自分の判断能力が低下したり、死んでしまった後、精神障害または知的障害のある子の生活はどう守っていけばよいのか?
悩ましい問題ですよね。
さて、障がいのある子の生活を守るために任意後見契約は使えるのでしょうか?
今回はこの点について見ていきたいと思います。
子自身に意思能力はあるか?
任意後見契約は、後見を必要としている人と後見人となる受任者との間で契約をすることが必要です。
まず、後見を必要とする本人に任意後見契約をこの人と結びたい、この人に後見をお願いしたい、という意思がないとそもそも契約を結ぶことができません。
つまり、親ではなく、子自身に「この人と任意後見契約を結びたい」という意思(意思能力)が必要です。
また、子自身で、どのような代理権を受任者(後見人となってくれる人)に与えるかを考えなければなりませんし、当然、任意後見契約の内容が理解できないといけません。
親としては、障害のある子の事を良く知っており、障害のある子の兄弟姉妹等、親しい関係にある人、信頼できる人との間で任意後見契約を結ばせたい、と考えるところでしょう。
しかし残念ながら、子本人の障がいの程度が重いために、後見契約を結びたいという意思表示ができない(十分な意思能力がない)、任意後見契約の内容を理解できない、という状態であれば、任意後見契約を締結することはできない、ということになります。
このような場合には、残念ながら家庭裁判所で後見人を決定する「法定後見」の利用を検討することになります。
では親自身の任意後見を子のために使える?
全く知らない人が後見人に選任される可能性のある、法定後見の利用はできる限り避けたい、と考える人も一定数いらっしゃいますよね。
では、親自身の任意後見契約を子のために利用する手段はあるのでしょうか?
障がいのある子の世話をしている親自身も高齢になれば、いつ何時判断能力が低下するか、わかりませんよね。
自分自身の判断能力が低下した時のために、親が信頼できる人との間で任意後見契約を結んでおこう、と考えたとします。
さてこの時、任意後見契約の内容に、自分の財産管理の一内容として障がいのある子の生活費を定期的に支給する、などといったことを盛り込むことは可能でしょうか?
結論としては、このような内容を、親の任意後見契約に盛り込んでおくことは可能です。
しかし、親自身が亡くなると、親の任意後見契約はそこで終了してしまいます。
したがって、親の任意後見契約に障がいのある子のことを盛り込んでおいたとしても、親の死亡後は対応ができない、ということになります。
つまり、親の死亡後は、子の生活を守るためには、結局、法定後見制度を利用せざるを得ない、ということになります。
任意後見契約が使えない場合、他に方法は?
子の障害が重く、任意後見契約を結べない、といった場合、自分の判断能力の低下・死亡後の子の生活を守るには、やはり法定後見制度を利用するのが現実的であると思います。
この他、親自身が「委託者」となって、障害のない子や親族、知人等、信頼できる人に「受託者」となってもらって民事信託(家族信託)契約を結び、障害のある子を「受益者」とする、という方法もあります。
ただし、民事信託(家族信託)は、財産の一部について管理を任せることができるだけです。
子の代わりにお金を管理してもらって、定期的に必要なお金を支給・支出してもらうことはできますが、子のために入院契約・介護サービスの利用契約をする、役所等の手続を代わりにやる、といった身上監護はできません。
民事信託(家族信託)を利用する場合でも、全面的に子の生活を守るには、やはり別途、法定後見制度を併用することが必要となってきます。