任意後見契約 — 手続の流れと必要書類

将来のために、自分で選んだ信頼できる人に自分の財産管理などを頼んでおきたい。
そう考えた場合に締結しておくのが任意後見契約ですが、どのような準備・手続が必要なのでしょうか。
今回は、任意後見契約の手続の流れなどについてみていきたいと思います。

任意後見契約の手続の流れ

任意後見契約は、法定後見とは違い、契約によるものなので、後見をお願いした本人が、契約内容をきちんと理解できるうち(つまり判断能力があるうち)でなければ、契約を締結できません。
全体の流れは次のとおりです。

【判断能力低下前】
① 本人が、後見を頼みたい人を選び、その相手に実際に後見をやってくれるかどうかの意思を確認します。

② 任意後見契約内容、後見人になってくれる人に与える代理権の内容を決めます。
併せて、将来できる限り自宅で暮らすつもりなのか、早めに老人ホームに入るつもりなのか、老人ホームに入る場合には自宅は処分するのか、など将来のライフプランも考えます。
この時、任意後見に詳しい、行政書士、司法書士、弁護士といった専門家に相談に入ってもらうと、アドバイスももらえますし、しっかりした内容の契約、漏れのない代理権目録を作成することができるかと思います。

③ 公証役場で、任意後見契約公正証書を作成します。
法律により、任意後見契約書は公正証書で作成しなければならないことになっています。
つまり、自分たちで契約書を単に作成するだけでは任意後見契約は成立しません。
したがって、公証役場に行って作成する必要があるのです。

④ 任意後見契約の登記がされます。
任意後見契約は、公証人の嘱託を受けて登記されます。
登記されることで、実際に任意後見が開始したときには、法務局から登記事項証明書の交付を受けて、任意後見人は自己の代理権を証明することができるのです。

【判断能力低下後】
① 精神科医に診断書を作成してもらいます。
判断能力が低下したことが判明し、いよいよ後見が必要そうだとなったら、精神科に診察してもらい、判断能力の低下を証明する診断書を作成してもらいます。

② 家庭裁判所に任意後見監督人の選任の申立てをします。
必要書類を揃え、任意後見契約発効の前提となる、任意後見監督人の選任を家庭裁判所に申立てます。
事案により、本人調査、受任者調査、本人の精神鑑定が、家庭裁判所によって行われます。
また、親族の意向調査が行われることもあります。

③家庭裁判所の裁判官が、任意後見監督人を選任します。
裁判官は、本人の心身の状況や、生活・財産状況、任意後見人受任者の職歴や経歴、本人の意見などから総合的に判断して、任意後見監督人を選びます。
任意後見監督人には、弁護士、司法書士、社会福祉士といった専門職の方が選ばれます。

任意後見監督人が選任されると、その旨の審判書が出ます。
同時に、任意後見監督人が選任されたことが法務局に登記されます。
こうして、任意後見が開始します。

任意後見契約締結にかかる費用と必要書類

任意後見契約を締結するにあたりかかる費用と必要書類は下記のとおりです。
【費用】

公証人役場の手数料:1万1000円
正本・謄本の作成手数料:1枚250円×枚数
法務局に納める印紙代:2600円
法務局への登記嘱託料:1400円
書留郵便料:約540円

任意後見契約に併せて、財産管理委任契約などを締結する場合には、公証人役場の手数料が上乗せになります。
このほか、行政書士、司法書士、弁護士に任意後見契約の内容につき相談、契約書、代理権の文案作成を依頼した場合には、その分の手数料がかかります。

【必要書類】
本人(任意後見をお願いする人):印鑑登録証明書(または運転免許証、マイナンバーカードなど顔写真付きの本人確認書類)、戸籍謄本、住民票
受任者(後見をする人):印鑑登録証明書(または運転免許証、マイナンバーカードなど顔写真付きの本人確認書類)、住民票
※印鑑登録証明書、戸籍謄本、住民票はいずれも発行から3か月以内のものに限られます。

任意後見監督人選任に係る費用と必要書類

任意後見監督人選任の申立てができる人は、本人、配偶者、4親等内の親族、任意後見受任者です。
4親等内の親族とは、親、祖父母、子、孫、ひ孫、兄弟姉妹、甥、姪、おじ、おば、いとこ、配偶者の親、子、兄弟姉妹になります。

【申立てできる裁判所】
本人の住民票上の住所を管轄する家庭裁判所

【申立て費用】
収入印紙2200円(内訳:申立て費用800円、登記費用1400円)
郵便切手(管轄の裁判所によって異なります。)

【申立てに必要な書類】
・任意後見監督人選任申立書
・申立事情説明書
・任意後見受任者事情説明書
・親族関係図
・本人の財産目録及びその資料
・本人の収支状況報告書及びその資料

このほか、添付書類として、
・診断書
・本人情報シートのコピー
・本人の戸籍抄本
・任意後見受任者の住民票又は戸籍の附票
・任意後見の登記事項証明書(任意後見契約締結時に公証人が登記を嘱託したものです。)
・本人が登記されていないことの証明書
・任意後見公正証書のコピー
が、必要になります。

本人情報シートは、日頃本人を支援している福祉関係の方に、本人の生活状況等を記載してもらう資料になります。
申立書、収支状況報告書、本人シートなどは、こちらからダウンロードできます(東京家庭裁判所の場合)。

任意後見の登記事項証明書と本人が登記されていないことの証明書は、東京法務局の後見登録課又は全国の法務局・地方法務局の本局の戸籍課の窓口で発行されます(支局や出張所では発行してもらえません)。
郵送での請求は、東京法務局後見登録課のみに対してできます。

このほか、本人の判断能力がどの程度あるのか確認するために精神鑑定が必要になった場合には、その鑑定費用がかかります。
鑑定費用は、およそ10万円~20万円です。

任意後見監督人は、本人が自分で選ぶことはできません。
家庭裁判所が職権で選任します。

いったん申立書を提出すると、任意後見監督人が選ばれる前でも、家庭裁判所の許可を得ないと申立ての取下げができませんので、ご注意ください。

任意後見監督人に支払う報酬も、家庭裁判所が決めます。

任意後見契約を取り消すには?

任意後見契約を結んだけれど、気が変わってしまった場合、契約を取り消すことは可能です。
法定後見と違い、任意後見契約は契約なので、契約の解除によって終了します。
ただし、契約締結後、どの段階にあるのかによって、解除の方法が異なります。

【任意後見監督人の選任前】
任意後見監督人の選任前、つまり任意後見契約が開始する前は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、契約を解除することができます。
解除の請求は、任意後見をお願いしている本人からも、任意後見を受任している人からも請求することができます。
双方の合意によって解除する場合には、合意解除書に公証人の認証を受ければすぐに解除の効力が生じます。
一方の当事者からの解除の場合には、解除の意思表示をした書面に公証人の認証を受け、この書面をもう一方の相手方に送付して解除したことを通告します。

【任意後見監督人の選任後】
任意後見監督人の選任後、つまり任意後見契約が始まっている場合は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、解除することができます。
こちらも、本人からも受任者からも、解除を請求することができます。

 

関連記事

  1. 後見人報酬の助成金 — 成年後見助成基金とは?

  2. 任意後見人になれる人は?

  3. 後見制度支援信託とは

  4. 成年後見人等の報酬額と後見人に親族ではなく専門家が選任される目安は?

  5. 後見人を解任できる・解任されてしまう場合は?

  6. 一人暮らしの高齢者の日常生活の手続・金銭管理の福祉サービス