遺言としてよく知られている方式は、自筆証書遺言と公正証書遺言ですね。
実際、ほとんどの遺言は、自筆証書遺言か公正証書遺言の方式で作成されます。
しかし、法律上は、他にもいろいろな方式の遺言があります。
今回は、普段ほとんど使われることのない、その他の遺言についてもご紹介したいと思います。
各種遺言の方式
まず、遺言には大きく分けて普通方式と特別方式の遺言があります。
普通方式の遺言には、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3種類があります。
特別方式の遺言は、全部で4種類あるのですが、まず大きく、危急時遺言と隔絶地遺言の2種類に分けられます。
危急時遺言には、①一般危急時遺言、②難船危急時遺言があり、隔絶地遺言には①一般隔絶地遺言と②船舶隔絶地遺言があります。
つまり、全部で7種類の遺言がある、ということです。
では、それぞれどのような遺言なのかを説明します。
普通方式の遺言
まずは、普通方式の遺言から説明します。
自筆証書遺言(民法968条)
遺言をする本人が遺言の全文、日付及び氏名を自署(手書き)し、押印して作成する遺言です。
一番お手軽に作成できる遺言ですが、遺言者(遺言を書いた本人)の死後、この遺言で相続手続を進めるには、その前に「家庭裁判所の検認」という手続を経る必要があります。
ただし、遺言者本人が、遺言作成後、遺言書保管所に遺言を預けていた場合には、家庭裁判所の検認は不要です。
公正証書遺言(民法969条)
公証役場で公証人に作成してもらう遺言です。
2人以上の証人立会いのもと、遺言者が遺言内容を口述し、公証人がそれを筆記します。
筆記したものを公証人が遺言者に読み聞かせ又は閲覧させ、内容に誤りが無ければ、遺言者、2人の証人、公証人がそれぞれ署名・押印して、できあがり、となります。
作成される遺言は、原本、正本、謄本の3通です。
遺言者は正本・謄本を持ち帰ります。
遺言の原本は、公証役場で無料で保管してもらえます。
秘密証書遺言(民法970条)
秘密証書遺言は次のように作成します。
①遺言者が遺言書に署名・押印し、封筒にいれて封をし、遺言に署名したのと同じ印で封印をします(封書)。
②公証役場に行って、公証人及び2人以上の証人の前に、封書を提出し、自分の遺言書であることと、自分の氏名・住所を申述します。
③公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載します。
④封紙に遺言者、公証人、証人がそれぞれ署名・押印します。
署名は自筆(遺言者本人の手書き)でする必要がありますが、秘密証書の遺言には、遺言書本文はパソコンでも代筆でもOK、という特徴があります。
本文を手書きしなくてよい、と言う点では自筆証書と比べて楽なのですが、この方式の遺言を書く人はほとんどいません。
まず、公正証書遺言と同様に、公証役場に行き、証人2人に立ち会ってもらう、という手間がかかります。
しかしながら、公正証書遺言と異なり、秘密証書遺言は公証役場で保管してもらえません。
また、自筆証書遺言のように遺言保管所に保管申請することもできません。
そのうえ、遺言の中身そのものは公証人も証人も確認していないため、遺言者の死後、家庭裁判所の検認が必要になります。
遺言の内容は公証人にも秘密にできるけれども、結局のところ自筆証書・公正証書に比べるとあまりにメリットがないため、この方式の遺言を作成する人はほとんどいない、というわけなのです。
特別方式の遺言
特別方式の遺言は、いずれも普通方式の遺言が作成できない場合に取る方式の遺言です。
まず、2つの危急時遺言から説明します。
一般危急時遺言(民法976条)
病気やその他の事由により、今にも死にそうなほど死が迫っている人が遺言しよう、と考えた時にとる方式の遺言です。
作成方法は、
①遺言に立ち会う証人は3人以上、遺言は口頭で行い、証人の1人に遺言の内容を筆記してもらいます。
②筆記した内容を遺言者本人と他の証人に読み聞かせ又は閲覧させ、内容に誤りが無いことを承認してもらったら、証人が署名・押印します。
③証人の一人又は利害関係人は、遺言をした日から20日以内に家庭裁判所に請求して、その遺言の確認をしてもらいます。
です。
③の遺言の確認を家庭裁判所にしてもらわないと、この遺言は効力を生じません。
このことから普通方式の遺言より証人の責任は格段に重い、ということが、お分かりいただけると思います。
なお、遺言者が回復し、普通の方式で遺言ができるようになった時から6か月生存していたときは、この遺言は効力を失います。
難船危急時遺言(民法979条)
難船危急時遺言とは、船が遭難した場合に、船の中で死の危険が迫っている人が、証人2人以上の立会いで、口頭のみでする遺言のことです。
タイタニック号みたいな状況、と考えていただければよいかと思います。
遺言に立ち会った証人は、遺言の内容を筆記します。
そして証人は、筆記したものに署名と押印を押します。
この遺言が効力を持つためには、証人の一人又は利害関係人が、陸地に戻ったら速やかに家庭裁判所に請求して、その遺言の確認をしてもらうことが必要です。
次に2つの隔絶地遺言について説明します。
隔絶地遺言は、陸地であれ海上であれ、隔絶された場所にいるときに作成できる遺言です。
一般隔絶地遺言(民法977条)
伝染病のため、行政処分によって交通が遮断された場所にいる人が、警察官1人と証人1人以上の立会いを持って作成する遺言です。
例を挙げるならば、昔で言う、ハンセン病のように政府によって隔離政策が取られてしまったような状況に置かれた人が作成できる遺言です。
船舶隔絶地遺言(民法978条)
船舶隔絶地遺言とは、船に乗っているときに、船長又は船の事務員1人と証人2人以上の立会いを持って作成する遺言です。
この場合は、難破船ではありません。
例として挙げるとすれば、豪華客船や潜水艦に乗って、長い期間海の上にいる時に遺言を作成したいと思い立ったときに作るものでしょう。
さて、上記に挙げた4つの特別方式の遺言は、すべて家庭裁判所の検認手続が必要になります。
危急時遺言は、作成後に家庭裁判所の確認をしてもらっていますが、この確認は遺言の効力を生じさせるためのものですので、別途、検認の手続が必要なのです。
結局、「検認不要」とされているのは、普通方式の公正証書遺言(民法1004条2項)と遺言書保管所に保管した自筆証書遺言のみですのでご注意ください。
一通り、すべての遺言の種類について説明しましたが、いかがでしょう。
特別方式の遺言を作成することは、ほとんどの方はまずないと思われます。
唯一、特別方式で作成することがあるとすれば、一般危急時遺言かと思います。
ただし、「危急」という状況は、家庭裁判所において厳格に調査されます。
家庭裁判所の調査官から細かく質問されるようですので、もしこのような遺言の証人となった場合には、遺言作成時の状況を細かく覚えておく・メモしておくことが必要かと思います。