まず、相続分とは、共同相続人の相続財産全体に対する各相続人の持ち分(取り分)を言います。
被相続人は、遺言で各相続人の持ち分(誰に何をどれだけ渡すか)を決めることができます。
が、被相続人が遺言を残さなかったときは、相続人全員で、誰が何をどれだけ相続するかを話し合わなければなりません。
遺産分割の基準は、「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」(民法906条)となっています。
つまり、法定相続分で分けるのが原則ではありません。
しかしながら、実際の遺産分割の話し合いでは「法定相続分で分けようか」とか「法定相続分で分けて欲しい」となることが多いようです。
そこで、良くご存知の方も多いと思いますが、改めてこの法定相続分がどうなっているのか見てみたいと思います。
法定相続分
下の表は、該当する人がそれぞれ一人だった場合の法定相続分です。
該当する人が複数いる場合には、下記の表の相続分を該当する人数で分けます。
相続人 | 法定相続分 |
配偶者と子(または孫) | 配偶者:2分の1 子(または孫):2分の1 |
配偶者と父母(または祖父母) | 配偶者:3分の2 父母(または祖父母):3分の1 |
配偶者と兄弟姉妹(または甥・姪) | 配偶者:4分の3 兄弟姉妹(または甥・姪):4分の1 |
例えば、相続人が配偶者と子で、子が3人の場合、一人一人の子の相続分は、2分の1÷3=6分の1になります。
相続人が兄弟姉妹で、兄弟姉妹が4人の場合、一人一人の兄弟姉妹の相続分は4分の1÷4=16分の1になります。
子が養子であった場合も、非嫡出子(婚姻関係にない父母の間に生まれた子)であっても、法定相続分は変わりません。
相続の開始時期で法定相続分は変わる
何等かの事情で相続手続を長年放置したものがあり、いよいよ相続手続をしなければならなくなったときには、相続開始がいつだったのか、まず確認しましょう。
例えば、田舎の方で、先代、先々代名義のままになっている不動産が見つかった場合などです。
このときに、うっかり現在の法定相続分で計算すると、やり直しが必要になってしまいます。
現在の法定相続分になったのは、昭和56年1月1日(改正は昭和55年)からです。
配偶者の相続分が拡張されたのは、昭和56年からなのです。
下に配偶者の相続分の新旧の対照表を載せます。
相続人 | 配偶者の相続分 | |
昭和23年1月1日~ | 昭和56年1月1日~ | |
配偶者と子(または孫) | 3分の1 | 2分の1 |
配偶者と父母(または祖父母) | 2分の1 | 3分の2 |
配偶者と兄弟姉妹(または甥・姪) | 3分の2 | 4分の3 |
法定相続分計算の具体例
さて、実際に法定相続分を計算すると、相続人の構成で法定相続分がどうなるのか、例をあげてみたいと思います。
前妻と後妻にそれぞれ子がいる場合
亡くなった夫には前妻と後妻がおり、それぞれの妻との間に子がいた場合です。
前妻との間に子が二人、後妻との間に子が一人いたとします。
まず、離婚した前妻は相続人にはなりません。
この場合相続人になるのは、現在の配偶者である後妻と後妻の子、前妻の子の4人になります。
相続人が配偶者と子なので、それぞれの法定相続分は2分の1になります。
子の2分の1の法定相続分は、子が3人いるので3人で分けます。
前妻と後妻の子の法定相続分は平等です。
したがって、後妻の法定相続分は2分の1
一人一人の子の相続分は、2分の1÷3で、6分の1になります。
半血兄弟がいる場合
さて、上記と同じく前妻と後妻がおり、それぞれの妻との間に子がいたとします。
今回の被相続人は、前妻の子のうちの一人です。
この人をAとします。
Aには妻がいましたが、二人の間に子はいませんでした。
Aの両親も、父親の後妻も既に亡くなっています。
しかし、Aには父母を同じくする兄弟(全血兄弟)BとC、父だけを同じくする兄弟(半血兄弟)Dがいました。
この場合、Aの相続人は、Aの妻と兄弟B、C、Dの4人になります。
では法定相続分を計算してみましょう。
まず、妻の法定相続分は4分の3です。
兄弟の法定相続分は4分の1です。
この4分の1を、B、C、Dの3人で分けます。
では、この4分の1を三等分するのか?、というと違います。
ABCとDとは半分しか血がつながっていません。
したがってDの法定相続分は、BCの2分の1になります。
つまり、B:C:D=2:2:1の比率で分けることになります。
そうすると、まずDの相続分は、4分の1×5分の1=20分の1
B、CはDの2倍なので、それぞれ4分の1×5分の1×2=20分の2
となります。
代襲相続人がいる場合
次に代襲相続人がいる場合を計算してみましょう。
被相続人は子A、Bの父です。
相続人は、母と子A、Bになるはずでした。
ところが、Aは父より先に死亡していました。
ただし、AにはC、Dという二人の子がいました。
この場合、C、DがAの相続分を引継ぎ、代襲相続人となります。
Aの妻は代襲相続人にはなりません。
したがって相続人は、母と子B、孫のC、Dになります。
では、それぞれの法定相続分を計算してみましょう。
まず母の法定相続分は2分の1です。
子の相続分2分の1をB、C、Dの3人で分けることになりますが、三等分するわけではありません。
そもそも子はA、Bの二人だったので、まず2分の1を二等分します。
ここで、A、Bそれぞれの法定相続分は4分の1となります。
C、Dは代襲したAの法定相続分4分の1を二人で分けます。
つまり4分の1÷2=8分の1となります。
したがって、相続人それぞれの法定相続分は、
母:2分の1
B:4分の1
C、D:それぞれ8分の1
となります。
養子縁組をした人がいる場合
家族構成は上記と同じです。
被相続人もA、Bの父で上記と同じです。
ところが、Aの妻がAの父と養子縁組をしていたとします。
母の法定相続分は変わらず2分の1です。
今回はAの妻が養子縁組をしていたため、子の代の法定相続分が変わってきます。
実子と養子の法定相続分は同じです。
つまり子が3人いることになるため、子一人一人の法定相続分は、2分の1÷3=6分の1になります。
Aは、被相続人である父より先に亡くなっていたため、Aの子であるC、DがAの法定相続分を代襲します。
今回はAの法定相続分が6分の1になっています。
したがってC、Dの法定相続分は6分の1÷2=12分の1となります。
つまり、母の法定相続分:2分の1
Aの妻の法定相続分:6分の1
Bの法定相続分:6分の1
C、Dの法定相続分:それぞれ12分の1
となるのです。
以上、4つの例をあげましたが、なんとなくどう計算していくのかお分かりいただけたでしょうか。
もっと相続人の構成は例に挙げたものに限られず、もっと相続人の数が多いケースや複雑なケースもあります。
自分で法定相続分を計算してみたけれど、複雑すぎて合っているのかわからない、と言う場合には、専門家に相談して確認してもらってくださいね。