「みなし相続財産」
このような言葉は聞いたことがない方が多いでしょう。
しかし、みなし相続財産は、たいていの相続において発生するので、今回はこの「みなし相続財産」について説明したいと思います。
みなし相続財産って?
法律的には、亡くなった人から相続又は遺贈によって取得したものではないけれども、実質的には相続または遺贈により取得した財産と同様の経済的効果を持つものがあります。
このような財産として代表的なものとして、死亡保険金があります。
受取人が指定されている死亡保険金は、その指定された受取人の「固有の財産」となります。
つまり、法律的には相続または遺贈によって取得したものにはあたりません。
したがって、遺産分割や遺留分の請求対象にはなりません。
しかし、人が亡くなったことによって受け取る財産であることは、他の相続財産と変わりがありませんよね。
そこで、相続税法では、課税の公平を図る見地から、このような財産を相続または遺贈により取得したものとみなして相続税の課税対象としています。
これを「みなし相続財産」と呼んでいます。
みなし相続財産の例
みなし相続財産には次のようなものがあります。
・死亡保険金
被相続人が保険料を負担していたもの。
・死亡退職金(功労金なども含まれることがあります。)
被相続人の死亡により出た退職金で、死亡後3年以内に支給が確定したもの。
・弔慰金
会社が遺族に贈る金銭です。
・生命保険契約に関する権利
被相続人が保険料を負担していたもので、かつ被相続人以外の人が保険契約者である契約の保険事故未発生分。
相続開始の時に当該契約を解約するとした場合に支払われることとなる解約返戻金の額で評価します。
・定期金に関する権利
被相続人が保険料を負担していたもので、年金や保険金などを定期的に受取る権利。
被相続人が死亡したことで、別な人にその定期金を受取る権利が移動したもの。
・補償期間付き定期金に関する権利
・契約に基づかない定期金に関する権利
・信託受益権
・遺言によってされた債務の免除
債務を免除されると、免除された人には利益がありますよね。
したがって、この利益も課税対象、というわけです。
みなし相続財産と本来の相続財産の違い
みなし相続財産と本来の相続財産の違いを表にまとめましたので、ご覧ください。
みなし相続財産 | 本来の相続財産 | |
遺産分割 | 対象外 | 対象 |
遺留分 | 対象外 | 対象 |
相続放棄をした場合 | 受け取れる | 受け取れない |
限定承認をした場合 | 受け取れる | 限定承認時に債務額が財産額を超えると受け取れない |
相続税 | 課税対象 | 課税対象 |
相続税の基礎控除・非課税枠 | 非課税枠あり ※死亡保険金・死亡退職金について | 基礎控除あり 3000万円+600万円×法定相続人の人数 |
上記の表は、あくまで原則です。
例外もありますので、その点にはご注意ください。
例えば、みなし相続財産は、遺産分割・遺留分の対象外とされていますが、一人の相続人だけに過大な死亡保険金が渡るようにし、遺産分割・遺留分の対象となる相続財産は極端に少なくしておくなど、著しく不公平な財産配分であるとみなされる場合には、特別受益として遺産分割・遺留分の計算をする際に持ち戻されることがあります。
みなし相続財産は相続放棄をしても受け取れるのですが、承継させたい財産だけ相続人に承継させ、いらない財産や負債を相続人が負担しないで済むようにしておくなど、債権者を害する目的があからさまな相続放棄は詐害行為として取り消される可能性があります。
非課税枠
みなし相続財産のうち、死亡保険金や死亡退職金については非課税枠があります。
生命保険金:500万円×法定相続人の人数
死亡退職金:500万円×法定相続人の人数
ただし、相続放棄をした場合には、相続放棄をした人は死亡保険金や死亡退職金を受取れても、非課税枠は使えませんのでご注意ください。
この非課税枠は、本来の相続財産の基礎控除とは別途となるので、生命保険をうまく使えば、非課税枠を増やして節税対策として使うことが可能です。
亡くなった人が勤務していた会社から遺族に贈られる弔慰金にも非課税額があります。
非課税額は死亡原因が、業務上によるものか、そうでないのかによって変わります。
業務上の死亡:死亡時の普通給与×36か月分
業務外の死亡:死亡時の普通給与×6か月分
さて、みなし相続財産についてざっと説明しましたが、いかがだったでしょうか。
遺産分割の対象でなくても、相続税の課税対象であることから、混乱する方も多いですが、少なくとも生命保険金と死亡退職金は、他の相続財産と扱いが違う、ということは覚えておいていただければと思います。