「相続税の非課税枠を増やすためにも、孫を養子にしようかな」
「配偶者も子もいない伯母から養子にならないか、と言われたけれど、どうしよう?」
など、近年は養子を取る・養子に入ることを考える人も多いようですね。
ただ、養子になるにあたり、一つネックになるのが養親の氏(姓)に変わる、というところです。
氏(姓)が変わると、運転免許証やパスポート、銀行口座の名義など、すべて変更する手続が必要になってきます。
結婚して氏が変わった方はよくご存じだと思いますが、これは結構面倒な作業ですよね。
しかし、誰かの養子になっても、条件によっては氏が変わらないことがあります。
一体それはどのような場合でしょうか?
そこで今回は、どのような場合に氏が変わり、どのような場合であれば氏が変わらないのかを説明したいと思います。
原則:養親の氏に変わる
さて、誰かの養子になると、原則として養子の氏は養親の氏に変わります。
これを定めてある規定は、民法810条です。
その内容は、
「養子は養親の氏を称する。」
となっています。
ただし、この条文には続きがあります。
続きは、
「ただし、婚姻によって氏を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は、この限りではない。」
となっているのです。
養子になっても氏が変わらない場合のポイントは、この部分にあります。
とは言え、この条文のみではよくわからないかと思いますので、どのような人は氏が変わり、どのような人は氏が変わらないのかを図と共に例を挙げて見てみたいと思います。
例1:原則
まずは原則から見ていきましょう。
山田さんが鈴木さん夫婦の養子になると、「山田」さんの氏は「鈴木」さんになります。
例2:例外
次に民法810条の但し書き、つまり例外を見ていきましょう。
山田さんは佐々木さんと結婚して妻となり、「佐々木」さんとなりました。
その後、妻「佐々木」さんは鈴木さん夫婦の養子となりました。
この場合、妻「佐々木」さんは、養親の氏である「鈴木」さんには変わりません。
「佐々木」さんのままです。
民法810条の但し書き、「ただし、婚姻によって氏を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は、この限りではない。」とは、こういうことなのです。
山田さんは結婚して夫の氏である「佐々木」に変えています。
その後に鈴木さんの養子となっても、「鈴木」さんにはならないのです。
例3:夫が他人の養子になったら?
さて、今度は婚姻時に氏を変えていない配偶者が誰かの養子になった場合はどうなるでしょうか?
加藤さんは、小林さんと結婚しました。
加藤さんは妻となった小林さんに自分の氏「加藤」に変えてもらいました。
その後、事情があって、加藤さんは阿部さん夫婦の養子となりました。
そうすると加藤さんは養父母の「阿部」に氏が変わります。
加藤さんの妻も「阿部」に変わります。
「あれ、加藤さん(夫)は結婚してたじゃないか。」
と思った人がいるかもしれません。
もう一度民法810条但し書きを見てみましょう。
「婚姻によって氏を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は、この限りではない。」
そうです。
加藤さん(夫)は小林さんとの結婚時に氏を変えていません。
小林さん(妻)に自分の氏「加藤」に変えてもらった側です。
したがって、加藤さん(夫)が阿部さんの養子になったら養親の氏「阿部」に変わるのです。
例4:夫が妻の両親の養子になったら?
さて、今度は、夫が妻の養子になった場合です。
小島さんは高橋さんと結婚しました。
小島さん(夫)は高橋さん(妻)に自分の氏「小島」に変えてもらいました。
その後、事情があって、小島さん(夫)は妻の両親高橋さんの養子となることとなりました。
そうすると、小島さん(夫)の氏は「高橋」に変わります。
妻も元の氏「高橋」に戻ります。
小島さん(夫)は高橋さん(妻)との婚姻時に、氏を変えていません。
したがって高橋さんの養子となったら、「高橋」に氏が変わります。
養父母が配偶者の両親であっても、原則どおり、というわけです。
まとめ
以上、図と共に例を挙げて説明しましたが、養子になった場合の氏の変更のルールについてお分かりいただけたでしょうか。
原則:養子の氏は、養父母の氏に変わる。
例外:養子となる前に結婚して結婚相手の氏に変えていたら、その後誰かの養子になっても氏は変わらない。
ちなみに普通養子である場合は、誰かの養子になったとしても、実父母のとの縁が切れるわけではありません。
相続が発生した場合は、変わらず実父母の相続人になりますので、相続時には気をつけてくださいね。