・増加に貢献した人に付加される相続分)についても評価・計算をします。

④各相続人の遺産の取得額を決定します。
②で確認し、③で評価した遺産について、各相続人がどれだけ取得するか話し合います。
特別受益や寄与分がある場合には、各自主張し、それらも考慮して各相続人の取得額を調整していきます。
一番時間がかかるのは、この段階であることが多いです。
「お兄ちゃんはマンションの頭金を出してもらった」
「介護は私が全部やって、他の兄妹は手伝ってくれなかった」
「親に借金を立て替えてもらっていた」
などなど。
主張するにあたっては、各自証拠となるものを出していくことになります。

⑤遺産の分割方法を決定します。
分割方法は、現物分割、代償分割、換価分割、共有の4つの方法から選ばれます。
分割方法の優先順位は、1現物分割(その物を分ける)、2代償分割(物を分けるが差額をお金で調整する)、3換価分割(物を売って、売った代金を分ける)、4共有です。

分割方法を巡っても、家族によっては合意形成が難航することも。
現物で分けると差額が出て不公平、代償分割するには物を取得する側に差額を払うだけのお金がない、先祖代々に渡る家屋敷を売るなんてとんでもないから換価分割は考えられない、などとここでも合意ができないと、最終的に共有になってしまいます。

さて、いくつもの段階を経なければならないことがおわかりいただけたでしょうか?
ここまですべて合意ができれば、晴れて調停成立となります。

調停手続の流れ

調停で何をするかを見たところで、調停手続全体の流れも見ていきましょう。

①申立て
まずは、家庭裁判所に申立てをします。
申立先は、申立人の相手方の住所地又は、当事者が合意で定める家庭裁判所です。
相手方は必ずしも争っている相手方でなくても構いません。
複数の相手方(相続人、包括受遺者、相続分の譲受人)がいる場合には、申し立てるのに自分に一番都合のよい住所地にいる相手方の住所を管轄する裁判所を選ぶことも可能です。

申立てに必要なものは、申立書、事情説明書、収入印紙、連絡用郵便切手、相続人全員の戸籍謄本・戸籍の附票(住民票)、固定資産評価証明書などです。

申立ててから第1回目の期日までの間は2か月以上あくことが多いです。

②期日に裁判所に行きます

裁判所の職員に呼びに来るまで、待合室で待ちます。
待合室は、申立人待合室と相手方待合室があり、申立人と相手方が、お互い顔を合わせずに待機できるようになっています。
ただし、待合室には他の申立てをしている人たちも入って待っていることがあります。

②申立人、相手方が交互に調停委員と話をします。

申立人、相手方は交互に部屋に呼びだされ、それぞれ調停委員と話をします。
話合いの場所は、テレビで見るような法廷ではなく、小さな会議室です。
おおよそ30分くらいずつで申立人と相手方が交互に会議室の中に入って調停委員と話をし、それぞれの意見を述べます。
つまり、基本的に話合いは、申立人と相手方が顔を合わせないで進められるようになっています。
ただし、双方に争いが無い場合や、同じ意向の相続人がいる場合には、複数の相続人が一緒に話をすることもあります。

この調停委員会は裁判官1名と調停委員2名で構成されます。
調停委員は、必ずしも相談の専門家とは限りません。
一般市民の良識を調停に反映されるため、社会生活上豊富な知識経験や専門的な知識を持つ人から選ばれています。
原則として、40歳以上、70歳未満の人で、弁護士、医師、大学教授などの専門家のほかに、地域社会に密着して活動してきた人など、各分野から選ばれています。

③調停期日に何度か行き、合意を目指す。

1か月から2か月に1回程度、期日が設けられ、その度に裁判所に出向かなければなりません。
裁判所は土日祝日はやっておりませんので、当然期日は平日です。
1回の時間はおおむね2時間程度です。

原則として、調停委員が期日の進行を行い、裁判官は大事な局面以外には調停自体に参加することはありません。
「調停の内容」に挙げたことを順番に審理し、一つ一つ申立人と相手方の合意形成を目指します。

調停は、長いと2年以上継続することもあります。
そもそも申立てから第1回目の期日までに2か月以上あくことが多いので、調停を申し立てたら早く手続が進むとは思わない方がよいでしょう。
とくに、相続税がかかる場合、相続税の申告期限は死亡から10か月ですので、この期間内に遺産分割調停が決着する可能性は限りなく低いと思っておいたほうがよいかと思います。

④調停の成立
調停が成立すると、裁判所が調停調書を作成します。
この調停調書は、預貯金の解約・名義変更、不動産の登記などに必要なので、各当事者は調停調書の原本・謄本の取得を裁判所に請求する必要があります。

調停が不成立だった場合

不成立の場合には、取下げの場合と不成立の決定の2つがあります。
申立人は、調停事件が終了するまでの間はいつでも遺産分割調停の申立てを取り下げることができます。
この取下げに理由は不要です。
取下げるにあたって、相手方の同意も不要です。

調停が不成立(成立しなかった場合)決定した場合には、審判に移行します。
審判と調停のまず大きな違いは、調停の際は申立人と相手方が顔を合わせないように進行していきますが、審判に移行すると、嫌でも顔を合わせなければならなくなります。
また、調停は、合意さえできれば各人の遺産の取得分を柔軟に決めることが可能でしたが、審判になると法定相続分以外で分けることはほぼありません。

以上、今回は遺産分割調停について見ていきました。
当事者間だけでの話合いで遺産分割協議がまとまらないと、どう手続が進むか、どう大変か、というところが少しはおわかりいただけたでしょうか?

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