後見制度支援信託とは、後見を受けている人(被後見人)の財産管理のために信託を利用するものです。
後見人は大きな権限を持っているため、被後見人の財産を不正に使い込んでしまうという事件が過去、たびたび起こりました。
不正行為をしていなくても、親族間で不信感が募るなどし、被後見人の財産の管理方法を巡って争いが起きてしまったことも。
そもそも被後見人の財産が多額で、財産管理における後見人の負担が多き過ぎる、というケースもありました。
そこで、財産管理のトラブルや後見人の負担を軽減するため、「後見制度支援信託」という制度が設けられました。
この制度は、最高裁判所と信託業界が協力して、2012年2月に始まりました。
この信託は、財産を委託する人(預ける人)=後見を受ける本人(被後見人)、財産を受託する人(管理する人)=信託銀行等、財産を管理してもらい、その利益を受ける人=後見を受ける本人(被後見人)、という信託契約です。
後見制度支援信託ってどんなもの?
さて、後見制度支援信託とは具体的にどのようなものなのか、どうしたら利用できるのか、まず、信託契約締結までの流れを説明したいと思います。
信託契約締結までの流れ
まず、この信託は名前のとおり後見制度を支援する信託ですので、利用するには前提として家庭裁判所に対する後見開始の申立てまたは未成年後見人選任の申立てが必要です。
このとき選任される後見人は、弁護士又は司法書士と言った専門職になります。
後見制度支援信託の利用が適当か否か検討するのは専門職の後見人が行うことになっているからです。
専門職の後見人が後見制度支援信託の利用が適当であると判断すると、この専門職後見人が信託財産の金額などを設定した報告書を家庭裁判所に提出します。
家庭裁判所は報告書の内容を確認し、問題がなければ「指示書」というものを専門職後見人に対して発行します。
すると、専門職の後見人はその指示書を持って、信託銀行などと信託契約を締結し、財産目録の作成・信託条件の設定などを行います。
信託契約が締結(設定)されると、専門職後見人は辞任し、財産管理などの後見事務が親族後見人に引き継がれます。
専門職の後見人が後見開始からその後も引き続き後見人となるケースや、後見監督人が付けられるケースについては、通常は後見制度支援信託の利用はされません。
この制度を使える人は誰?
後見制度支援信託制度を利用できるのは、法定成年後見制度及び未成年後見制度の被後見人が対象です。
同じ法定後見制度でも、被保佐人や被補助人の方は利用できません。
また任意後見契約を結んで、後見を受けている人も利用することはできません。
対象財産は?
後見制度支援信託で信託銀行に預けられるのは金銭のみになります。
不動産や高価な動産などは信託財産とすることはできません。
なお、後見制度支援信託で信託された金銭は、元本補填契約の付された指定金銭信託になります。
「元本補填契約」とは、信託財産について損失が生じた場合には、受託者(この場合は信託銀行等)がその損失を補填する、という契約です。
通常の信託では、受託者による損失補填はありません。
こういった点からも、安心して財産を預けられると考えてよいかと思います。
信託期間は?
成年後見の場合は、原則として、被後見人が亡くなるまでになります。
被後見人が亡くなった後は、残った信託財産は被後見人の相続人に相続されます。
未成年後見の場合は、原則として、未成年者本人が成人するまでになります。
成人すると、残った信託財産は本人に引き渡されます。
信託期間中は?
さて、信託契約締結(設定)後の、金銭の引き出しについて見ていきましょう。
信託設定時の家庭裁判所からの指示書において、信託財産(信託銀行等に預けている金銭)の定期的な給付が指示されている場合には、信託銀行等は、指示書の内容に沿って定期的な信託財産(金銭)の給付を行います。
具体的には、信託銀行等が後見人が管理する預貯金口座へ振込むなどして給付します。
給付を受けた後見人は、その中から被後見人のために必要な支払等を行います。
毎月の必要経費については定期的な給付で賄えるとして、被後見人が入院したり、手術を受ける必要があったり、老人ホームに入ることになったり、定期給付では足りない支出等が発生することもありますよね。
その場合には、後見人は、家庭裁判所に報告書を提出して指示書を発行してもらいます。
この指示書を信託銀行等に提出して、信託の一部解約または全部解約を請求し、必要な金銭を信託銀行等から受取ります。
つまり、信託銀行等に預けた財産は、家庭裁判所の「指示書」が無い限り勝手に引き出すことができません。
何のために、いくら本人の財産が使われるのか、家庭裁判所の事前の監視がされる、ということですね。
後見制度支援信託を利用した場合、信託銀行等に預けられている金銭については、家庭裁判所の指示書に基づいて信託銀行等が管理する、ということ、そのため被後見人本人の財産を安全・確実に保護することができる、ということがおわかりいただけたでしょうか?