任意後見契約を結ぶにあたり、複数の人に任意後見人(受任者)になってほしい、と考える人もいます。
では、複数の人を任意後見人受任者として任意後見契約を結ぶことは可能なのでしょうか?
結論としては、複数の人と任意後見契約を結ぶことは可能です。
ただし、契約の仕方により方式が変わりますし、それぞれの方式には注意点があります。
そこで今回は、複数の人を受任者とする場合の契約の方式と注意点について説明したいと思います。
共同代理方式
共同代理方式は、複数の受任者(任意後見人)が共同して代理権を行使する方式です。
メリットとしては、任意後見人全員で協議、また相互に監視することで、不正や誤りを防止することができることが挙げられます。
共同代理方式の契約は、一つで不可分の契約となります。
したがって、本人と複数の受任者(任意後見人)との間で一通の公正証書で任意後見契約書を作成します。
注意点
共同代理方式は、一つで不可分の契約となるため、以下の注意点があります。
① 受任者の一人に、任意後見人としてふさわしくない事由があるときは、他の受任者が適任であっても、全員を任意後見人として選任できない。
② 受任者(任意後見人)同士で意見の食い違いがあったときには、後見事務の処理が停滞、停止してしまう。
③ 代理権を共同行使する場合において、一人の任意後見人と本人との間で利益相反がある場合に、他の任意後見人も利益相反となってしまう。
④ 受任者(任意後見人)のうち一人が死亡すると、他の受任者が生存していても任意後見契約が終了する。
①について説明を加えます。
任意後見契約は、任意後見監督人が選任されたときから後見が開始します。
任意後見契約を結んだときは受任者全員に問題は無かったものの、任意後見監督人を選任する時点では、受任者のうち一人に不正行為などがあり、この人は後見人とするには相応しくない、と判明した場合、問題のない他の受任者についても任意後見人とすることができなくなってしまうのです。
こうなってしまうと、この任意後見契約は効力を生じなくなってしまいますので、改めて、任意後見契約を結び直すことが必要になります。
改めて任意後見契約を結び直そうと考えたときに、本人の判断能力に問題が無ければいいのですが、判断能力が低下していた場合には契約を結び直すことができませんので、法定後見制度を利用せざるを得なくなります。
④についても説明を加えます。
共同代理方式の代理権は一個の不可分の代理権なので、一人の受任者(任意後見人)が死亡すると代理権が行使できない状態となります。
そのために任意後見が終了してしまいます。
なお、全部の事項ではなく、一部の事項についてだけ共同代理の定めをしておいた場合であっても、同様です。
①~④いずれの問題も、共同代理方式が受任者(任意後見人)となった人全員で代理権を行使するために起こる問題です。
各自代理方式
各自代理方式は、複数の受任者(任意後見人)がそれぞれ単独で代理権を行使する方式です。
複数の受任者(任意後見人)が本人との間で、それぞれ個別に任意後見契約を結びます。
つまり、契約の数は複数になります。
契約は、同時に一つの公正証書を作成して行うこともできますし、各受任者(任意後見人)ごとに複数の公正証書を作成して行うこともできます。
共同代理方式と異なり、それぞれ別の契約であるため、受任者の一人に任意後見人とするのに相応しくない事由があることが後日判明しても、他の受任者が適任であれば、その受任者について任意後見監督人を選任して後見を開始することができます。
また、一人の任意後見人に本人との間で利益相反があっても、利益相反していない他の任意後見人はそのまま代理権を行使することができます。
うち一人の受任者(任意後見人)が死亡しても、他の受任者(任意後見人)に影響はありません。
注意点
各自代理方式の注意点としては以下のようなものがあります。
① 複数の契約となるため、1通の契約書で任意後見契約を締結したとしても、公証役場に支払う任意後見契約書の作成手数料等は複数分となる。
② 任意後見監督人の選任は別々になるため、移行型の任意後見契約の場合、一方の受任者については任意後見契約が開始し、他方は任意後見契約が開始せず、財産管理委任契約のままとなってしまう可能性がある。
③ 代理権目録記載の代理権につき同じ内容の代理権を行使する場合には、代理権行使の統一がとれないおそれがある。
②について、説明を加えます。
各自代理方式は、それぞれ個別に任意後見契約を結びます。
任意後見契約は、任意後見監督人選任の申立てをし、家庭裁判所で任意後見監督人が選任されたら開始します。
とくに別々の契約書で任意後見契約を結んでいた場合、一方の契約については後見が開始し、もう一方の契約については後見が開始しないことが起こり得ます。
本人の判断能力が低下しない間は財産管理委任契約、判断能力が低下したら任意後見へ、という移行型の場合、後見を開始させていない方については監督人の監督がされないまま財産管理が継続してしまう、という事態が起こり得る、ということなのです。
予備的な受任者は定められる?
では、将来任意後見人となる人(受任者)が病気になってしまったり、死亡してしまった場合に備えて、予備的な受任者を定めておくことは可能なのでしょうか?
このような方法も不可能でもなくはありません。
ただし、こちらにも注意点があります。
注意点
任意後見契約を締結すると、公証人は法務局に嘱託して契約内容を登記します。
問題はここで発生します。
後見登記法には、予備的な契約を登記する規定がないのです。
そうすると結局のところ、第一順位、第二順位の受任者を同列の受任者として任意後見契約を締結せざるを得ない、ということになります。
そのうえで特約で、「第一順位の受任者が病気や死亡により後見事務を行うことができなくなったときには、第二順位の受任者が~」と定めておくことになります。
しかしながら、この特約も登記されませんし、何より家庭裁判所は、この特約に拘束されません。
結局のところ、共同代理、各自代理よりハードルが高い契約方法であると思われます。
まとめ
以上、それぞれの方式について一通りご説明いたしました。
共同代理、各自代理、予備の受任者を定める、どの方式も可能ではありますが、それぞれに注意点があることはお分かりいただけたでしょうか。
複数の人と任意後見契約を結ぶ場合には、どれが一番自分にとって不都合がないか、よく検討し、専門家にもアドバイスをもらったうえで方式を決めていただければと思います。