相続対策のために「養子を取る」という手法があると聞いたのだけれど・・・
世の中には、「養子縁組」を相続対策に使う人もいらっしゃいます。
この場合、養子縁組を使う目的は、
①節税
②遺産分割・遺留分対策
の2つであることがほとんどです。
(跡継ぎがいない夫婦が、相続人でない人に財産を渡すために養子縁組をすることもありますが、今回の説明では省きます。)
今回は、上記のような目的で養子縁組をしようと考えた場合について注意すべき点について説明したいと思います。
節税目的で養子縁組をする場合
相続税の基礎控除は、3000万円+600万円×法定相続人の数です。
財産の多さに比べて、将来相続人になる人の数が少ない(例えば、子が一人しかいない)といった場合には、子の配偶者や孫を養子にすることを考えることがあります。
民法上では、養子は何人取ってもよいことになっています。
そこで、「よし、相続税の基礎控除を増やすために、孫3人と養子縁組しよう。」と考えたとします。
さて、基礎控除は、思惑どおり3人分増やすことができるでしょうか?
答えは・・・残念!税法上、相続税の計算をする場合には、養子全員を法定相続人の数に算入することはできません。
実子(血がつながった実の子)がいる場合、普通養子は一人まで。
実子がいない場合は、普通養子は二人まで。
以上の人数しか、法定相続人の数に算入することはできません。
また、代襲相続人ではない孫養子の場合は、相続税が2割加算されてしまいます。
ちなみに、相続税を不当に減少させることを目的として行った養子縁組は「税養子」とみなされて相続税の計算上考慮されないケースもありますので、ご注意くださいね。
なお、特別養子、連れ子養子(相続される人の配偶者の実子で、相続される人の養子となった人)、代襲相続人(例えば、父より先に息子が亡くなっていた場合、父の相続のときには孫が代襲相続人になります。)で相続される人の養子となった者は実子とみなされて、養子の数の制限は受けません。
遺産分割・遺留分対策目的で養子縁組をする場合
相続のときに、将来相続人間で揉めるのが明らかな場合に、敵対的に養子縁組をする場合です。
廃除まではいかないものの、あまりに素行が悪い子がいて、その子にできる限り財産を渡したくないな、と考えた場合に養子縁組を使うこともあります。
遺言などを残しても遺留分をゼロにできない場合に、相手方や素行が悪い子の取り分を少しでも減らすため、こちら側(味方)の人数を増やすのが目的です。
「そんなことをわざわざする人がいるの?」と思う人もいるかもしれませんが、私が弁護士事務所に勤めていた際に、実際に弁護士がそのような提案をしているのを目にしたこともありますし、相手方が既にそのような方策を取っていることが戸籍を取って判明したこともありました。
この場合の注意点は何でしょうか?
一番のリスクが大きい点は、養子縁組後に仲間割れする可能性があることです。
相続人の数を増やすので、仲間割れした場合には余計に相続が揉めてしまい、遺産分割がまとまらなくなってしまいます。
①、②に共通する注意点
まず一つは、養子になる人、養子を取る人の関係によっては、養子になる人が姓を変えなければならなくなります。
(このパターンについての説明は、今回は省きます。)
姓を変えると運転免許証、銀行口座だけでなく様々な名義の姓をすべて変えなければならなくなるので、その手続に時間が取られて面倒なことになるでしょう。
もう一つの注意点は非常に重要です。
養子を取る際に、まず「孫」を養子に取ることを考える人が多いと思います。
この孫が「未成年者」だった場合が要注意です。
まず、孫を養子に取ると「親権」は実の父母から養親となった祖父母に移ります。
養子縁組後は、親権者の同意が必要な場合(契約など)、実の父母ができなくなるわけです。
また、孫が成人しないうちにこの祖父母が亡くなって相続が開始した場合は、親権者がいないので「未成年後見人」を立てなければならなくなってしまいます。
「未成年後見人」の選任手続は家庭裁判所でしなければなりません。
仮に実父(孫養子の父)が未成年後見人になれたとしても、実父と子(孫養子)が兄弟の関係になってしまっており、利害が対立してしまうため、遺産分割の話し合いなどの相続手続きを進めるためには、別途、孫養子の特別代理人が必要となってしまいます。
いずれにしても、親族だけで自由に遺産分割の話し合いができなくなってしまうのです。
相続した財産額によっては、家庭裁判所から未成年者が相続した財産を信託銀行の後見制度支援信託に預けるよう指示される場合もあります。
相続対策目的で養子縁組をする場合には、上記にあげた注意点を把握したうえで、縁組するかどうか検討することをお勧めします。