結論から先に言います。
農地を信託財産に入れるのは、難しいと考えてよいでしょう。
なぜなら、農地の所有権の移転をするには、農業委員会の許可または届出(原則、市街化調整区域は許可、市街化地域は届出)が必要だからです。
(「農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない」農地法第3条1項)
農地を信託するにあたって農業委員会の許可を受ける必要がないのは、原則として「農業協同組合法第十条第三項の信託の引受けの事業又は農業経営基盤強化促進法第七条第二号に掲げる事業(以下これらを「信託事業」という。)を行う農業協同組合又は農地中間管理機構が信託事業による信託の引受けにより所有権を取得する場合及び当該信託の終了によりその委託者又はその一般承継人が所有権を取得する場合」(農地法第3条1項第14号)だけです。
また、農業協同組合等が信託を引き受ける場合を除き、農地を信託することは原則禁止とされています(農地法第3条2項3号)。
不動産を信託財産に入れる場合には、委託者から受託者へ所有権移転登記をすることが必要です。
農地を贈与するわけでも、売買するわけでもなく、「委託者の農地を受託者に管理してもらう」ために所有権を移転するのですが、所有権移転ができなければ、信託契約を結んだとしても信託の効力が生じません。
信託する不動産が複数あったとして、一部が農地だった場合、農地だけは信託の効力が生じない、ということになるのです。
農地を信託財産にしたいのであれば、農地転用の許可(農地法第4条)か、転用目的権利移転の許可(農地法第5条)により、非農地化する必要があります。
つまり、いずれにしても農地を農地のまま、信託財産にすることはできない、ということです。
どうしても、許可を受けて非農地化する前に信託契約を結びたい、というのであれば、農地法の許可等を受けることを条件とする「条件付信託契約」にするほかありません。
ここで注意しなければならないことがあります。
たとえ登記簿上の地目が農地でなくても、現況が農地である場合は農地法の適用を受ける農地となります。
また、現在は何も栽培していない、休耕状態の農地であっても、他の人から見ていつでも耕作できるような状態であれば、やはり農地として扱われてしまいます。
現況は農地ではないけれども、登記上の地目が農地である場合は、地目を農地以外に変更できれば、信託財産とすることは可能です。